Run to the Another World第26話


弘樹は矢を射って来た奴をひたすら追いかけ、甲板の後ろ側迄来てしまった。

雨の降る甲板で弘樹が見たその人影は、青いオールバックの髪に紫の肩当て、

同じく紫の胸当てをつけたまだまだ若い男であった。

「よーし、追い詰めたぜ!」

弘樹はもう男の逃げ場が無い事に嬉しそうな声を上げ、指をバキボキと鳴らしながら

男の出方を窺う。逆側の甲板では沢山の人間が戦っているが、こっちの甲板の方では

余り戦っている人間が少ない。その分バトルフィールドが大きく取れるが、男は近づいて来る

弘樹に弓を素早く構えて矢を射る。

「おっとお!」

弘樹は横に転がってその矢を回避し、サッカーで鍛えた脚力を生かして一気に男に接近しつつ

足元に転がっていた木片を男に投げつける。

男もそれをしっかりと避けて再び矢をつがえるが弘樹は男が矢を射って来る前にジャンプからの

バックスピンキックを男に向かって繰り出した。

これには男も矢をつがえるのを中止し、横に身体をずらしてそのキックをかわした。


神奈川県藤沢市出身の沢田弘樹は小学生からサッカーに打ち込み続け、本格的にサッカーに

打ち込む為海外の大学へとサッカーをしに留学する。その大学こそがサッカーの強いヨーロッパの大学であり、

まずはフランスへと渡った。そして大学卒業後は次にイギリスのチームへと入団し、それからスペイン、ドイツ、

イタリア、モナコと渡り歩き1995年に日本へと帰国。それからは一旦プレイヤーから離れ、サッカー用品店で

働きながらイギリスで車好きのチームメイトに誘われて観戦に行ったF1の影響で自分も30ソアラを購入して

首都高サーキットを走り始める。そうしてだんだん首都高サーキットを走りこむ様になり、遠藤真由美と知り合って

同じチームに入り、今では真由美と良い関係になっている。サッカーの方はサッカー用品店から少年サッカーチームの

監督に職業を変更し、次世代を担うサッカー選手を育てている。

そんな弘樹が何故戦えるのかと言うと、サッカー以外の運動も何かやってみたいと思っていた所に真由美からテコンドーを

勧められたからだ。「足のボクシング」とも言われるテコンドーは、弘樹が99パーセント足しか使わないサッカーをしていた事、

そのサッカーで鍛えた強靭な脚力とフットワークにピッタリだと真由美が思ったからだそうだ。

弘樹はそれからテコンドーを彼女に師事して今も習っており、サッカー譲りの運動神経で上達が早いと真由美は評価している。


そのサッカーで鍛えられた脚力で大きく高く長く跳ぶバックスピンキックを

繰り出したが避けられた弘樹は、着地した瞬間男に前蹴りを繰り出して蹴り飛ばす。

「ぐあ!」

そのまま今度はパンチの連続で男に突っ込んで行くが、男もなかなか上手く

弓と腕でパンチをガードして弘樹に攻撃を当てさせない。そして弘樹のパンチの

隙を突いて、男は右のキックを弘樹の腹に当てて弘樹と少し距離を取る。

更にその開いた距離を詰めるべく弓で弘樹の胸をど突き、弘樹が怯んだ所で

今度は右の前蹴りをお返しに繰り出して弘樹と再び距離を取った。

(ちっ……)

良く見れば男の弓の両端には刃が付いている。恐らく接近戦にも対応出来る様に作ったのだろう。


だけど弘樹もそれにめげずに、男との一瞬の睨み合いから跳び回し蹴りを男の放って来た

左のキックにカウンターで合わせる様にして男の腹に叩き込む。

「うおああああ!!」

弘樹はそこから猛然と男に対してパンチのラッシュをかけて行く。男が弓でガードすれば

反対側から打ち込み、パンチを繰り出してくればそれをかわして逆に男のボディに打ち込んだり、

胸当ての隙間が覗く脇腹に連打を入れたりととにかく攻める。

普段はサッカーでも車でも堅実なプレイをするのが弘樹であり、チャンスが巡って来るまで我慢して、

いざそのチャンスが来れば一気にラッシュを仕掛けて勝負を決めに行くのが弘樹のスタイルなのだ。


そんな弘樹の顔面を男の左パンチが捉えるが、弘樹もすぐに左のパンチを同じ様に男の顔面に入れる。

今度は男が右のローキックを放って来るが、それを弘樹は小さくジャンプして

身体を前に進ませつつ避け、男の首目掛けてパンチを突っ込む。

「ごほっ!?」

それにより後ろに数歩よろけた男に追撃する形で、ダッシュからの右アッパーを男のアゴ目掛けて叩き込む。

「ぐえぅ!」

それでもよろよろしながら立ち上がって来る男の頭に弘樹はとどめの一撃として、さっき失敗した

バックスピンキックを叩き込んだ。

「ぐうあ……!!」

これには男もたまらずダウンし、先程のアゴへのアッパーも合わせてかなりのダメージになった。


そんな男に止めを刺そうと弘樹は駆け寄ろうとするが、そこに大きな影が飛んで来る。

「うおっと!?」

その影の正体は何と上空を飛んでいた飛竜の1体で、弘樹を近づかせない為に翼で風を起こし、

それに怯んだ弘樹を尻目に男を器用に口で咥えて飛び去って行った。

見れば周りの戦闘も終了しており、飛竜達が一斉に飛び去って行く。

(な、何とか……勝ったか……な?)

とりあえずバトルには勝った事を、今は甲板の床にへたり込みながら弘樹は実感するのであった。


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