Run to the Another World第203話


周二にルストを任せ、矢が見えた方へと走る大塚。狙われたのは広場から

港湾部分へと繋がる倉庫の上らしい。しかし倉庫の上から狙われていると

なるとなかなか見つけ難い。

(くそっ、何処だ? 何処に居るっ!?)

相手も居場所がばれるのを警戒して矢を撃って来ないのだろうか?

大塚にとってはチャンスであるが、時間も無いそんな時だった。

(……あ!)


倉庫の方に向けた視界に紫の髪の毛が飛び込んで来た。

そしてその主が持っているのは間違いなく弓だ。

問題は奴が倉庫の上に居るのでどうにかしなければならない。

(だったら……!)

大塚は倉庫の裏へとこっそり回り込み、そこにあった倉庫の壁にくっつけて設置されている

はしごを登ってそのまま素早く男に駆け寄り、胸倉を掴んで顔面にストレートパンチをして

屋根から落とす。そこから大塚とこの男のバトルが始まる。


だけど男も負けてはおらず、上手く地面に受け身を取って着地すると素早く弓……

射程距離の長いロングボウを構えると、大塚に向かってその矢をきりきりと引き絞って放つ。

「ぐっ!?」

その素早さに、大塚は近づく前に倉庫の陰に隠れるハメになってしまった。

「良い反射神経だな」

男が話しかけて来るので、大塚も応対する。

「ああ。あんた、接近戦は苦手か?」

「あいにくだがな。けど俺に近づける物なら近づいてみろ」

「あんたを倒さなかったら俺達は先へと進めなさそうだ。あいつ等の仲間だろ、あんたも?」

「そうだ。俺は第11パラディン部隊の隊長のアルオンだ。御前の名前も聞いておこうか」

「大塚だよ。ま、名前なんてどうでも良いさ」


飛び出すタイミングを窺いつつ、意を決して大塚は倉庫の陰から隣の倉庫の陰へと

前回り受身で移動する。

その瞬間、物凄い勢いで2本の矢が地面に突き刺さった。

「くっ!」

「隠れるだけなら、俺は倒せないぜ?」

「そんな訳無いさ。今に見てろ」

弓の腕は隊長と言うだけあって良さそうだが、接近戦に持ち込むなら勝機がありそうだ。

(だけどあのアルオンって奴の弓は、射程距離も長いしスピードもある……どうにか出来ないか……)

正面きっての突破では、身体を穴だらけにされてしまうだろう。

(……よーし……)

大塚はある作戦を思いつく。危険な賭けだがこれしか無さそうだ。


アルオンは大塚が隠れている倉庫の陰の様子に全神経を集中させる。

「出て来たら1発でしとめてやるよ」

そう言いながら弓を引き絞ったまま身構えていると、倉庫の陰から動きがあった!

(貰った!)

そこに向かって2本の矢を放つが、それは大塚では無く木箱であった。

「!?」

しまったと思った次の瞬間には、アルオンの身体に凄まじい衝撃がやって来た。

「がぁ!?」

大塚は傍に積まれていた木箱をおとりにしてアルオンの注意を引きつけ、木箱を投げると

同時に倉庫の陰から飛び出して、思いっ切りアルオンにドロップキックを食らわせたのであった。

(一か八かの賭けだったけど、ヒヤヒヤしたぜ!!)


ここから大塚はキックボクシングの技で反撃を開始する。

キックボクシングはムエタイと空手とボクシングを源流にして、グローブを着けた手足の打ち合いを

ムエタイから引っ張って来た競技だ。日本で生まれたスポーツであるが、今ではキックボクサーに

限らずにムエタイやシュートボクシング等の選手が参加して戦う異種格闘戦になる事もある。

ヨーロッパのルールでは安全面から考えて、肘を使う事と頭への膝蹴りは禁止となっている。

ちなみに有名なK−1のルールは、このヨーロッパのキックボクシングルールをアレンジして作られたのだ。


弓を大塚は素早く足で蹴り落とし、ロー、ハイ、ミドルとキックを繋げて行く。

何とか持ち堪えてアルオンも右のキックを繰り出すが、大塚はその右足を掴んで

捻り上げてバランスを崩させ、膝を地面についたアルオンの背中を左足で蹴り付ける。

「ぐぅ、あ……!」

立ち上がろうとするアルオンの右足を今度は自分の右足で蹴り付けて、そのまま

再び膝を着いた彼の顔面にストレートパンチ。

「ぐがっ!」

頭に衝撃を受けてふらっと来た彼の頭目掛け、渾身の回し蹴りに近い

逆からの右ハイキックをアルオンの頭にヒットさせる。

「が!?」

その瞬間アルオンの首から骨が折れる音が聞こえ、彼は息絶えて地面に力無く倒れ込んだのだった。


(これで一先ずは終わったか……)

大塚は安堵の息を吐いたがまだ終わった訳では無い。

自分の戦いは終わったが、まだ向こうでは大勢のバトルが繰り広げられているのだ。

(まだ居るんだよな。……良し、行くぞ!)

キックボクシングで第11パラディン部隊隊長のアルオンを殺した大塚。

しかしまだ近くでは大勢の異世界人達や軍人達が戦っている。

自分が加勢に向かわなければならないと考え、大塚は息つく暇も無く走り出した。


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