Run to the Another World第20話


「そのドラゴンの行方は掴めたのですか?」

「いえ……何分俺達も再襲撃して来ていた者達の処理に手間取っておりまして。

飛んで行った方角は東方面だと言う所までは分かったのですが、それ以上の事については……」

「東ですか……?」

ルザロの報告にカルソンは疑問の声を上げた。と言う事は、恐らくあのドラゴンに乗って

異世界人達はアーエリヴァ方面へ向かった可能性が高いとカルソンは踏む。

「こちらからも軍を派遣したい所ですが、異世界人と言う前代未聞の存在が現れた以上、

余り大事に出来ないのも事実です。それにおおっぴらに軍を動かせば、軍事侵攻と言う形で

国同士……いえ、伝説のドラゴンが現れた以上は世界規模の問題になってしまいますから」

そう考えたカルソンは1つの決断を下した。

「ですから、追跡人数は最小限にしてあの方達を追って下さい」


それに鍛錬場で見た通り、グレイルがまさかルザロを倒す程の実力を持っていた事に

ファルス帝国のメンバー達は驚きを隠し切れなかった。もしグレイル以外のメンバーも同じ様に

あれだけの戦闘力を持っているのであれば、他の残りのメンバーに関してもグレイルと一緒に

トレーニングをしていた以上それぞれ凄腕の侮れない実力者であるのでは無いのか。

だからこちらも実力者ばかりのメンバーで、人海戦術も兼ねて追跡すると言う結論が出た。

「ともかくそいつ等を俺も追いたいが、俺は執務と政務がある以上追う事は出来ない」

そこでだ、とセヴィストはルザロとシャラード、それからリアンとラシェンの方を向いた。


「ルザロ・ファラウス、シャラード・クノファン、リアン・カナリス、ラシェン・ルーザス。

ファルス帝国皇帝、セヴィスト・ティリバーの名の下に命ずる。

アーエリヴァ帝国への入国許可が取れ次第、最小限の人数でそいつ等を追え。

ただし生け捕りにして帰って来るのだ。何をしようとしているのか調べて問い詰めろ」

「「「「はっ!」」」」

4人の団長はそれぞれ完璧に返事をした。城の事はそれぞれの副官に任せて、自分達は突然現れた

あのドラゴンと共に逃げたあの11人を追う。このミッションは皇帝直々の命令なので失敗は許されない。

それと念の為に反対側の隣国であるヴィルトディンとシュア、そしてエスヴェテレス帝国にもそれぞれ

伝書鳩を飛ばしておくとカルソンからの連絡もあった。


「しかし、4人もいっぺんに駆り出すとは……陛下も思い切った事をなさる」

「それだけどうしても捕らえたいと言う事だろう」

「ああ……俺達も武人国家の一員として、簡単に逃げられた以上は悔しいからな」

「シャラードの気持ちも分からなくは無いが、手荒な真似はするなよ」

このファルス帝国は別名「武人国家」の異名を持ち、軍事力に関してはヘルヴァナールの中でも

1,2を争う程のトップクラスの規模を誇っている。その軍事力に関して言うと、ラシェンが団長を務め

右翼騎士団が4万人の武力を誇り、リアンが団長の左翼騎士団も同じく4万人。その2つからエリートだけを

引き抜いて構成されたルザロが団長の精鋭騎士団が3万人。そしてシャラードが総隊長の帝国警備隊は

もっとも人数が多く、9万人の合計20万人である。


これだけの人数を軍事力として配置し、実際に魔物も多く駆逐して紛争等も圧倒的な軍事力で捻じ伏せて来た過去を持つ。

それだけ軍事力には自信を持っていたが、今回の王城襲撃事件に関してはその自信が木っ端微塵に打ち砕かれる事になった。

集団としての実力は確かに強いが、個人としての実力になればグレイルの件もあってかあんな騎士団員でも無い奴に負けるのか、

こんなに簡単に襲撃されて良いのかと言う意識が今4人の中には芽生えている。

更に異世界人達が全員トレーニングをしていたのは知っているが、そのどれもが腕立て伏せや走りこみ、腹筋等の基礎

トレーニングばかりで実際にあれだけの格闘術を使いこなす人間が居ると言う事が最初は分からなかった。

「異世界の人間であるが故、見た事も無い能力を持っていても不思議では無いと言う事か……」


ルザロがそんな思いを吐露して悔しそうな表情をしたが、他の3人と一緒にとにかく許可が出るまで待つしか無いと言う事になった。

武人国家として、絶対にこのミッションは成功させると4人の団長達の目にはぎらぎらとした光が宿った。

自分達はその軍事力がトップクラスだと言う事、武人国家と言う2つ名を国全体でこうして示している事で

油断と慢心が生じていたのかもしれない。今まで考えてみれば自分達ファルス帝国の方から他国に対して

攻め込むばかりであり、攻め込まれた事は片手の指で数えられる位しか無かった。その高いプライドが今回

こうして墓穴を掘る事になったのでは無いかと言う考えも、団長達の頭の中をグルグルと駆け巡る。

そして部隊の準備も整った翌日の朝、隣国であるアーエリヴァ帝国から部隊を率いての入国許可が下りた為に

ファルス帝国のメンバーは約30人程のエリート部隊をそれぞれ1つずつ率いて出撃。アーエリヴァ帝国の方も協力は

惜しまないとの事だったので、素早く終わりそうな予感がする。こうして見えない鬼ごっこが今、幕を開けるのであった。



Run to the Another World ファルス帝国編 完


Run to the Another World第21話へ

HPGサイドへ戻る