Run to the Another World第197話
孝司は淳、令次とはぐれた後シェリスと共に地下へと向かっていた。地図に描いてあった地下の図面に、
先程も淳達と確認したが正方形状の割と大きな部屋を見つけたからである。
怪しそうだなと睨んだ孝司は、追いかけて来る兵士をムエタイで倒しつつ、同じくロングソードを駆使して
兵士を倒して行くシェリスと共にその部屋へと向かった。
「ここか……」
しっかりと追っ手が来ない事を確認し、孝司とシェリスはその部屋の扉から様子を窺う。中にまた大量に
兵士が居ないとも限らない。孝司が中をじっくり観察してみると、そこには誰かが1人こちらに背を向けて
大きな物体の前で作業をしていた。ドアを開け慎重に後ろから忍び寄る孝司とシェリス。不意打ちを
食らわせようとする作戦だ。
だが……。
「……全てを切り裂け、ウィンドカッター……」
「!?」
いきなりその人物から発せられた言葉の中に、物騒な単語が入っているのを耳にする孝司。
とっさに3回転程バック転をして、襲い掛かって来た風の刃を何とかかわした。しかしシェリスは避けきれずに
ウィンドカッターが直撃してしまった。
「良い反応だな」
「そりゃどーも! って、ご無事ですか陛下!?」
「ああ、何とかな……だけど戦えそうに無い」
黄緑の髪が相手から見て左目を隠し着ている上着は緑。その男は優雅な足取りで孝司の少し手前で立ち止まる。
「異世界の奴だな。わざわざ死にに来るとは、馬鹿な奴だ」
何とか無事だったシェリスを壁際に座らせつつ、その言葉に半笑いで返答する孝司。
「いいや、俺はただ探し物をしに来ただけなんだよな」
その孝司の言葉に男はくっ、と笑うと部屋の奥へと駆け出しすぐに戻って来た。男の手には見覚えのある剣が
握られており、孝司は警戒して構える。
「探し物はこれだろう?」
「……バーレン皇国から強奪されたって言う剣か」
そう、それはバーレン襲撃の際に強奪された剣……自分達がバーレン皇国のドラゴンに持って行く様に命じられたあの剣である。
「それを返してくれれば俺は何もしない。……それと……」
返して貰う前に、と孝司は付け加え男に質問をする。
「その後ろのでっかい奴、それは何なんだ? 凄く気になるんだが……」
その孝司の質問に男はああ、と微動だにせずに答える。
「魔導砲だ。これでこの世界の魔力を使い破壊力のある光の弾を撃ち込むと言う訳だ」
「……何だかとてもやばそうなもんだな。さっきのでっかいビームもこれの仕業か?」
「ああ。1発で簡単に村1つが吹き飛ぶ位の勢いだからな。5発も打てば王都や帝都なんて簡単に吹き飛ぶさ」
男の物騒な事を平気で口にする発言に、孝司は悪寒を覚えた。
「マジかよ……! 何でそんな事を?」
「世直しだ。この世界は腐っているから、1回無の状態からやり直す。それが俺等の目的だ」
「……世直しね。で、俺にその事を話したのは冥土の土産なんだろ?」
「そう言う事になるな。ここまで乗り込んでくるお前は勇気がある。死ぬ前に名前を聞いてやろう」
「市松孝司……チームゾディアックのリーダーだ!!」
「良し。ならそのリーダーとやらをゼッザオ連邦国宰相、ベリル・レイブンが手厚く葬ってやるっ!!」
言い終わるか終わらないかのタイミングで、何とベリルは剣を回転させる様に投げつけて来た。
反射的に身を翻してかわす孝司だが、次にやって来たミドルキックには対応出来ずにモロに後ろに蹴り飛ばされてしまう。
それでも何とか体勢を立て直してムエタイの構えを取った孝司だったが、自分に向かって来るベリルの手の中で何かが光った。
「……!!」
凄く嫌な予感がした孝司は再び連続バク転で距離を取る。ベリルの両手にはそれぞれ1本ずつギラリと光る短剣が握られていた。
襲い掛かってくるベリルの短剣による攻撃、それから蹴り技をかわし、受け止める孝司。しかし中々反撃のチャンスが見つからない。
(くっ……強い、強いぜ!!)
