Run to the Another World第198話


令次は淳と孝司とはぐれてしまい、セヴィストと共に3階を駆けずり回っていた。そうして通路を

駆け回りつつ兵士達を倒していると、今まで目に入った物より一際大きい扉に辿り着いた。

「あそこ……何だか怪しいな」

「ですね。一気に蹴破りましょう」

セヴィストもどうやら考えていた事は同じの様で、令次はセヴィストと共にその扉をダッシュで

文字通り蹴破る様に蹴り開けた。

その部屋の中には大きな机があり、その向こう側には大きな窓。窓の前にはこちらに背を向けて、

後ろで手を組んで外を見つめている銀髪の男の姿があった。男は令次とセヴィストが扉を蹴破った事に

気が付くと、後ろを向いたまま口を開いた。

「異世界の住人よ、見えるか? この霧が。……この霧の向こう側には、腐りきった世界がある。

その世界を私は変える為に、今まで軍備を整え、国を興した。世界に革命を起こす為にな。

その邪魔をしようと言うのであれば、ここで死んでもらう事になる」


後ろを向いたままそう告げる男に、令次は口を開いた。

「それは無理だ。現に俺達がここまで来たと言う事は、俺達にやられる程の戦力しか無かったと言う事だろう」

寡黙で感情を余り出さない令次は、今思っている事を言葉にして銀髪の男にぶつける。

その令次の発言に、男はゆっくりと令次とセヴィストの方を向いた。

「それは確かに予想外だった。御前達がまさかここまでやるとはな」

「異世界人だけでは無く、俺達も居るからな。ゼッザオ以外の各国の軍が1度にここに攻め込んだら、御前達でも歯が立つまい」

セヴィストは銀髪の男の賞賛にそう返した。

「そうか。ならその状況で私が勝てばこの世界のみならず……異世界人の世界にまで攻め込んでやろう!!」


それと同時に銀髪の男は、机の下から特徴的な武器を取り出した。

その武器を見た令次がポツリと呟く。

「ハルバード……」

「ゼッザオ王国の国王、ハヴィス・ディレッドが、異世界の住人とファルスの皇帝を手厚い歓迎でもてなしてやろう」

「……サーティンデビルズリーダー、宝坂令次、参る!!」

「令次、油断するな!」

令次は腰に届く程の黒髪を後ろで縛った状態なのに対し、ハヴィスは同じ位の長さの銀髪を後ろに垂らしたままだ。

ジンガをやりつつハヴィスを牽制する令次。そのジンガの妙な動きに戸惑いつつ、こちらもハルバードを構え令次とセヴィストを

牽制するハヴィス。そしてハヴィスがまず動く。

ハルバードのリーチを活かした突き、強突き、薙ぎ払い。令次とセヴィストはそれを身を翻して何とか避けていく。


そのまま薙ぎ払いを繰り出して来たハヴィスの横を前に転がって令次はハヴィスの後ろを取り、右腕で彼の右腕を、

左腕で彼の左腕を肩の付け根から左腕で押さえ込む。

「ぐう…う!!」

「くう…!」

しかしハヴィスも負けてはおらず、身体を後ろに倒しつつ右足を思いっきり振り上げて後ろの令次に当てる。

この体勢からこのキックはかなり身体が柔らかい証拠だ。

「ぐわ!」

両手で自分から見て顔の右半分を抑える令次に対して、すぐさま振り向いたハヴィスはセヴィストから距離を取り、

セヴィストの顔面に向けて上段薙ぎ払いを繰り出す。それを見たセヴィストは咄嗟に上半身だけ屈んで回避。

更にハヴィスが襲い掛かって来るので、セヴィストはハルバードの刃先をロングソードで必死にガードして行く。


セヴィストも皇帝としての業務だけでは無く、武人国家の皇帝として武術にも秀でていなければならないと考えて

臣下達と共に武器術や体術の鍛錬を積んで来た以上、そうそう簡単にやられはしない。

そう考えて確実に攻撃を受け止めて反撃するセヴィスト。そのセヴィストの戦い方を見ていた令次の脳裏に

1つの考えを浮かばせてチャンスをもたらす事になる。

(ハルバードはリーチが長いから正面からじゃロングソードよりも先に突き刺さっても不思議じゃ……ん? 突き刺さる……!?)

1つのアイディアが浮かんだ令次は、ハヴィスが座るのであろう執務室のデスクの豪華な椅子を手に取った。

それからセヴィストと戦うハヴィスの横からドロップキックをかまして彼をぶっ飛ばし、体勢を立て直して来た

ハヴィスに椅子の座る面を突き出す。その椅子にハルバードの穂先が向かう。向かった穂先は椅子の座る面に深く突き刺さり、

結果的に大穴を開ける。


そう、その瞬間を令次は待っていた。令次は小さな笑みを唇の端に浮かべ、椅子を思いっきり下へ叩き付ける。

そうなれば刺さっているハルバードも一緒に叩き付けられ、それを持っているハヴィスも引っ張られてバランスを崩す。

「なっ…!!」

動転しているハヴィスは隙だらけ。そこを狙って令次は彼の顔面に、先程のお返しとばかりに革靴の先端で蹴りを叩き込む。

つま先でのトゥキックはかなり痛い。

「ぐっ!?」

よろめきながらも立ち上がったハヴィスに、今度はセヴィストの強烈なミドルキックがハヴィスの腹に入る。

「ぐほっ!」

ハヴィスが前のめりになった所で、令次が右、左、右、左とリズム良くパンチをハヴィスの顔面へ。


そしてセヴィストと同じくパワーと勢いのあるミドルキックで腹から彼を窓ガラスへ叩き付け、とどめにそこにセヴィストの

渾身の突きがハヴィスの胸に吸い込まれた。

「うぐ……」

ハヴィスはうめき声を少し上げただけで、そのままずるりと崩れ落ちて息絶えた。この瞬間、世界革命軍の野望は

ついえる事になったのであった。

「終わったな……」

「……ふう」

令次はその光景を見てため息をつき、奪われた盾を回収してセヴィストと共に皇帝の執務室を立ち去った。


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