Run to the Another World第196話
リーダートリオは敵の襲撃に遭い、途中でバラバラにはぐれてしまいそれぞれ別行動になってしまった。
その中でBe Legendのリーダーである淳は、最初に自分が怪しいと感じたあの円形の部屋へと
シュアの国王であるレフナスと一緒に向かっていた。
(多分次の角を曲がって、その通路の先が……あった!!)
通路の先に大きな扉を発見した淳は追っ手の兵士達を振り切った事を確認し、扉の前でレフナスと
一緒に部屋の中の様子を窺う。
「誰も居ないみたいだな……」
「ですね。でも用心しなければ」
扉を少し開けて見る限りでは、部屋は入り口の側以外全面ガラス張りだ。淳とレフナスは部屋の中へと足を進める。
その部屋の中には、このファンタジー世界には似つかない現代的な制御装置があった。
淳はその装置の前へと足を運び、何の装置か見た目から予想を立ててみる。
(何だこれは……? あ、これはまさか……!!)
淳の予想が確信に変わろうとしたその時だった。
「おっと、それをいじられちゃ困るんだよな」
部屋の中に声が響いて来たので、バッとその声がする方向を見る淳とレフナス。
そこには紫色の髪の毛に、黒を基調とした上着の男が立っていた。
「こんな所にわざわざネズミが入り込んだって、何も面白い物は無いぜ?」
が、その男の言葉に対し淳は首を横に振った。
「俺にとっては充分に面白い物だと思うぜ。これは恐らく、魔導砲の部屋の魔力の防壁を発生させてる装置だな?」
その問いに男が何も答えないのを見て、淳は確信する。
「答えないって事は当たりって事か。んじゃ止めさせて貰う事に……」
その瞬間、いきなり視界の端から何かが飛び出して来た。淳はそれをボクシングのリングで培った反射神経でかわす。
しかしレフナスはその何かに対応する事が出来ず、モロに顔面に食らって床に倒れて気絶してしまう。それは男の足だった。
「へ、陛下!?」
良く良く見れば男は武器を何も持っていない。まさかと思い、一応男に尋ねる淳。
「魔法使いか?」
「いいや、俺は魔導は使えない」
その返答に、感心した様に淳は首を縦に振った。
「……へぇ、そうなのか。てっきりこの世界には、そう言う戦い方は無いと思ってたけどな……。この世界に来てから俺は
初めてだよ……こっちの世界の奴が素手「だけ」で戦うのを見るのは」
「……御前もそうなんだな?」
「ああ。しかも、俺はこれで時々飯を食っているもんでね。だから負けられないんだよなぁっ!!」
言い終わるか終わらないかと同時に、淳は右のストレートを男に繰り出す。だが不意打ちを狙ったその攻撃は男にかわされてしまう。
「……良いパンチだ。流石に自分からそれで飯を食っていると言うだけの事はあるな。名前を聞いておこうか?」
「坂本淳だ。異世界人の1人! ……御前は?」
「エイシルド・ヴェリスルード。ゼッザオ連邦国将軍だ。お手並み拝見と行こうか」
「お手並みね。だったら俺は、全力で行かせてもらうからな……エイシルド将軍!!」
淳とエイシルドはお互いに腰を落として、まずは淳がレフナスを部屋の隅にゆっくりと寝かせておく。そして装置から離れた場所で
スペースが充分にあるのを確認して向かい合った。
どちらからとも無く動き始め、壮絶な打ち合いが始まる。
淳がパワーのあるコンボを繰り出してエイシルドの顔に右ストレートを入れれば、エイシルドはお返しに右のミドルキックで応戦。
更に続けて蹴りを放って来るが、淳はそれをかわしてカウンター気味にフックを入れる。だが、それにあまり怯む事無く淳の足を
自分の足で払うエイシルド。
「ぐ!」
「おらああ!」
倒れた後の追撃をしてくるエイシルドのキックを転がって回避し、一旦距離を取る淳。
(ちっ……ボクシングスタイルじゃ限界があるな。それに向こうの方が腕も足もリーチが長い……。余り長引かせるのもきついしな。
短期決着だ……冷静になれ!!)
一旦深呼吸をし、一息置いてエイシルドに淳が向かう。とにかく重要なのは相手に攻撃のチャンスを与えない事。
その為に素早いワン・ツーからスピードを重視したパンチのラッシュを繰り出す淳。次に相手の耳を掴んで、相手がその手を
引きはがそうとする所でがら空きになったボディに淳が膝蹴りを入れる。が、エイシルドもすぐに体勢を立て直して左の肘打ちを淳の脇腹へ。
怯んだ淳の腹にストレートパンチを入れ、後ろの窓へ淳を叩き付ける。
「ぬあ!」
さらにエイシルドがパンチを放って来るので、淳はそれを身体全体でかわして回避。
そこからまた続けて打って来るエイシルドのパンチをきっちりかわし、エイシルドの
髪の毛を右手で掴みあげる。
「あううっ……!?」
淳の手を振り払おうと頭を下へ動かすエイシルドの顔面に、強烈な左フックを入れる。
「ぐあ!!」
怯んだ所で更にパンチのラッシュを淳はかけ、エイシルドの腹に渾身の一撃とも取れる強烈な右ストレートが入った。
エイシルドは文字通り吹っ飛び、背中から地面に叩き付けられる。それでも淳は追撃の手を止めず、立ち上がりかけたエイシルドを
無理矢理掴んで起こし2回目の強烈な右ストレート。後ろの窓に叩き付けられた彼に対し、胸にボディ2発、怯んで前のめりに
なった顔面に1発、さらにボディに約6発。最後にエイシルドの胸倉を掴んで自分の方向に引き寄せ、思いっ切り彼の頬に右のパンチを
繰り出して吹き飛ばした。
「ぐふぅあっ!!」
吹き飛ばされたエイシルドは窓を突き破り、声も上げずに下へと落ちていった。
淳が下を見てみれば、うっすらとではあるがうつ伏せにエイシルドが倒れているのが目に入った。その彼の身体の周りには血だまりが
出来始めており、ピクリとも動かない事から死んでいるのは容易に予測出来た。
「1ラウンド、俺の反則負け……だな」
勝負には勝ったが試合には負けた。そんな思いを抱きつつ、淳は装置を見る。すると数々の細かいボタンの中に、明らかに怪しそうな
いかにも押して下さいとばかりの大きな赤いボタンがあった。
(これかな?)
今の所怪しそうなボタンはこれしか無い。淳がそのボタンを迷わずに押すとシューン……と言う音と共に何かが解除された様な音が響いた。
(あ、これで魔導砲の機能が……)
これでようやく魔導砲を止める為のステップが終了したので、部屋の隅で倒れているレフナスを介抱しながら淳は安堵の息を吐くのであった。
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