Run to the Another World第216話


浩夜が兵士達を誘い込んだのは、倉庫が左右に立っている港湾区域の

狭い通路だ。そこの狭さを逆に利用して1対1の戦いに持ち込んで行き、

追って来た兵士をムエタイとコマンドサンボを駆使して何とか全員倒した。

だが、残っている茶色の馬に乗っていた赤髪の騎士だけは耐久度が桁違いだ。

(あー、しつこいな!)

馬から降りた男は大剣を振り回して破壊力抜群の攻撃をして来る。

剣の大きさも相まって動きは凄く読みやすいが、攻撃を1度でも食らってしまえば

一気に畳み掛けられてしまうのでは無いかと言う不安が浩夜の心を支配する。


「すばしっこいな。そんな動きをする奴を俺は初めて見たぞ。名前を聞いておこうか?」

「浩夜だ。そう言うあんたは?」

「第2パラディン部隊隊長のセヴィディルだ。ここで御前を殺してやるよぉーっ!!」

だったらこちらも反撃に出てやるよ、とばかりに自分の師匠でもある真由美が自分以外に橋本にも

教えていたあの格闘技で対抗。

(ムエタイで勝負だ!!)

格闘技の一種でタイの国技であるムエタイは、タイでは一般的で日本人の子供が剣道や柔道、空手等に

通うのと同じ感覚で通うのだ。

タイ式キックボクシングとも言われるケースがあるが、正しくは「タイボクシング」である。

攻撃部分は両手、両肘、両脚、両膝の8箇所で相手と戦う。ムエタイは立ち技世界最強と名高いが、

首相撲ばかりの試合に見える事がある。何故かと言えば、この首相撲が高いレベルの技術のぶつかり合いだからだ。

タイ国内ではムエタイ選手は低く見られる傾向にある。これは競技が良く賭博の対象にされるので、貧困層がやる

スポーツと見られがちな為。


振り下ろしをかわして左ミドルキック。横薙ぎをジャンプでかわして右ハイキック。

そのままクルッと回転しつつ、セヴィディルの腹に向かって左肘を入れる。

「ぐほ!」

怯んだ隙をついて右腕を持ち、柔道や合気道の様に腕から地面へと押さえつける。

「ぐ……ぐぐ!」

しかしセヴィディルはパワーでそれをはね避け、再び浩夜に向かう。

(くそ、ダメかよ!?)

パワーで圧倒されてしまうのなら逃げるしかないと思い、浩夜はダッシュで逃げ出した。

「逃げんじゃねーよ!! 怖じ気づいたか!!」 


セヴィディルに追い掛け回されていた浩夜であったが、とうとう倉庫地帯の奥まで来た時に追い付かれて

しまい、倉庫の壁際に追い詰められてしまう。

「くっ!!」

セヴィディルが大剣を左から振り被って来るのを見て、瞬時に地面を転がって回避。だがセヴィディルは

浩夜が回避して立ち上がった所で今度は掴み掛かり、パワー任せに浩夜の身体をぶん投げる。

「ぐぅぁ……っ!!」

浩夜はコンクリートの地面に背中から叩き付けられたが、苦しみながらも素早く立ち上がる。体格差は

如何ともし難いが、今ここに居るのは自分だけなので如何にかするしか無い。更に自分に向かって来る

セヴィディルに対して、先手必勝でダッシュからのドロップキック。

「ぐほっ!!」

そのキックは胸に直撃してセヴィディルを後ろに倒す事に成功。


しかしセヴィディルは起き上がって来るかと思いきや、追撃をかけようとした浩夜の足を引っ張って地面に

引きずり倒し、そのまま抱き抱えつつ立ち上がる。

「うぐ……うぐう!!」

抱き抱えられた状態から必死に抜け出そうとする浩夜だが、セヴィディルの上腕二頭筋が唸りを上げて

浩夜の身体をギリギリと締め上げる。

「うぐあああああああっ!!」

身体全体が痛いし手も足も封じられてしまっているが、浩夜はそれでも力を振り絞ってセヴィディルの

顔面に何発も頭突きをかます。


そんな全力の頭突きを何発も食らえば流石のセヴィディルでも拘束を解いてしまい、2人の身体がようやく離れた。

「はぁ、はぁ、はぁ……」

「うおおおおおおっ!!」

それでもセヴィディルは大剣を振り被って向かって来たので、浩夜は身体を横にずらして避けつつムエタイ仕込みの

右ローキックをセヴィディルの足目掛けて3発叩き込む。

「ぐおぅ!」

3発目のローキックが膝の関節に入って体勢を崩したセヴィディルの顔面に、同じくムエタイ仕込みの前蹴りをぶちかます浩夜。

「ぐぅ……っ!」

顔面の痛みにも何とか堪えて体勢を立て直すセヴィディルだったが、そんな彼の身体目掛けて浩夜は再び全力のドロップキックをかます。

「やああああああああっ!!」

浩夜による自分の足へのローキックで踏ん張る力が弱っていたセヴィディルの身体はそれで後ろに倒れ込み、後ろにあった

木箱の山に背中から突っ込む。派手に木箱を粉砕してそれで終わりかと思いきや、その中に埋もれていた鋭利な金属片が

セヴィディルの背中から胸を貫通して突き刺さった。

「ぐぉ……うっ……」

うめき声を上げて息絶えたセヴィディルを、浩夜は息を整えつつ見下ろした。


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