Run to the Another World第38話
その男の言葉に、一気に12人の間に緊張が走る。
「お前、何者だ?」
真由美が問いかけるが、しれっとした顔つきで画家は答える。
「だから言ったでしょ、僕は画家だよ。異世界の人間なんて初めて見たけど。
でも、異世界の人間がドラゴンを探しているって話はさっき黒い服の奴等と
話していたのが聞こえて来たからもう知ってる。僕と一緒に行けばそのドラゴンに
会えるかもしれないよ? 僕はその遺跡にいるドラゴンの事を昔から良く知っているんだ」
思いもよらぬセリフに、12人の男への感心が一気に高まる。
「何で知ってるんだ? 知り合いなのか?」
ジェイノリーが食い気味に尋ねるが、画家は首を横に振った。
「だから、僕のモデルになってくれればその先を話してあげるよ。それに騎士団員位しか
知らない筈でしょ、君達が異世界の人間だって言う事はさ?」
その男について行くのは余り気が進まないが、自分達が異世界人だと見破られて
しまった以上はモデルになるしか無さそうだ。
と言う訳で遺跡である湖に行ってからポーズをとると言う事を条件にして、12人は
馬車を手配して貰ってその湖へ向かう事になった。
だがその湖に向かう為には、どうやら登山道を抜けなければいけない様であった。
なので登山道の入り口で馬車を降りた12人は、画家の男と緑がイメージカラーの
男と一緒にそのドラゴンが居ると思われる湖に向かって登山道を進んでいた。
「ふう、ふう、ふう、結構きついな」
「山道だからなー」
「スニーカーとかの動きやすい靴で良かったぜ……」
基本的にヨーロッパの2人以外は車に乗る為に、普段から動きやすい靴で行動するのが癖に
なってしまっている。それにヨーロッパの2人も身体を動かす職業の為に、同じく
動きやすい靴を履いて日本へとやって来た。普段からそうしている訳では無いのだが、東京観光は
歩き回る事が多いとハリドから聞いていたので靴のチョイスも動きやすい物にしたのである。
それがまさかこんな所で役に立つとは12人も思っていなかった訳だが、それを差し引いてもやはり
大自然の中に作られた登山道だけあって、かなりきつい物があるのには間違い無い。
「人が居ないからなぁ……後どれ位歩けば良いんだろ」
「見た感じはまだ結構ありそうだぜ」
人が居れば頂上迄に後どれ位あるか聞く事が出来るんだけど、とぼやく
兼山に、明が目測で見た距離を口に出す。
「まぁでも、こうして登山道が作られたって事は頂上に辿り着けない
訳じゃないんだから、歩き続ければ何時か着くだろうよ」
そんな2人に弘樹がポジティブな答えを出した。
そうして歩き続ける事2時間。全員体力には自信があるが、その体力のストックだって
無限では無いので少し休憩する事に。アスファルトの平坦な道の上ならまだしも、12人が歩いて来たのは
傾斜のある未舗装の山道だから流石に足が棒になってしまった。
「は〜〜〜! 休憩だ!」
「もう足があがらねぇよ!」
「まだ登るのかな……」
「早く頂上見えねぇかなぁ……」
一本道の為に道に迷うなんて事は無かったが、登山を2時間以上も続けて来た12人は凄くきつい。
それでもどうやら頂上までは後少しだった様で、それから15分位歩いた12人の目の前に
大きな湖が姿を現した。流石に東京の海とは違い、凄く水が透き通っているのが特徴的だ。
「あー、やっとついたぜ!!」
だが、まだここに居ると言うドラゴンには会えていない12人。
一体どうすればそのドラゴンに会えるのだろうと思い、画家の男に真由美が話を聞く。
「なぁ、そのドラゴンとは知り合いなんだろ? どうすれば会える?」
「だからまずは僕のモデルになってよ。そうしたら教えてあげる」
そう言えばそんな約束だったっけ、と12人は画家の男に指示されるがままにポーズを決める。
どうも画家の男は本当にただポーズを決めて欲しかっただけらしく、挑発的なポーズ、
愛おしいポーズ、泣き崩れるポーズ、決めポーズ、逆立ち、組体操、喧嘩、殴り合い、
連係プレイ等の様々なポーズの指示を出して行く。
だがよくよく見てみると、別にキャンパスに何時間もかけて描くのでは無く紙片にささっと下書きの
様な感じで描いている。画家の彼が言うには後で清書をするらしい。
そんなこんなで2時間が経過し、いよいよこちらの要求を呑んで貰う事にする。
「さーて、俺等がやるだけの事はやったんだ。約束通りドラゴンに会わせて貰うぜ」
アイトエルが腕を組んで画家にそう言うが、画家は信じられない事を言い出した。
「え? 会えるかも知れないとは言ったけど、会わせられるとは一言も言ってないよ」
「……あ?」
その発言に、陽介を筆頭に一気に12人から殺気が吹き出る。だが、画家の男はそんな
空気をものともせずにまた信じられない発言を。
「それにさぁ、そのドラゴンなら君達はもう物凄い近くで見ているよ」
「え?」
意味の分からない発言をする画家の男に、恵が疑問の声をあげる。
すると次の瞬間、男の身体がまぶしく光り始める。
「うお!?」
「な、何だぁ!?」
咄嗟に岩村もディールもその他10人も顔を覆って光に耐える。そしてその光の中で、段々と
画家のシルエットが変化して行く。
そうして光が収まった時、12人は信じられない物を見る。それは何と、12人が会える事を
期待していた大きな青いドラゴンが今まさに12人の目の前に鎮座しているのであった。
『僕が、そのドラゴンなんだからね』