Run to the Another World第58話


「何であのドラゴンが!?」

「と言うよりも、あのドラゴンは飛竜を撃退してるぜ!」

驚きを隠せない一同。ドラゴンが空を飛んでいる飛竜を1匹ずつ体当たりや

ツメの攻撃で文字通り叩き落としているのである。しかもどうやらそのドラゴンだけでは無く、

もう1匹赤い大きなドラゴンが同じ様に飛竜達に攻撃を仕掛けていた。

「あの赤いドラゴンも俺達に味方してくれてるって事か?」

「そうかもな」

そうしてその2匹のドラゴンはある程度の飛竜を一掃すると、何と王城の方に向かって来た。

「おおっ!?」

「え、え?」

そして12人の姿を見つけたのだろうか。ドラゴン達はバサバサと翼をはためかせて王城の門の前に着陸した。


『苦戦している様だな?』

「おっ、おう!」

「え、何でここに来たの? と言うか何故僕達がここに居るってわかったの?」

ドラゴンの問いかけに戸惑いながらもサエリクスが返し、ハールがもっともな疑問をドラゴンに対してぶつける。

『私とあの砂漠で出会った後に行きそうな所と言えば、この王都位しか無いと思って様子を見に来たのだ。

そうしたら大変な騒ぎになっているのがわかってな。竜族の亜種でもある飛竜族がこうして王都で騒ぎを

起こしている以上、放っては置けないと判断したのだ』


事も無げにサラリと言ってのけたドラゴンに、12人はどうリアクションを返して良いのか分からない。

「ともかく助かったよ」

『何があったのか私に説明してくれると助かる』

「ああ、それがな……」

サエリクスはこの集団がいきなり王都を王城含めて襲撃して来た事、自分達も城の中で何回も

襲われたので脱出して来た事、これからもう1体のドラゴンに会いに行く為に王都を脱出する計画を

立てていた事を明かした。


しかしもう1匹の赤いドラゴンと言うのはまさか? と言う疑問が目の前の

赤いドラゴンに持ち上がるのは当然の事。その話を聞いていた赤いドラゴンが

今度は口を開く。

『魔力が感じられない人間なんざ、俺様だって見た事ねぇぜ?』

「えっ、まさか貴方は……?」

由佳の問い掛けに、赤いドラゴンはゆったりと首を由佳に近づけて話す。

『そうだ。俺様がそのもう1匹のドラゴンだぜ』


続いてその赤いドラゴンがとんでも無い事を言い出した。

『実はよぉ、俺様達にも念話が回って来たんだわ。異世界の人間達の手助けをしてやれって』

「念話?」

聞き慣れない単語の意味を問う藤尾に、簡潔に赤いドラゴンが説明。

『俺等伝説の竜族が使える魔術みたいなもんさ。それはそうと、俺様もこのグラルバルトも昨日の夜に

念話で御前等の話を聞いて飛んで来た様なもんだ』

そう言う赤いドラゴンに続いて、グラルバルトと呼ばれた黄色のドラゴンが話をする。

『ああ。何だか大きな陰謀が渦巻いている予感がするのだ。私達竜族にも大きな関係がある様な……。

それに異世界人と言う立場であればなかなか行動しにくいであろう。地理的な面、それからこの世界の

常識でもな。そしてこの世界の奴等の御前達への興味もある。さぁ乗れ。ギリギリだが分散すれば全員乗れる筈だ』

その言葉に今だけ甘える事にして、12人は6人ずつそれぞれのドラゴンの背中に乗り込んだ。


そうして大空へと翼をはためかせて飛び立った……筈だったが!

「うおあ!?」

「ぬお!?」

それぞれのドラゴンの背中から2人が地面へと落ちる。落ちた原因は突然何処からか身体に巻きついて来た荒縄が原因だ。

「お、おい博人!?」

「アレイレル!!」

上昇してまだすぐの事だったので地面に落ちてもさほどショックは無かったが、2人を落としにかかったのは

どうやら見慣れない兵士の様だ。

「ちょ、ちょっと戻って戻って!!」

由佳が必死に訴えるが、赤いドラゴンは絶望的なセリフを吐き出す。

『無理だ……飛竜が来るぞ!! 掴まれ!』

空からは先程のドラゴンの襲撃に怒り狂っている飛竜が、今度は逆にドラゴン達を襲撃して来たので

再着陸が出来ずにそのまま空を飛んで一旦逃げる事になった。

となれば、あの2人がやられない様に願うしかない。飛竜の攻撃をドラゴン達はかわしつつ、10人は

振り落とされない様にそれぞれしっかりとしがみつきながらそんな事を思っていた。上空での追いかけっこや

バトルは全員未体験ゾーンであるし、今はとにかく必死にしがみついて振り落とされないと言う事が何よりも重要な事である。

振り落とされたらそこでジ・エンドである事は間違い無いし、こんな所でまだ死にたくは無いと言うのは10人全員に共通している

思いでもあったからだ。


そして落とされた2人は、自分達に荒縄をまるでカウボーイの様に引っ掛けて落として来た2人の兵士を相手にしていた。

兵士と言うよりは見た目で言えば傭兵と言うイメージが強く、しかもまだまだ自分達より見た感じで分かる位若い男2人である。

一方は鎧を身に着けて大剣を背負った茶髪のガタイの良い男。そのガタイの良さは博人にも負けず劣らずだ。

もう1人は細身の赤を基調とした服装の金髪の男で、手にはロングソードを持っている。2人は博人とアレイレルにそれぞれ襲い掛かって来た。

「うおおおおっ!!」

雄叫びを上げて茶髪の男が博人に向かって来た。仕方無く博人はその茶髪の男と戦うはめになったのである。

一方のアレイレルはロングソードを構えて向かって来る金髪の男と戦う事を余儀無くされた状態だ。

頼みのドラゴンは上昇して何処かに行ってしまったし、この状況では逃げ切れそうに無いと見て迎え撃つ事にする。

しかし、ここで気掛かりなのはアレイレルではなくむしろ博人の方だった。何故なら……。

(俺、まともに武術を習ったとかそう言うのがねぇんだよなぁ!)

本格的に何か格闘技や護身術を習っている訳では無い博人と、一応武術を習っているアレイレルのバトルが今、それぞれスタートするのであった。


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