Run to the Another World第195話
「おーい、どこに行くんだよ? もっと俺と遊ぼうぜぇ?」
明と別れて走って逃げる藤尾だが、それでもしつこく食い下がってくるのが魔術師のリレク。
(し、しつこいぜ……!!)
ドアを開け、通路を抜けとにかく走り回る藤尾。そうして幾つめかの通路の先にあった扉を開けると、
そこには細長い通路があった。その突き当たりにはドアが見える。後ろからはリレクが追って来ているので
引き返せない。このままドアに向かって走るしか無さそうなので、何とかその先の場所で振り切って
逃げ切りたい所であった。
だが、突き当たりのドアを開けた藤尾には残酷な現実が待っていた。
「そ、そんな……」
思わず藤尾が声を上げるのも無理は無かった。ドアの先は、オールや木船のメンテナンス用品が置いてある
船着場の倉庫。そして奥のドアの先にある物は、ボートの無いだだっ広い船着場であった。これは振り切ろうと
思っても振り切る事が出来ないし、引き返そうにもリレクが迫って来ている。そして絶望する藤尾の後ろからは
凄く楽しそうな声が掛かる。
「もうおしまいだよ。その先は行き止まりなんだ」
後ろを振り向けば、愉快そうに笑いながら手を前にかざすリレクの姿があった。
嫌な予感がした藤尾はとっさに床に転がる。すると今まで藤尾が居た所に氷の柱が3本飛んで行った。
「ちっ!」
外したリレクが苦々しく舌打ちを漏らした。
そんなリレクを見た藤尾はクイクイッと手招きをし、リレクを外の広い船着場に誘い出す。
このまま逃げ回っていた所で殺されてしまう位だったら、戦った方がまだ望みはあると言う物である。
プンチャックシラットを俳優時代から長年習って来た事もあり、生半可な奴には負けない自信だってあるのだ。
「俺とやるつもりか?」
「ああ。いっその事ここでケリ付けた方が早いし」
「そうか。なら本気で相手させて貰う。……さぁ、始めようぜ」
リレクが魔法の詠唱を終えるまでは時間が出来る。それを考えた藤尾はリレクに向かうがそんな藤尾に
対し、リレクは右のキックで藤尾の身体を蹴り飛ばした!!
「うっ!?」
更に右手で掴みかかって来るリレクだが、藤尾はお返しとばかりに前蹴りをリレクに繰り出して蹴り飛ばした。
「ぬあっ!!」
しかしすぐに体勢を立て直したリレクは、右のハイキックを繰り出して藤尾に攻撃。よろけた所で右手で
藤尾の黒いシャツを掴み、左手で思いっきり彼の顔を殴りつける。
「ぐわ!!」
更に連続で右のパンチも顔面に入れ、藤尾の後ろへとリレクは回り込んで羽交い絞めにする。
(くそっ……!!)
何とか振り払おうとする藤尾だが、細身の外見に反して結構パワーがあるリレクは離れない。
ならばと藤尾は全力で後頭部からの頭突きをリレクの顔面へ。
「ごばぁ!?」
更に左腕で肘打ちを食らわし、連続コンボを決める。
「ぬあっ!!」
後ろの壁へぶつかるリレクだが、壁をバネにして右のキックを藤尾の背中に繰り出しよろけた藤尾をまた羽交い絞めにする。
「ぐう……う……!!」
白い手袋をはめたリレクの手が藤尾の首を直に絞める。だが両手が空いている藤尾はそのリレクの手を掴み、思いっ切り噛み付いた!!
「があああああっ!?」
リレクが叫び声を上げると同時に彼の手の力が緩む。そこを見逃さず藤尾はもう1度頭突き。再びリレクがよろけ、今度は藤尾は
振り向き様にリレクの胸に左ハイキック!! 悶絶したリレクは膝立ち状態になり、少し隙が出来る。
そこから今度はシラットの特徴の1つでもある、膝の関節にキックやパンチを当てて崩す攻撃でリレクを倒す。そのまま前のめりに
床に倒れこんだリレクの顔面に、間髪入れずに続けて右のキックを入れる。
「ぐぅ……っ!!」
リレクは顔面を手で覆って悶え苦しむ。その間に藤尾は低い姿勢のままで素早く接近し、立ち上がりかけたリレクに、
小屋の壁に立てかけてあったオールで思いっきり払う!!
「うわっ!?」
足をすくわれて左半身から床に倒れこんだリレクに、藤尾は右のストレートパンチをリレクの顔面へ繰り出す。
リレクと藤尾はほぼ同時に立ち上がったが、藤尾はさらにリレクの股間を思いっ切り足で蹴り上げて追撃をかける。
「おごあああっ!?」
男の重要な部分をクリーンヒットで蹴り上げられたリレクは悶絶し、股間を押さえて悶える。
(チャンスだ!!)
藤尾はリレクに一気に近づき、彼に止めを刺す為にオールを強く握る。
「ぬううんっ!!」
藤尾は1回転して勢いを付け、そんなリレクに対して思いっ切りオールを振り下ろした。
「がっ……!!」
ドゴッと鈍い音がして、リレクは地面に思いっきり倒れ込んで息絶えた。オールが頭にクリーンヒットして打ち所が悪かったのだ。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
最後に今までの事を思い返し、藤尾は一言息絶えたリレクに投げかけた。
「異世界人をなめるな!! 当然、その実力もな!!」
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