Run to the Another World第23話


部屋に残された12人のメンバーは、城から追放では無くて国外に追放されると言う事を受け止めきれない。

「せめて……国の中に居させてくれたって良いと思う」

「ああ。俺等のミッションはまだまだ終わりじゃないからな。ドラゴンを探すって事も

伝えてこの有り様か。だとしたら、これは国外追放される時に逃げ出すのもありかもな」

兼山のぼやきにアイトエルが冷静に考えるが、逃げてもその後でドラゴンに出会えるかが分からない。

むしろ逃げ出すと言うことは危険な賭けである。国境迄安全に護衛してもらい、そこから他の国に行って

そっちでドラゴンを見つけても良いのではないかと言う議論をその後にかわすメンバー達。


結局答えが出ないまま時間が過ぎ、約1時間経った頃再び部屋のドアがノックされる。

「はい?」

「ロオンとシュソンです。船の準備が出来ました」

「食料も御持ち致しました。出発の準備を」

「え、もう!?」

「はい。お願いします」

何と、この国は一刻も早く自分達を国外へ追放したいらしい。

それにしても1時間でこんなに素早く用意できる物なのだろうか。


逃げ出す手筈等思い付く筈も無く、12人は船に乗せられる。それは自分達が川を

渡るのに使ったあんな小舟等では無く、皇国が所有する大きな物資の運搬船であった。

「特別に運搬船を貸し出して頂ける事になりました」

ロオンが出航の合図を手で出し、船はゆっくりと川を進み始める。

「あの……俺達って、何処の国に行くんですか?」

「ファルス帝国です。と言ってもその前にシュア王国へと入って頂きますが」

「ファルス帝国って、この地図の上にある横に長い国? の横の……」

「そうです。そこですね」

弘樹の問いかけと確認にシュソンが答え、夕暮れの川を船はドンドンと上っていく。

シュア方面に行くには川は上流になるので当然下流に向かうよりは遅くなる。


おまけに船には警備の騎士が交代制で常駐している他、12人は

その中でもより一層厳重な警備が敷かれている大部屋に居る様に指示された。

シュア王国の国境迄は何事も無ければ3日で着くらしい。

「結構掛かるな」

「ああ。時間だけがドンドン過ぎて行くって虚しいぜ」

だからと言ってこの厳重な警備を抜け出すのは凄く難しいし、抜け出した所で地図は

あるとは言えども土地勘はゼロな訳だからドラゴンの情報を集める前に捕まってしまうのがオチである。

だったらファルス帝国でまずは最初のドラゴンを探した方が良いと言う事に12人の意見が纏まった。


その後は何事も無いまま1日が過ぎた。この世界にトリップして来て2日目になる。

船の中では特にする事も無いので、室内でも出来る腕立てやスクワット、腹筋等の

筋トレをそれぞれする12人。いずれも格闘技経験者ばかりの12人だが、特筆すべきは

その格闘スタイルに足技を使うファイターが多い事だ。

12人の内で足技を使うファイターはアイトエルと明、岩村、陽介、ディールを除いた7人がそうだ。

勿論この5人もキック業を使わない事は無いのだが、キック技をメインに使うとなれば残りの7人が

当てはまる事になる。これ等の事から、股関節のストレッチをしたり180度の開脚をしたまま

座り続けたり、回し蹴りの練習をしたりと見張りに気が付かれない程度で進めて行く7人。

残りの5人はストレッチや筋トレの他に、素手で軽くミットの役と打つ役でシャドーボクシングを

してみたりと言う感じでトレーニングをしてみる。平均年齢が40歳前後のこの12人だが、動きのキレは

若い時から比べても余り衰えていない。実際にプロとしてファイトマネーを稼いでいた人物も何人か居るので、

しっかりとしたトレーニングの仕方を分かっているのである。

そうしてトレーニングをしていると大部屋のドアがノックされて食事が運ばれて来た。

それを食べつつ、今はどの辺りに居るのかを食事を運んで来たシュソンに確認するジェイノリー。

「今は大体……その地図のこの辺りですね」

「結構進んで来てますね」

「でもこの先は流れが急になりますし、今日は雨が降って来ましたから、

川を上るとなると少し時間が掛かります。大体国境迄は3日なんですが、

雨の分を含めると川が増水しますから、着くのは夕方位になるでしょうね」


が、そこである事に真由美が気が付く。

「あれ、この川国境に続いてねーんじゃねぇの?」

「ええ。ですから国境に最も近い船着場で船を停め、そこからは馬車で移送致しますのでご安心を」

「ああ、そうなんだ」

確かに地図で見ると、川と国境は少し離れている様だ。

「そこ迄馬車も合わせて全部で3日なんだな?」

「はい。では私はこれで」

国境迄は馬車で運んでくれるとの事だったが、その先の事についてはどうなるかは分からない。

恐らくは国境でバーレンの騎士団とはバイバイと言う形になり、後の事は自分達12人で何とかするしか

無いのだ。となれば、これは良く考えてみれば逆にチャンスでは無いかと言う事になる。

だが、そんな12人にこの後信じられない事態が襲い掛かって来るのであった!


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