Run to the Another World第205話


グレイルはメガネをかけた黒髪の騎士と対峙していた。

「あんたもリーダーか」

「第9パラディン部隊隊長のセレスだ。異世界の人間には興味があるから、

調べ上げてから殺してやる」

「男に身体をまさぐられる趣味は、俺はあいにく持ち合わせていないっ!」

それだけを言って、グレイルはセレスと向き合う。

(モーニングスターって奴だな。やり辛いそうだ。ならばこっちもトリッキーに!!)

そんな事を考え、グレイルはのっけからセレスを驚愕させるやり方で攻撃する事に。


「はぁっ!」

「うっ!?」

何と今までの蹴りとはまったく違う、低い姿勢から上に向かって蹴り出す蹴り技を繰り出す。

セレスは反射神経を駆使して避けるが、そのまま勢いをつけてグレイルは

倉庫の壁を使って壁蹴りの要領でセレスにキックを当てる。

「ぐはっ!!」

その後も間髪入れずに、グレイルの変則的な蹴りは続く。

グレイルが使っているのはブラジル生まれの、元々は囚人が脱走する為に

開発したとされているカポエイラだ。「カポエラ」と良く語表記される格闘技……と言うよりは

ダンスの様なエンターテインメント性が大きい武術であり、囚人は手かせによって手が

使えなかったので、ダンスの練習をする振りをしてアクロバティックな動きになったと言う。

ただし生まれた背景は良くわかっていないので、これは後世に伝わった時に作られた

想像でもある。


そんな生い立ちがあやふやではあるが、トリッキーな動きが特徴的なカポエイラ。

基本的にはエンタテインメントとして扱われている為に、相手に攻撃を当ててしまうのは

下手な選手と言う扱いを受ける。しかし今の状況では攻撃を当てなければいけないので、

しっかりとグレイルはカポエイラの技を当てに行く。

だがセレスも負けずに、グレイルが立ち上がった所でモーニングスターを振るう。

ヴィリザと同じくカンフーの要領で振り回して行くが、若干型が違うらしい。


「トリッキーだな」

「見慣れない技を使う物だ。これはますますあんた達に興味が湧いて来た。

さっきも言ったが、殺すのは異世界の事をじっくりと聞いた後にしてもらおう」

「探究心が強いな。……御前は学者みたいだな」

「学者のなり損ないだ。探究心だけはあるもんでね」

再びバトルがスタートするが、あまり長引かせても居られない物である。

ただ、足技だけで決着をつけるのは難しい。

如何にかしなきゃ……と思っていた矢先、視界にある物が飛び込んで来た。

(……そうだ、これだ!)


方法が決まれば、後は攻め立てて行くだけだ。

まずは低い姿勢から回し蹴りを連続で繰り出しつつ、前に進んで行くスタイルでセレスに向かう。

こうすれば低い姿勢のバトルに慣れていないのか、モーニングスターを余り振るえないセレス。

そしてセレスの足を払い、そのまま勢いをつけて前方に回転して膝を落とす。

「ぐほっ!?」

セレスが悶えている内に素早くTシャツを脱ぎ、それをセレスの首に巻きつけて引っ張り上げる。

「ぐ!?」

何とかグレイルを引き剥がそうと暴れるセレスだが、モーニングスターを闇雲に振るっても

スピードが遅すぎて腕をグレイルに掴まれてしまう。

そしてそのまま片手で手首をひねり上げられ、モーニングスターを取りこぼしてしまった。


「ぐあ……うぉ……げぇ……」

「俺等に喧嘩を売った事、あの世で後悔させてやる!」

「……がはっ……!!」

痙攣していたセレスの身体が更に激しく震える。

グレイルは力強くTシャツを引き寄せて、片膝立ちになって一気に上に引っ張り上げた。

「うおぉぉっ!」

グレイルの雄叫びが港湾付近の他のバトルにかき消されると同時に、セレスは息絶えて昇天して行った。


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