Run to the Another World第210話


栗山は森林地帯の更に奥にある広場へと逃げ、そこで弓使いである第6パラディン部隊隊長の

ソエリドとのバトルを今から始めようとしていたのである。

「御前達だな!? 僕等傭兵団の邪魔をする奴等は!」

「そうだ! 俺達の旅もそっちに邪魔される訳には行かないんでね!」

距離を取られれば勝ち目は無い。唯一の利点はすぐ側に高さ30メートルはあるガケがあって余り広くない事なので、

1対1の戦闘に持ち込みやすい。その2つの事に気をつけつつ栗山は拳を握り締めた。

栗山は今回、スタイルを変えてシラットのスタイルで挑む事にする。

シラットはマレーシアやインドネシア、またシンガポールやブルネイにベトナムと言った東南アジアの国々で盛んな武術となっている。

カンフーと同じく流派は色々で、軽い運動だけと言う物からハードワークの練習をこなし、実戦さながらの動きをする物まで

様々であるのだ。それに加えて今では伝統的に扱われて来たシラットを簡単にして、殺傷能力を高めた軍隊で

取り入れられる軍隊式のシラットも存在し、そちらは東南アジアだけでは無くヨーロッパやアメリカでも取り入れられている。

栗山はこの軍隊式のシラットを傭兵生活の中で習得済みだ。


その他には「ローコンバット」と言う、シラットベースの格闘術が世界50カ国においてボディガードや警察などで習得される物にもなっている。

シラットの流派としては、インドネシアの西ジャワから発祥したプンチャック・シラットが有名な流派になっている。

基本的には手技が主体で、足技も時折混ぜる。相手の姿勢を崩して動きを止め、踵落としを相手の腹に入れたり手で殴ったりする。

その他にも足を崩しつつ肘を叩き込んだり、とにかく良く転がる事の多い武術でもある。

「らっ、らっ!!」

向かって来た兵士の姿勢を崩して、肘を兵士の膝に叩き込む。そしてその後ろから走って来た兵士に回し蹴りを浴びせ、その足の踵を

今倒したばかりの兵士の腹へ。ソエリドの動向を気にしつつ、3人目の兵士は剣を避けた後に身体を掴み、そのまま谷底へ投げ飛ばす。

4人目は腕を取って体勢を崩し、思いっ切り肩を外す。

しかしソエリドはその隙を突いて、栗山に弓を引き絞る。それは栗山の肩を掠め、その間に他の兵士が向かって来た。

「ぐああっ!! くそぉぉぉ!!」

まだ掠っただけだから大丈夫なので、一旦ソエリドを後回しにして兵士の処理にかかる。蹴りかかって来た兵士の左足を掴み、その勢いで

ムエタイの如く肘を顔面に入れてノックダウンさせる。更に回し蹴りを繰り出して来た兵士の足を避けて、その足を取って体勢を崩してから

仰向けにさせて金的に蹴り。そして最後の兵士をミドルキックで谷底へ突き落とし、残るはソエリドだけだ。


だが、肝心のソエリドの姿が見当たらないでは無いか。

(あれ?)

他のメンバーの戦いに紛れ込んだか? と思って素早く見渡すも見当たらない。

(何処だ、何処に居る?)

気配を感じる事は確かなのだが、この状況でボーっとしているのは危険だ。仕方が無いので他にも広場にやって来た他のメンバーの戦いに混じり、

兵士達の始末をする事にする。


その時、栗山の脳裏にある事がよぎった。

(まさか……木の上!?)

そう、ここは森林地帯のすぐ傍なので木の上に身を隠す事も十分に戦略としてはありなのだ。

(いや……そうとしか考えられない)

とにかく小刻みに動き回りつつ、何処かに居るソエリドに弓を引き絞らせない様にする。そしてその動きはソエリドの注意をこっちに向ける為でもあった。

(だけど、木の上に居たって何か弱点がある筈だ!!)

人間が隠し切れない事。スパイ映画でも良く潜入に失敗しているシーンがある。

それを色々と考える内、ある1つの結論に栗山は達した。そして辺りをキョロキョロと見渡し、一点に視線が集中する。

(あれか……!?)

試しに大きめの石を素早く拾って、そこに思いっ切り投げてみた。するとそれでソエリドの位置が判明したのだ!!


(やっぱりそうだ!!)

森林の方は木で暗くなって行っているとは言え、ここは朝から昼間になりかけている太陽の光がさんさんと降り注いでいる。そしてソエリドの服は

黄緑だが、ピンク色の頭が木の間からはみ出しているのに栗山は気がついた。

(映画で影が原因で隠れているのがバレたりって事もあったが、それと似た様な事がここでも通用するとはなぁ!!)

その頭に向かって石を投げつけ、ピンク色の部分が移動するのを見ながら栗山の考えは確信へと変わる。

栗山はその木の下へと走って行き、身軽にひょいひょいと木を上りソエリドの足を掴んで引っ張り下ろす。接近戦に持ち込む事が出来れば

もうこっちの物だ。

「残念だったなぁ? 木の上からこっそりって作戦だったみたいだけどよぉ!!」

「ぐ……ぐぐ……何故僕の作戦ががばれた!?」

「さぁ、何ででしょうねぇ? あの世でじっくり考えろよっ!!」

ボディブローを3発ソエリドの腹にかまし、右腕を取ってそのまま巴投げに持ち込み、右腕を掴んだまま谷底へ向かってソエリドを押し出す形で投げ飛ばした。

「おわああああああーーーーっ!!」

ソエリドは絶叫しながら谷底へと消えて行き、栗山は見事彼を殺す事に成功した。


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