孝司も前蹴りや肘打ち、飛び込み膝蹴りとムエタイの技で対抗するも、手数は圧倒的に向こうが上だ。
スピード勝負で負けてしまっている。ベリルは孝司の顔に焦りの色が見えて来たのを見て、両腕を前に突き出して
孝司の身体を串刺しにしようとする。
「っ!!」
咄嗟に孝司はその両腕を掴み、自分が両腕を広げてベリルの前をがら空きに。そしてベリルの顎めがけ、思いっきり
足の裏でハイキックを放った。
「ぐは!!」
しかし、それでもベリルは臆する事無く孝司に向かって行く。短剣による連続攻撃の後に前蹴りを繰り出して、
孝司を後ろへと吹き飛ばした。
「ぐっ……う!」
孝司は背中から壁にぶつかり一瞬呼吸が困難になる。それを見逃さず、ベリルはまた両腕を前に突き出す。
突き攻撃を上半身を動かして回避し、お返しに左手で彼の腹にストレートパンチを入れた。
「っ……く!」
だが、このままでは明らかに自分が何時か力尽きて殺されてしまう。
なのでこっちから仕掛けて行く事にした孝司は、まず向かって来たベリルの足目掛けて左のローキック。
「ぐあ!!」
怯んでもまだ向かって来るベリルに、今度は彼の短剣が繰り出されるよりも早く懐に飛び込んで連続パンチ。
「ぐおあ!!」
その衝撃でベリルは後ろへ吹っ飛び壁にぶつかる。
孝司はそのぶつかったベリルのすぐ横にある、自分とシェリスが入って来たドアを開けてベリルの身体を
ドアに挟む形で何度も何度もドアの上から叩きつける。
「っ、ぁ、っう、っあ!」
殆んど声にならない悲鳴をあげつつ、ドアの隙間から血が噴き出して壁にビシャビシャと掛かって行くのが
孝司にも分かる。そうしてベリルを引っ張り出すと、彼は頭から大量の血を流しながら意識もうろうの状態でうめいていた。
「ぐ……」
それでも孝司の左肩を右手で掴んで来るので、その右手を取って関節技を決めてベリルの右腕をへし折る。
「ぐああああああっ!!」
絶叫が響き渡るがそれもお構い無しに、今度はベリルを部屋の中央に突き飛ばしつつ連続で右のミドルキックと
ハイキックを彼の脇腹と側頭部に叩き込み、そのまま勢いをつけて今度は左足でベリルの左足を小さいジャンプから
下に向かって蹴り付けてへし折った。
「ぐおあああああっ!!」
またもベリルの絶叫が響き渡るがそれも構わずにベリルの胸倉を孝司は掴み、足を折られた事でバランスが
取り難い彼の身体を突き飛ばして、その胸に右のハイキックを入れてぶっ飛ばした。
「ぐがっ……」
魔導砲へ叩き付けられたベリルは運悪く首からぶつかって首の骨を折ってしまい、そのまま地面に落下して息絶えた。
「はぁ、はぁ、終わった……」
何とか勝てた事に安堵した孝司は、壁際に座り込んでいるシェリスの安否確認。
「大丈夫ですか?」
「ああ、俺は平気だ。それにしても御前は強いな。それじゃああの魔導砲を止めよう。それからあの剣も回収するぞ」
孝司は恐る恐る剣を手にして害が無い事を確認し、シェリスと共に少し休んでから行動を再開。
「何か止める為のスイッチとかレバーとかありますかね?」
「俺に聞かれても困るが、止める為の方法がきっと何処かにある筈だ」
結局魔導砲を完全に止める為には、もう1つの緊急用のスイッチとして魔導砲を動かしているコントロールパネルの
中央にあるレバーを動かせば良いと言う事が分かった。
「良し、これでOKですね」
「そうだな……」
レバーを動かした結果、無事に魔導砲が完全に止まったので孝司もシェリスも安堵するのであった。
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