Run to the Another World第202話


「危ない!!」

咄嗟に洋子が、周二に向かって身体ごと抱きついて転ばせる。

「うおっ!?」

それもその筈。周二が立っていた場所には深々と、1本の矢が突き刺さっていた。

「は、だ、誰がこんな物……!!」

だが間髪入れずに、今度はグレイルの後ろから殺気が迫って来る。

「くっ!」

前方へと飛んで受身を取り、グレイルが振り返るとそこには槍を持った茶髪の男が立っていた。

「御前は……!?」

一斉に一同は武器を抜いたり身構えたりして男に殺気を放つ。


しかし、そんな一同の後ろから今度はジェイノリーの悲鳴が。

「うわ!」

そっちの方向を見てみると、黒い下地に赤いラインの入った制服を着込んだ黄緑色の髪の男が

手にロングソードを持って立っていた。

(こいつも仲間……!?)

ジェイノリーがそう思ったその男はロングソードを構え直し、苦々しげに呟いた。

「外したかっ!」


ふと一同が周りを見てみると、何時の間にか音も無しにカラフルな制服を着込んだ大量の人間が

武器を構えて立っていた。その人間達を見たエスティナが声を上げる。

「ら、ラーフィティアのパラディン部隊!?」

「何だと?」

思わずカルヴァルが声を上げるが、エスティナはまだ言葉を続ける。

「いえ、あの……滅亡する前のラーフィティアの騎士団です。それからまだ別の集団も居るわ。そっちの黒ずくめの男達が」


エスティナが視線を向けた先には、かつてヘルヴァナールの外側の6ヶ国で見かけたり見かけなかったりした奴等が。

「あれ、あの赤毛の奴……イディリークの別荘に居た奴だ」

「金髪の奴ってアーエリヴァの別荘に居た奴じゃね?」

「緑の髪の奴はラーフィティアの火山の……」

「黒髪の奴ってヴィーンラディで戦った奴だよな?」

ぼそぼそと地球人の中からそんな声が上がるが、闇より現れし龍撃剣のリーダーであるリヴァラットがその男達の正体を言う。

「御前等、確かラーフィティアの傭兵団!? それに窃盗団の血塗れの狂戦士(バーサークグラップル)の奴等だろ!」


指名されたその血塗れの狂戦士(バーサークグラップル)のリーダーらしきヒゲの男が前に出て来る。

「いかにも。御前達が遺跡の秘宝を狙っているとイディリークで聞いて、邪魔してやろうと思ったのだがな。

だが考えが変わり、俺達はこいつ等と組んだんだ」

「……傭兵団と? ……って事は、イディリークの遺跡の兵士を殺したのは……」

博人がそう尋ねると、今度は傭兵団の緑色の髪の男が出て来た。

「ああ。イディリークの遺跡で駐屯地の兵士を殺したりしたのは計画に邪魔だったからな。濡れ衣は偶然だ」


「な、何ですって!?」

「御前達の兵士は弱過ぎて話にならなかったぜ。もっと鍛えてやれよ」

はっはっはっ、と高笑いをする傭兵団の赤髪の男に地球人とヘルヴァナール各国軍側の殺気がピークに達する。

「で、ここに来たのは一体どう言うつもりなんだ? まさか霧が晴れているタイミングを狙って来たのか?」

孝司の問い掛けに、今度は血塗れの狂戦士の黒髪の男がうなずく。

「ああそうだ。ゼッザオに多数の軍勢が向かっていると聞いてその後を追い掛けて来たらこれだ。御前達が色々と

活躍してくれたおかげで、秘宝を探す手間が省けて助かったぜ!!」


そう言いつつ傭兵団も血塗れの狂戦士も戦闘態勢を取る。

「全員、かかれっ!」

緑色の男の号令と共に、いきなり人間が襲い掛かって来るので一同も武力行使で対抗せざるを得ない。

「な、な!?」

「くそぉ!」

周二は手近の敵の女を倒してから、ジェイノリーに斬り掛かって来たさっきの黄緑髪の剣士の元へ走って行く。

それを見掛けた大塚も周二と共に向かって行ったので、ロングソードの剣士の相手は関節技の周二と足技の大塚になった。


「御前はリーダーか!?」

「ああそうだ。俺は第12パラディン部隊隊長のルストだ」

剣士はルストと名乗る。武器を持っているがこっちは2人。大塚と周二はルストを挟み込む様にして、的を出来るだけ

絞らせない様にするのだ。

「おらぁ!」

ルストが斬りかかって来るが周二はそれをかわしてボディブロー。更に背中を大塚が蹴り付ける。

そちらをルストが振り向けば今度は周二の羽交い絞めが決まり、そこに大塚のドロップキックが炸裂する。

「ぐぉ!」

キックの反動で倒れこんで立ち上がり、更に追い討ちをかけようとする大塚。


だがそんな大塚の目に、倉庫の上できらりと光る物が目に入った。

「ちっ!」

咄嗟にジャンプをしてもう1度ルストにドロップキックをしつつ、ルストごと周二を蹴り飛ばす。

そのジャンプをした場所にさっきと同じ矢が突き刺さる。

どうやら倉庫の上から狙い済まして大塚はショットされたらしい。

「周二っ!! アーチャーが居る! 俺はそっちに向かう!」

「おっ!? おう……!」

びっくりしながらも、これで戦況は周二とルストの1対1になってしまった。


「やっ、はっ、らっ、おらあっ!!」

周二はルストのロングソードを避け、そのままプロレス技でもありルチャリブレの技でもある

フランケンシュタイナーで地面にルストを倒す。

「ぐあっ!」

1回転して背中から地面に叩きつけられ、痛みで上手く体が動かないルスト。

チャンスとばかりに周二は一気に組み伏せ、首に腕を絡ませて思いっきり勢いをつけてひねり上げる。

「う……おらあああああああああああっ!!」

「こっ……!!」

映画やドラマの中で首の骨を折って殺すシーンがあるが、即死するパターンとそうではなく

意識があるけれども首の骨が折れた事で、徐々に酸素が行き届かなくなって苦しんで死ぬパターンがある。

周二がルストにやったのは前者の即死のパターンであり、角度で言えば真正面から見た時に130度位

ルストの首が後ろに回転して傾いており、構造上おかしな状況になっていた。


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