Run to the Another World第59話
アレイレルは金髪の男の攻撃を必死でかわしつつ反撃のチャンスを虎視眈々と窺う。
何時迄も反撃しないとなると殺されてしまうのは目に見えているからだ。
しかし男の剣を振るスピードもなかなか速い為に普段冷静沈着なアレイレルも焦りを感じていた。
(まずいな……)
2013年で43歳になったアレイレル・エスイトクスだが、身体のキレは未だに衰えてはいない。
それもその筈で、彼は9歳からエスクリマを習い始め、20歳の頃からはエクストリームマーシャルアーツを習っているのだ。
仲間内でも「日夜、車の事しか頭に無い様な男」と迄言われる程の車馬鹿のアレイレルであるが、そんな彼が何故
武術に興味を示す様になったのか? それは彼が9歳の時迄さかのぼる。
アレイレルの地元はアメリカのデトロイトであり、デトロイトは昔から自動車産業が盛んな地域としてアメリカだけでは無く
世界的にも有名だ。モーターショーも毎年積極的に開かれており、9歳の時に彼はそのモーターショーへと家族で
出向いたが、そこで彼は誘拐されかけたのだ。運良く助かったのだが、助けてくれた人がそのエスクリマの使い手であった為に
彼も含めてエスイトクス一家は感激する。
それから車は勿論の事、一方で当時から既にアメリカで盛んに行われていたエスクリマの道場が近くにあった為アレイレルも通い始めた。
また誘拐されかねないとも限らないし、護身術として習っておいた方がいざと言う時に自分を守れる様になると言う家族の考えからであった。
その後はエスクリマを続けながら車の道へと進む事を意識し始め、19歳の時に車文化をもっと良く知る為に日本へと来日。
日本の自動車系の大学に通いながら日本語を覚え、今も東京にそのまま住み続けている。
更にアレイレルは車のレース活動にも積極的に出る様にしており、実際の所アメリカにおいて16歳で免許を取得した後、地元の
ストリートレースに出場していた経験もある。しかし年齢を重ねるに連れて体力や運動能力、反射神経の低下を恐れ
今迄のエスクリマだけではなくもっと激しい運動をするスポーツを習いたいと思い大学在学中の20歳からエクストリームマーシャルアーツを
習い始めた。こうしてエスクリマでは有り得なかった様なアクロバットな動きも習得し、体力だけで無く精神力を極限まで鍛え上げたのである。
そして、1999年に首都高速がサーキットに生まれ変わると彼は真っ先にそこへ当時の愛車であった80スープラで参戦。
元々はデトロイトのストリートレースで腕を磨いて来ただけあり、公道をベースにした首都高サーキットの環境は彼にとっては最適であった。
武術で鍛えた動体視力と反射神経、そして冷静沈着なその性格で速いだけでは無い「強い」ドライバーの1人として瞬く間に名を上げて行った。
強いドライバーは「速い」だけでは無く、精神力や駆け引きの上手さも含めてそう呼ばれるのだ。
その後、彼は首都高のトップクラスの走り屋チームである「サーティンデビルズ」のメンバーの1人として君臨した他、筑波や岡山国際等の
本物のサーキットや街道サーキットとして生まれ変わった碓氷峠等にも遠征して活動していた。
今では首都高サーキットを走るのを止め、カー用品店で働きつつ碓氷峠や筑波サーキット等に現在の愛車のUZZ40ソアラで走りに行っている。
「やああああっ!!」
若さ溢れるエネルギッシュな攻めを見せる金髪の男に対してアレイレルは何とかその攻めに対応していた。
そして攻めに対応するだけで無く、こちらからも隙を窺い攻めて行く。
「よっ、ほっ!」
パンチを繰り出して対抗し、男が右のハイキックを放って来るのでそれを両手で素早くガード。
更にロングソードを振りかざして来るのでそれを避けたが、避けた所で男のキックが側頭部に炸裂してアレイレルはよろめく。
「ぐお!」
だがこんな物でへこたれるアレイレルでは無い。素早く持ち直して男に向き直り構える。
男も同様に一旦ロングソードを目の前で構えてアレイレルと向き合う。そしてまたしても男が先に動く。
今度はロングソードでは無く右のハイキックを繰り出すが、これもしっかりアレイレルはガード。
そんなアレイレルにロングソードを振り下ろして行くがアレイレルも易々と斬られたりはしない。……筈だったが。
「うぐ!」
男の回し蹴りをかがんで避けた直後に、ミドルキックを間髪入れずに男に叩き込まれたアレイレルは一瞬怯む。
その怯んだ隙を見逃さずに、全力でアレイレルを後ろの壁に押さえ付ける男。
「ぐぐ、ぐぅ……」
だがアレイレルの方が体格では勝っているので、パワー差で押し返して逆に男のロングソードを持っている右手を
後ろ手にして捻り上げる。
「くっ!」
しかし男はそのままアレイレルを身体全体で突き飛ばし、2人一緒に地面に倒れこんで拘束を無理やり解除。
ほぼ同時に素早く立ち上がった2人だったが、男の猛攻がアレイレルに襲い掛かる。
ロングソードを振り下ろし、薙ぎ払い、更に薙ぎ払った勢いのまま回し蹴り、そこから更に2連続のミドルキックと
ハイキックを繰り出し、再び薙ぎ払い。最後に薙ぎ払いの勢いで足払いを繰り出したが、これらの全てを
アレイレルはギリギリで避け、キックはガードして耐え切って、最後の足払いはジャンプでこれまた回避し、
壁に向かってダッシュしてそのまま壁キックから後方に宙返り。壁に走ったアレイレルにつられて、タイミングとしては
アレイレルの宙返り中にロングソードを男は薙ぎ払う事になった。
その薙ぎ払いを宙返りでギリギリかわす事に成功したアレイレルは、ロングソードを空振った事によって大きく隙が出来て
自分の方に向き直るのも遅れた男の顔面に、宙返りからの着地後すぐに繰り出した右の回し蹴りをベストタイミングで
当てる事に成功した。
「ぐが!!」
そうして怯んだ男の、鎧を着けていない腹の部分に右のボディブローを思いっ切り叩き込み、続けて男の頬も殴りつける。
「ごっ!?」
間髪入れずに男の胸倉を掴んで、これもまた腹に向けて全力で左の膝を叩き込み、前かがみになった男の顔面に
膝蹴りから流れる様に裏拳を入れ、そのまま右のかかとで男の側頭部を思いっ切り蹴り飛ばした。
「ぐふぅあ!」
男は地面に手を着いてしまい大きく隙が出来るが、それでもアレイレルを睨み付ける。
「いやあああああっ!!」
そんな睨み付けて来る男の顔面に、アレイレルは足の甲から思いっ切りキックを叩き込んでやった。
「ぐふっ……」
男は奇妙な声を上げて後ろへと少し飛んでから倒れ込む。何とか再び立ち上がろうとする物の、身体に力が
思う様に入らずがくっとそのまま気絶してしまい、このバトルはアレイレルの勝利となった。