Run to the Another World第207話
栗山と共に森林方面に逃げるエスティナにも兵士の手が迫っていた。
「え……きゃっ!」
「危ねぇ!」
間一髪で木陰から振り下ろされたロングソードを、エスティナは栗山に突き飛ばされて回避した
一方で栗山は兵士に飛び蹴り。そのままよろけた兵士にストレートパンチをして気を失わせる。
「ふう……」
一息つくが、そんな彼の前にはリーダー格の大きなハンマーを振り回す白髪の騎士が迫って来ていた。
「御前も異世界人だな?」
「そうだけど……誰、あんた?」
「俺は第7パラディン部隊隊長のイデス。どうやらそっちの女はこの世界の人間らしいしな、
大人しくしていれば苦しませずに殺してやる。覚悟するんだなっ!!」
が、そんな彼に思いっ切りドロップキックを食らわせたのが追って来た兵士を全て倒して背後からやって来た恵。
「ぐほっ!!」
「エスティナちゃん、栗山さん、ここは私が!」
「ええ……!」
「ぐっ、3対1とは卑怯な!!」
「相手は私だけよ」
「この女め……ぶっ殺してやる!」
そんな押し問答が繰り広げられた後、軽々とハンマーを振り回して来るイデス。
それもその筈、このハンマーは推定1メートル80センチ。ハンマーと同じ位の身長がある大柄のイデスはそれを
軽々と振り回して恵に襲い掛かって来る。
(くっ!!)
大振りな攻撃なので避けやすいと言えば避けやすいが、当たったら真面目に骨が砕ける位にはなるだろう。
そこで大振りな攻撃に対抗する為に、スピードで翻弄して行く作戦に出る。スピードと言えば、自分が習っていた
キックボクシングのテクニックから足技と肘打ちを取り払ったこの格闘技がぴったり当てはまる。そう、ボクシングだ。
握った拳で殴る行動は、自分達人類が二足で歩行を始めてから既に会得していた攻撃手段だとも言われており、
その歴史は古い物だと言われている。根拠は紀元前4000年ごろの古代エジプトの象形文字から軍隊で
使われていたと言う象形文字が発見されたり、クレタ島にあった紀元前3000年頃のエーゲ文明の遺跡から
ボクシングの図が書かれた壷が発見されたりと言う事から推測されているのだ。コロシアムで見世物になったりして死者も
大勢出た様だが、436年、西ローマ帝国が滅びると共にこの古代ボクシングも姿を消した。そんな生い立ちで
ボクシングは姿を消したものの中世からまた姿を現し、現在では世界中で愛されるスポーツとなっている。
イデスのハンマーを振るスピードは、それまで恵の認識からしてみればかなり速い部類に入る。だがボクシングの方が
圧倒的に瞬発力が上だ。しかし攻撃力はハンマーの足元にも及ばない。どうやって決着をつけるべきか悩む所である。
こうなったら奥の手を使うしか無い。まずはイデスが振りかぶって来たハンマーを避け、それからボディブロー、右ストレート、
そして顎へのアッパーと繋げて行く。恵の同じくアッパーによって急所を打ち抜かれたイデスは、一瞬意識が飛んだ。
そして前のめりになった彼の首を両腕で抱え込み、膝蹴りを10発程連続でかます。
「や、や、やぁっ!!」
そのまま上から下へとアッパーの要領でイデスの腹にボディブローをかました。
そんな衝撃の連続で四つん這いになり地面にうずくまるイデスの首に手をかけ、恵は一気に捻り上げた。
「このぉ!」
「ぐがっ……」
ゴキッと言う鈍い音がイデスの首から聞こえ、そのままイデスの身体からは一気に力が抜けてしまってドサリと
地面に崩れ落ちて息絶えるのであった。
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