Run to the Another World第227話


エスティナを追いかけているのは洋子で、女2人は用具倉庫の様な場所に辿り着いた。

なかなか広い倉庫で、至る所に色々とブロックの欠片や物が散乱している。

「最初から私達を騙してたの? さっきの貴方が指示を出していた集団も貴方達のメンバーと言う事なのね?」

自分に追い詰められたエスティナと会話をし、ある程度の話を聞き出した洋子は当然の疑問を投げ掛ける。

「……ええ、そうよ」

ある程度予想はしていたが、そのエスティナの返答に洋子は言葉を失う。レーシングプロジェクトのメンバーから

他のメンバー達と一緒に彼女の悲惨な過去を聞いていた洋子は、そんな悲惨な過去を背負いつつも必死に

明るく生きていて、しかも自分達に協力するとまで言ってくれる様な信頼出来ると思っていた異世界人が

今ここに来てまさかの敵のスパイと判明したのだ。

「全部嘘だったの? 貴方の悲惨な過去とか、全部!!」

だが、その問いに関してはエスティナは首を横に振った。

「それは違うわ」

「じゃあ何処から何処までが嘘で、何処から何処までが本当なの?」

「まず、私が旅人だと言うのは本当。それからその悲惨な過去。両親を騎士団に殺されて旅人になった所までは本当よ。

あ、旅人は本当『だった』と言うのが正しいかしら」


洋子はいまいちピンと来ない。

「ど、如何言う事?」

「つまりそれは過去の話。私は世界中を旅している時に、今の闇より現れし龍撃剣のメンバーになったの。あの4人と出会ってね。

で、あの遺跡で貴方達と出会ったのは偶然。ラーフィティアで他のメンバーに出会ったのも偶然。私は各国の図書館と遺跡を

今の4人のメンバーと出会う前に回って集めた情報があるのよ。それが『はるか昔に黒竜がこのタワーに封印され、その封印を

解いた者が黒竜の強大な力を手に入れられる』と言う伝説だったわ。だけど後は世界中を今のメンバーと一緒にどれだけ

回ってみてもタワーが見つからなくて、結局行き詰まりだったの」

その後の話の流れはある程度洋子にも予想がついた。

「それで私達に出会ったと言うその偶然を利用して、異世界人の私達がゼッザオやこのアイリラークのタワーを発見する為に

行動しているのを見て見つけて貰う為に利用したって訳なのね。そして今になって私達を裏切って攻撃を仕掛け、このタワーに

封印されたその黒い竜の力を貴方達が横取りしようとしている訳だ」

「ええ。偶然とは言え凄く上手く行ったわ。私達の計画に役立ってくれて感謝しているわよ。私は旧ラーフィティアに虐げられて

来たからね。逃げ延びた先の国々でも身寄りの無い女としていわれの無い迫害を受けて来た事がどれだけあったか。

貴方達にその旧ラーフィティアの騎士団が倒された今になっても、その恨みはまだ消えていないから私は力が欲しいのよ」


そう言いつつ、エスティナはズボンのポケットから2本のナイフを取り出した。

「それからラーフィティアに一緒に行ったあの5人と別れる時に言った、私が戦えないと言うセリフは嘘よ。私は闇より現れし龍撃剣に

入ってからナイフ術を磨いたわ。だからナイフ術は使えるのよ」

それを聞いて、洋子ははっとした顔付きになる。

「確かにゼッザオの王都で戦っていた時もさっきの古代都市で戦っていた時も、そしてこのタワーの下で戦っていた時も、貴方が何処に

居るか分からなかった。でも結局は生き残ってまた合流した。そのナイフで戦って……」

「そうよ」

エスティナはナイフを構えてじりじりと向かって来る。

「さぁ、決着をつけましょうか?」

そう言われて、思わず洋子は笑ってしまった。

「アッハッハ!! 私も軽く見られたものだな。じゃあ掛かって来な、裏切り者!!」


そう洋子に挑発されてエスティナは一気に向かって来る。洋子は洋子で攻撃を受け流そうと思ったのだが、エスティナは何とダッシュからいきなり

飛び蹴りをかまして来た。

「うあっ!?」

後ろに転がる洋子だが、そんな洋子の右手にブロックの大きめな欠片が当たった。それをエスティナにばれない様に掴んで立ち上がりつつ、

続けてナイフを振って来たエスティナの側頭部を欠片で思いっ切り殴打。

「がへっ!!」

その衝撃でエスティナは倒れ込むも素早く受け身を取って起き上がる。洋子は彼女が起き上がって来た所で欠片を投げつけたが、

それは間一髪で避けられてしまった。


続けて2本のナイフを軽快に振り回して来るエスティナに洋子は何と対処し切れず、マウントポジションを取られてしまいナイフが顔の寸前まで迫る。

「ぐ……っ!」

そこは力を振り絞って、エスティナを両足で蹴り飛ばして洋子は立ち上がる。

「きゃっ!」

「くっ……」

2人はほぼ同時に立ち上がり、洋子は気を引き締めてエスティナを見据える。突き出されるエスティナの左手のナイフを右のミドルキックを

上手く合わせて弾き飛ばし、今度は右のナイフを突き出して来たエスティナの腕を取って彼女の腹に右の膝蹴り。そして彼女が怯んで

前屈みになった所で、洋子のミドルキックがエスティナの顔面に炸裂した。

「ぐぅぅ!」

またエスティナは背中から倒れ込むが、洋子は立ったままなので何か武器になりそうな物は無いかと辺りを見渡す。


すると先程エスティナの手から離れたナイフを発見したが、もしこれが魔力がある武器であればこのナイフを洋子は握る事が出来ない。

なので洋子は一瞬で勝負を決める事に。

(行くわよ!)

素早くナイフを床から拾い上げ、狙いは定めずにエスティナの方向にアバウトに投げ飛ばす。この拾い上げてから投げるまでわずか0.7秒。

そのナイフは運良くエスティナの脇腹に突き刺さる。

「ぐふっ!?」

致命傷にはならないが、それでもエスティナは悶え苦しんでバトルはもう続行不可能。この時点で洋子の勝利となった。

「それじゃ、私はこれで……アディオス!!」

最後にエスティナの顔面を思いっ切りサッカーボールキックで蹴り飛ばして昏倒させ、洋子は倉庫を出て行ったのであった。


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