Run to the Another World第66話


フランス人のジェイノリー・セイジールはオルレアンで生まれ育った35歳。

そんなジェイノリーはこの遺跡に来る前にセルフォンの背中の上で洋子から

こんな事を聞かれていた。

「ジェイノリーさんは向こうの世界で何の仕事をしてるの?」

「俺は医師をやっているよ」

「へえ、お医者さん……にしては、凄く強いわね」

「ああ、格闘技は昔からやってるから。でもまさかこの世界に来てまで、こうして

格闘技が役に立つ時が来るとは思ってもみなかった。だけど俺はそれだけじゃ無い。

医師としてまだ俺の助けを待っている人が居るから、絶対に元の世界に帰って見せる」

そう寄せ集めサーティンデビルズの5人とセルフォンに宣言したジェイノリーはこの旅が佳境に入って

来ている事を心の何処かで実感して居たが、まだ油断出来る状況では無いと今の状況を見て思っていた。


元々医師では無く、キックボクシングとテコンドーをやっていたジェイノリー。

そんな彼が医師になろうと思ったきっかけは、キックボクシングの試合中に

怪我をした選手を治療する医師の人を見て憧れ、その頃高校生だった自分が

進路に悩んでいた時期でもあった為に、猛勉強して医療関係の大学へ行きたいと

思ったからであった。格闘技の方も医師としての勉強を傍ら続けており、キックボクシングから

派生させてムエタイを習い、それからテコンドーよりも更にトリッキーでアクロバティックな

テクニックを身につけたいと思ってカポエイラを習って来た。そうして最近では自国フランスで

発祥したサバットと言う格闘技を習い始め、ヨーロッパチームの中の足技のスペシャリストとして

君臨して居るジェイノリーは、現在では小さいながらも開業医として地元オルレアンに医院を構えている。


異世界人達のそんな話を聞き終えたセルフォンは、改めて詳しく自分の話もする事にした。

『それじゃあ某の話も改めて詳しくする事にしよう。某の名前はセルフォン。2934歳だ。

竜族の中でも特別に魔力が高い状態で生まれたドラゴンの1匹だ。使える魔法の属性は風属性。

実際にどう言った魔法が使えるのかと言うのは見て貰った方が早いだろうな』

そう言うとセルフォンは一旦6人から離れて行き、部屋の端の壁に背中を向けて身構える。

『良いか、そこから1歩も動くなよ』

一体何をするのだろう、と6人が考えていた……その瞬間だった。


「……!?」

「うお!?」

大塚は無言で驚き、栗山は若干オーバーリアクションをする。

いきなりセルフォンの姿が残像の様に消えたかと思うと、次の瞬間にはもう自分達の目の前に居た。

「まさかこれって瞬間移動か?」

そんな中でもクールにそう尋ねるジェイノリーに対して、人間の姿のセルフォンは小さく頷く。

『そう言う事だ。風の力を身体に纏い、一気に自分の身体を押し出してこうして加速する。

そうする事でこうして遠くからの距離でも一気に詰める事が出来る』

そこまで言うセルフォンだったが、一旦彼は頭を振って話を続ける。

『だけど問題点もある。まずこの魔法は余り長い距離を使う事が出来ない。纏う事の出来る

風のエネルギーの量にも限界があるからな。それから真っ直ぐにしか移動する事が出来ないのも

欠点だから、いきなり途中で曲がる事は出来ない』

だから魔法って言うのも万能では無いんだ、とセルフォンは何処か遠い目をして呟くのであった。


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