Run to the Another World第47話


「異世界人……信じられないがな」

「俺達だって異世界に居る事を今も信じたくない」

列車に揺られる異世界人達と、情報提供をしたあの旅人の会話が列車の中で続く。

異世界人だと素直に白状した結果がこの旅人のリアクションであった。

「まぁ無理も無いか。俺達も異世界がある事自体、こうして体験する迄空想上の事だとしか思っていなかったしな」

淳が男に自分達の本音をぶつけてみた。

「それで、その変な光に巻き込まれてからその鎧のパーツを渡されてこのシュア王国に来たのか」

「それと地図と食料もな」

旅人の言葉にサエリクスが付け加える。

「だとしても、何がその声の目的なのかはわかっていないのか?」

「それが全く。だから俺達は他のメンバーも探して合流しなければいけないって訳さ」

そんなサエリクスの表情には明らかに焦りの色が滲み出ていた。


「それはそうと、そろそろあんたの素性も白状して欲しいな。こっちはその約束で旅に着いて来る事に許可を出したんだからさ」

バラリーのその言葉に、男はああと思い出したかの様に反応する。

「そうだったな。俺はグレトル。旅人だ。この世界中を気ままに旅している」

それだけで自己紹介をグレトルと名乗った男は終わらせるつもりだったが、疑問の声が次の瞬間

通路を挟んで反対側の座席に居た栗山から上がった。

「それだけか? 仲間が居るって話だったけど。それにドラゴンに関する調査をしているって言う事は、

ただの旅人じゃあない様にも思えるのだがな」

栗山のその疑問に、グレトルは表情を余り変えずに切り返す。

「探究心だ。旅人はそう言う物だ」

「あ、ああ、そう……」

凄く無口な奴だなーと思いながら、栗山は自分の本能がこれ以上の詮索は危険だと本能が

告げているのを感じ取っていた。


そんな話をしている内に、グレトルは窓の外をふっと見る。

「そろそろソヴェルークの町に辿り着く。降りる準備だ」

「あ、もうそんな時間か。話をしていると時間が経つのは早いな」

「本当だな。良し、それじゃ俺達も降りるとしよう」

この度の目的の1つであるドラゴンにやっと会える時がやって来たかもしれない。

実際に会えるかどうかはわからないが。それでもその砂漠のオアシスが遺跡だと言うのなら

行ってみる価値は十分にありそうなので、12人とグレトルはそのオアシスへと向かう事にした。



ソヴェルークの町は砂漠に近いだけあって結構暑い。

「結構暑いな」

「でもそれほど想像していた暑さでも無いな。もっと暑いのかと思ってたけど」

本音を漏らすアレイレルと意外と大した事無いと言う藤尾に、浩夜がこんな一言を。

「鳥取砂丘みたいなもんじゃん? 幾ら暑い場所でも季節は季節だから雨が振るか降らないか位の違いだろ」

「あー、成る程な」

中国地方出身の周二と陽介と仲が良い浩夜らしい感想に、納得の表情と声を漏らす和人であった。


「何か買って行くか?」

「いや、俺達金持ってないから良いや。グレトルは?」

「御前達が無いなら別に俺も。そうか、金は渡されなかったのか」

「え、やっぱりこの先困りそう?」

最もなハールの疑問に、ちょっと困った様な表情でグレトルは答えた。

「いや、困る訳では無いが……実際シュアの列車もバーレンの船も国民の税金で動いているから

運賃は無料だし、なかなか都に足を伸ばせない奴の為に各国の国境から無料でそれぞれ乗り合い

馬車を出しているから金の問題については気にしなくても良い。ただ、武器とか買えないんだったら厳しいだろう。

野盗や追い剥ぎが襲って来る事も良くあるからな」


その言葉に12人の表情が変わる。

「そうだ、それを忘れてた……」

「俺達、武器が使えないとか何とかってのも言われてたんだっけ」

「如何言う事だ?」

絶望の表情を浮かべる博人と淳にグレトルが問いかけるが、代わりに由佳がそのグレトルの疑問に答える。

「事情があって私達に武器は与えられないって話をその声に私達はされたのよ。

しかも、私達は武器で死ぬ可能性もあるって言われたし」

「何故?」:

「そんなのこっちが聞きたいわよ! もう訳がわからないわね」


しかし、武器で死ぬ可能性が云々かんぬんと迄言われているのであれば、

まるっきり無視する事も出来なさそうだ。

「ここに居る奴らはちょっとだけ腕っ節に自身がある奴等ばかりだけど、そんな状況なら武器を持たない

訳にも行かないよなぁ。野盗とか追い剥ぎとかが居るんだったら、魔物が居たっておかしく無さそうだし」

「魔物は平気だ。少なくともシュアはな」

不安要素を言葉に並べ立てる橋本に、若干の助け舟をグレトルは出す。

「取りあえず、そのオアシスとやらに行ってみるだけ行ってみよう。魔物は大丈夫か?」

「その辺りも大丈夫だ。王国は討伐を頻繁に行っているからな。野盗や追い剥ぎもオアシスでは開けた場所故に

目立ちやすいから、そう言う旅人や商隊の狩場としては不人気だと言う噂だ」

「そうなのか……」

だったら心配は無いとばかりに安堵の声を漏らす和人。目指すはまずオアシスだ。


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