Run to the Another World第51話


「はー、美味かったー!」

「味は悪く無かったな、異世界の料理って奴も」

食事を終えた12人はそれぞれ満足気な表情を浮かべるが、

ふとここで1つの疑問を浩夜が投げ掛ける。

「そう言えば、あのグレトルって奴は一体何処に行ったんだろう?」

その疑問に栗山も続ける。

「俺達が全員寝ている間にどっか行ったんだよな。……全員寝てたっけ?」

話を聞くと全員寝てたとの返事だ。

「と言う事は俺達が寝ている間にあいつは姿を消した。俺達の情報を

あいつは知っているし、旅人だからこの国の何処かに居るかも知れないな」


「俺達の情報を余り口外されても困るしなぁ。そこが心配だ」

窓の外を見つめて和人が呟いた。

「そうだよなぁ……ん?」

夕方になった外の様子を見ながら窓際に近づいたサエリクスが

何かを発見する。

「あれ、あそこに居る奴等ってもしかして騎士団の連中か?」

「え? どれどれ?」

サエリクスが指をさした方向を和人が見ると、そこには笑い声を

上げながら下を通り過ぎて行く騎士団員数名の姿が。

そしてその中心にはあのグラカスと言う騎士団長が居た。

「あれってグラカスって奴か? 例の」

「そうだ……な」

「訓練か見回りの帰りって所だろう」


だがその時、そのグラカス本人が視線を感じたのだろうか2人が覗き込む窓の方を見上げて来た。

「おっ!? 気づかれたぞ!」

「何かこっちに来たぜ」

「どれどれ」

後ろからやって来たハールもそれに加わり下を覗き込むと、グラカスが何か怒鳴っているのか

どうか微妙な表情をしながら窓を見上げている。

「窓開けてみるか?」

「いいや、止めておこうぜ」

「そうするか。面倒な事になりそうだしな」

その場はグラカスを放って置き、12人はこれからの予定の話し合いに取り掛かる。


そうして窓から離れておよそ3分、その話し合いをしていた時だった。

ドンドンドンと思いっ切りドアがノックされる。

「な、何だぁ?」

12人はいきなりの事にびっくりしながらも、取り合えずハールがドアを開ける。

が、手前にドアを引っ張ったと同時にハールは思いっ切りドアに押し倒された。

「うおあ!?」

思わず尻餅をついてしまったハールがドアの向こうを見上げると、そこには

下に居た筈のグラカスが息を切らしながら立っていた。


「おい……俺の事見てた奴が居るだろう」

「はっ?」

「御前も見てたな?」

グラカスは目の前に尻餅をついた状態のハールの胸倉を掴んで立たせる。

「人の事を覗き見とは、良い度胸じゃねぇか、おお?」

「いや、そんな趣味は無いです……」

「ほー?」


そんな2人に割って入ったのが栗山だった。

「おいおい、そこらにしておいてやれよ。別にこいつ等も覗き込んだら

下にあんた達が居ただけの話だし。覗いたこっちも悪かったがな」

しかしグラカスはハールの胸倉を離そうとはしない。

「はっ、随分上から目線だな。弱そうな奴等ばっかじゃねぇか。笑わせんなよ」

そんな言葉をグラカスが吐いた次の瞬間だった。


ハールが自分の胸倉を掴んでいるグラカスの右手を自分の右手で掴み、左手でグラカスの右腕を

上から押さえ付ける。そしてそこから自分の右足を使って、グラカスの膝の裏を軽く蹴りつける。

「うお……」

テコンドーの護身術の一種を使い、ハールはグラカスをヒザカックンして倒したのである。

「その言葉は聞き捨てならないな」

優しすぎると評判のハールだったが、仮にも武術を習っている者としてグラカスの弱そうと言う発言に

カチンと来てしまったのだ。だがグラカスも第1騎士団の団長を若手ながらに勤めているので、すぐに

体勢を立て直してハールを再び睨む。

「この俺に喧嘩売ろうってのか?」

「先に売って来たのはそっちじゃないか」

「はっ、おもしれぇ。だったら俺と勝負しろよ」

そう言いながらハールの肩に右腕を回して部屋から連れ出すグラカス。残された11人もこのまま

黙っている訳にも行かないので、2人の後に着いて行く事にしたのであった。


そうして城の中を歩き回り、回廊を抜けて辿り着いた先は

大勢の騎士団員が鍛錬をしている鍛錬場であった。

「ここは戦う場所かな?」

「そうみたいだな。勝負しろとか言ってたしな……」

扉を開けて入って来たグラカスとハールに、何事かと練習をしていた騎士団員達が視線を一気に向けて来た。

その中から1人の茶髪の男がグラカスに話し掛けて来た。

「どうした、グラカス」

「第2騎士団の連中は一旦練習を止めろ。俺は今からこいつをボコボコにする」

「はっ? 何があったんだ?」

「こいつが俺を挑発して来たんで、少し痛い目を見てもらおうと思ってな」


と言う訳で、その場に居た第2騎士団員達の練習は一旦中止され円を描く様にリングが設けられた。

「素手で良いのか?:」

「僕は今これしか使えないから、良いよ」

「ああ、そう言えばそうだったな。武器も使えない奴は苦労するよな!」

グラカスは鍛錬用に刃を潰した鉄剣を使うつもりだったが、地面にそれを投げ捨てる。

「だったら俺も素手で良いかな」

そんなグラカスにハールが逆に質問。

「あれ? そっちも素手で良いの?」

「ああ。何か問題でも?」

「いいや。だけどもしそっちが負けた時に、素手だからって言い訳されると困るなぁと」

ハールのそんな発言に、グラカスは黙って鉄剣を拾って構えた。


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