Run to the Another World第55話
「そう言う訳ですから、なるべく早めに皆さんの処遇を決めます。それから、そのファルス帝国の
事に関しても報告を受けておりますので、そちらでもきちんと連絡を取り合います。皆さんの
知り合いと思われるそのグレトルと言う男の方の行方も騎士団を使って探しておりますのでご安心ください」
そう言って、レフナスはアーロスとセフリスを引き連れて部屋を出て行った。
「何か、凄くびっくりした……」
「皆それはそうだと思うぞ。だって、他のメンバーがその帝国で事件に巻き込まれたって事に
なるのか? だったらさ、俺達にもその帝国では要注意人物の疑いが掛けられる危険性が大だと思う」
ハールの呟きに橋本が同意し、自分の意見を述べる。
「一応さ、騎士団がそのファルスに現れたって言う異世界人の奴等を探してるのなら、すぐ見つかる
可能性も高いだろ。一応何日か待ってみよう」
「それが良いかもな」
そう言う事で、その異世界人達がこのシュア王国で見つかる事を期待して少しの間だけ待ってみる事にした12人。
だがこの時、12人全員は誰もこの2時間後に起こるとんでも無い事態を予想する事等出来なかった。
その2時間はこれからの行動予定をもう1度見直したり、軽いトレーニングをしたりして時間を潰していた。
「ふー、トイレ行って来るぜ」
「行ってらっしゃーい」
博人が部屋から出てトイレに向かう。勿論博人には2人の兵士が見張りと道案内として着いて来るので若干窮屈ではあるが。
そうしてトイレへと向かっていたその途中に事件は起きた。見張りとして着いて来た2人の兵士の内の1人が、いきなり
博人の首筋に短剣を突き付けて来たのである。
「……!?」
「大人しくして静かにしていろ。そのまま歩いて俺達に挟まれて着いて来るんだ。逆らえば殺す」
声は頭に被っている冑に遮られ、若干くぐもって聞こえるので兵士の年齢を把握出来ない。
そのままもう1人の兵士が前を歩き、後ろからは短剣を所々に立っている警備の兵士に見つからない様に
上手く突きつけられながら博人は歩かされて行く。
その極限状態のままで辿り着いた場所は、この王国のトップが居る場所であった。
「ま、まさかここって……」
「黙れ。陛下! 失礼致します!」
目の前にある豪華な扉が開かれ、その先にはやはりレフナスとそれから宰相のアルバスの姿があった。
しかし当のレフナスとアルバスはきょとんとしている。
「どうなさいました?」
「何の用だ?」
そして次の瞬間2人の兵士は博人から離れたかと思うと、ほぼ同時に腰の剣を抜いてそれぞれレフナスと
アルバスに斬り掛かって行った。
「なっ!?」
「えっ!?」
突然の事にレフナスもアルバスも反応が遅れる!!
だが、そこに待ったをかけたのが博人だった。レフナスの方に向かって行った兵士に後ろから素早く
足払いをかけて転倒させ、次にギリギリで兵士の剣を自分の剣で受け止めたアルバスに加勢する。
具体的にはそのアルバスとつばぜり合いをしている兵士にダッシュからのドロップキックをかましたのだ。
「ぬぐお!?」
思いっ切り壁にぶつかったその兵士に博人は目もくれず、レフナスを襲った兵士に向かって再び走る。
走ると言っても執務室自体は広くも無いのですぐその兵士の傍へ駆けつける事が出来、起き上がりかけた
その兵士の頭目掛けて冑の上からダッシュの膝蹴りをぶちかます。
「ぐお!」
「あだっ!」
流石に鉄にそのまま膝蹴りを食らわせれば、膝蹴りをした博人も痛い。
その時、騒ぎを聞きつけて執務室の扉の両側を警備していた2人の兵士が執務室に飛び込んで来た。
「この2人を捕らえろ!!」
アルバスの命令でその2人の兵士は捕らえられる……かと思いきや、形勢不利を悟ったのか執務室の
大きな窓を破って外へと逃げ出した。
「奴等を追え! 逃がすなよ!」
飛び込んで来た2人の兵士がその逃げた兵士達を追って、同じく窓から飛び出して行く。
「陛下、お怪我は!?」
「大丈夫ですか!?」
アルバスと博人がほぼ同時にレフナスの無事を確認する。
「私は何ともありません。博人さんは?」
「俺も大丈夫です」
「何があったのか詳しく説明してくれ」
当然の様にアルバスから説明を求められ、博人はトイレに行こうとしていきなり兵士に短剣を突きつけられてここ迄来た事を話した。
「と言う事は、あの2人は正規の兵士では無かったと言う事になるな」
「それだったら俺を脅したあいつ等は、いわゆる偽兵士って奴ですよね」
「まだこの城の中にあの2人の仲間が紛れ込んでいる可能性もあるかもしれません。アルバス、至急全兵士達の身体検査を。
それから城下に包囲網を敷いて下さい」
「はっ!」
アルバスはそのレフナスの指示に従って動き始める。
しかし、この時別の場所においてもとんでも無い事態が発生している事にまだ3人が気がつく事は無かった。