Run to the Another World第68話
「……ん? 何だ、あの影は?」
久しぶりに休暇を取って帝都から少し離れた場所を馬で走っていた、
イディリーク帝国王宮騎士団副団長のラルソンと団長のジアルは、
空を飛んで行く大きな謎の影に気がついた。
「あれはドラゴンじゃないのか? でも、普通のより何だかでかいな。
それに良く見てみると、背中に人影らしき物が乗っている様にも感じられるんだが」
ジアルにそう言うラルソンは何だか腑に落ちない様子だ。
「そうだな……」
得体の知れない違和感と不安を覚えたジアルとラルソンは、そのドラゴンの情報を
ラルソンが皇帝に伝え、ジアルがドラゴン達を追いかけて馬を走らせる事に
して行動を開始するのであった。
(やれやれ、やっとあの内乱から1年が経ったと思ったら……何か大きな事件の
前触れとかで無ければ良いのだがな)
ジアルはそう思いつつも、西の方へ飛んで行ったドラゴンを追いかけて行った。
あの方向には何があっただろうかと考えを巡らせると、やがて1つの結論にジアルは辿り着く。
(向こうには確か……まだそんなに調査隊が派遣されていない遺跡があったな)
確かそこの遺跡はまだ調査が終わっていないので、帝都のすぐ近くにある遺跡と
違って国によって立ち入りが禁止されている筈だし、実際に見張りの兵士達が
その遺跡の近くに駐屯している筈だ。
自分達では無く、ヴィンテスとパルスの兵士部隊がその遺跡の管轄を任されているので
帝国王宮騎士団のジアルやラルソンは良く知らないのが実情なのだが。
それでも王宮騎士団だって帝国を守る為に結成された騎士団なのだから、
帝国にやって来た怪しい奴等や不穏分子は排除しなければいけないのが任務だ。
基本的に王宮騎士団は、ローレンやジャックスが率いる皇帝や王族の
護衛が主となっている近衛騎士団とは違って世界中で戦う部隊なので、要請があれば
このヘルヴァナール世界のどんな秘境にだって任務で行く。このヘルヴァナールと言う世界は、
どうやら地図が端と端で繋がっているらしいのだ。それを最初に発見したのも冒険家の
ルヴィバー・クーレイリッヒであり、これによってイディリークとヴィーンラディが隣国であると言う事にもなる。
なのでいちいち大陸をずっと渡って行く必要も無くなるので、その点に関しては非常に貿易の面や
軍事派遣の面で役に立っているのだ。実際に王宮騎士団が遠征する時も、ヴィーンラディや
アーエリヴァには西から行く。
しかし王宮騎士団長になってからジアルは世界中を回って来たが、あれ程大きなドラゴンは見た事が無い。
(嫌な予感がするのは気のせいだろうか……?)
これだけ自分の直感を当てにしたいと思った事が今迄にあっただろうかと思う位の嫌な気配がジアルの胸を取り巻く。
あのドラゴンを見てから、それだけの感情をこうして今抱え込んでいるのだから何かがおかしいとしか思えなくなって来た。
(考え過ぎも良くないのだがな……)
それでも不安は消えてくれそうに無い。背中の槍をぎゅっと握り締めて不安を打ち消そうとしたが、やっぱり
モヤモヤはどうしても消えてくれない様だ。
(とにかく急ぐしか無いだろうな)
そう考え、まずはその町へと向かって馬を疾走させるジアルであった。