Run to the Another World第194話


明と藤尾は突入部隊と一緒に戦いを続けていたが、予想以上に戦いが長引き置いて行かれつつあった。

「お、おい……待ってくれ……!!」

しかし突入部隊はどんどん先へと進んで行ってしまう。そして運の悪い事にこの2人に遭遇してしまった。

リレクとバレードの2人だ。

「おや? 侵入者とは御前の事だったんだな?」

「はー、御前等もしつっこいなぁ! 俺等がそうそう簡単に捕まるとでも思うのか?」

「うん」

藤尾の質問にリレクは爽やかな、しかし殺気を含んだ笑顔で返す。そうして笑みを返したと同時に、

リレクはいきなり特大の雷を2人に撃ち出して来た。

「うわ……」

「げっ!?」

2人は咄嗟に、地面に沿って流れてきたその雷をジャンプして回避。一旦来た道を戻る。

それを見たバレードとリレクも当然後を追い、バレードは手袋に何か細工を始めるのであった。


だが明と藤尾に予想外の事態が巻き起こる。引き返した通路の突き当たりにあるT字型の通路の

分岐の所で後ろに嫌な気配を感じた2人が振り向くと、猛烈な勢いでどデカイ氷の柱が迫って来ていた。

「わっ…?」

「うげっ!?」

魔導が自分達に効果が無いと分かってはいるのだが、どうしても先入観の方が身体を先に

動かしてしまう。その氷の柱のせいで、明と藤尾はそれぞれの通路側に分断されてしまった。

後ろからはもうバレードとリレクが迫って来ている。合流する時間は無い。もう2手に別れるしかない!!

「後で合流しよう!」

「分かった! 死ぬなよー!」

明と藤尾は頷き合い、それぞれの通路に駆け出す。

「俺はあの陛下を殴った奴を追う。御前は顔に傷がある奴を追え」

「分かった!!」

バレードとリレクも通路で別れ、それぞれ明と藤尾を追いかけ始めた。


明はバレードを振り切る為に文字通り全力疾走を決め込む。今走っている通路の先には大きな扉が見える。

そこしか逃げ道が無い為、明はその扉を蹴破る様にして開けた。

扉の向こうには柱が何本も立っており、柱の先端同士からアーチを結ぶ様にして天井を支えている造りになっていた。

(何だ、ここは……?)

至る所に大小様々な物が散乱している事から倉庫なのだろうか? とにかく身を隠すには有効そうな場所である。

明は柱の1つに素早く身を隠した。

「逃げるだけなのか? さっきの陛下への勢いはどうした?」

バレードが明を追って部屋に入って来た。明は柱の影からその様子を窺う。だがそのバレードの姿に明は違和感を覚える。

(あいつ、武器を持っていない……? しかも永治が折ったって言う腕も治ってる!?)

折った筈の腕が治っている上に遠めで見てもはっきりと分かる。剣も弓も槍も持っていない。と言う事は魔法使いなのだろうか?


しかしその時、バレードが意外な行動に出た。

「隠れていないで出て来い。出て来ないのなら、こちらから行くぞ?」

そう言って彼は両腕を振り上げ、まるでダンスの様に振りかざして来た。その瞬間、明の耳に風を切る音が聞こえて来る。

何だかとてつも無く嫌な予感を感じた明が柱から柱へ転がって移動した途端、今まで自分が居た柱に何かが叩きつけられた。

(えっ……え!?)

振り返った明は、それがズルズルと巻き取られて行くのを確認する事が出来た。

そう、某有名人気格闘ゲームのキャラが使っている様な鉄糸を使った攻撃だったのだ……。


「くっそ卑怯だぞ!! それにこの部屋は一体何なんだ!? しかも御前の右腕は永治に折られた筈なのに治っているじゃねえか!!」

そう叫ぶ明に、バレードは攻撃をしながら質問に答える。

「武器を持っていない奴が悪い。この部屋はこの城で1番大きな倉庫だ。腕は俺の相棒の魔導師が

魔導で治してくれた。どうやら御前達は魔導も使えないらしいからな。こっちが有利だ!!」

明を見つけた事で、バレードは手袋に巻き付けた鉄糸を更に明に振りかざして来る。その後も明が柱の影に居ようが攻撃を

続けて来るバレード。そんな攻撃をされて明は対抗出来ない。

(よ、避けるので精一杯じゃん!!)

バレードの攻撃を避ける事しか出来ない明。向こうは飛び道具、こっちは素手。明らかに差があり過ぎて、勝ち目は薄い。

更に倉庫に散乱している物を拾おうにもその前にバレードの鉄糸が叩きつけられて来るからチャンスが無い。

(何とか……何とかしなきゃ!!)

必死に柱から柱へ逃げ回りながら、明は知恵を絞って打開策を考える。

(俺が今あいつより勝っている所は……スピードだ。あいつはクソ重い重鎧をつけているからスピードが上がらない筈。後は

そこをどう突くか……。うかつに飛び出したらスッパリ切断されるぜ!! でも……何か、何か弱点がある筈だ。どうにかして

あいつの動きを止める事が出来れば!!)


だが考え事をしていた事で気が緩んでいたのか、バレードが振り回してきた鉄糸が左腕に掠る。

「ぐあぁ!?」

シャツが裂け、腕からは血が流れて来た。

「ちっ、掠っただけか……」

バレードが苦々しく呟き、糸を巻き取って攻撃を再開しようと準備をする。それを横目で見ながら、明も傷口を確認する。

しかしその傷口と裂けたシャツを見た瞬間、明の目が見開かれた。別に傷口が深くて驚いている訳では無く、むしろ浅い方だ。

そう、このシャツからヒントを得た上に、傷口から流れ出る血が打開策になりそうだ。

(やるかやられるか、結構勇気が居るが……あいつの武器の弱点は、それしか無い!!)

明はバレードの注意をひきつけ始めた。


まずはあの厄介な武器をどうにかしなければならない。奴の注意をひきつける為に、シャツを脱ぐ明。

そして柱の影から思いっ切りバレードの視界に向かって投げる!

それと同時に投げた方の逆側からダッシュし、シャツに気を取られているバレードの背後に回り込んだ!

「そこか……ん!?」

気づいた時には時すでに遅し。重鎧の後ろからバタバタとなびいている彼のマントを手に取った明は、素早く

バレードの顔に被せて目隠しをする。そしてそのまま柔道の逆一本背負いを決めてバレードを転ばせた。

やはり腕は治っている様だ。

「ぐわぁっ!?」


(み、見えない!!)

明のトリッキーな動きに惑わされてしまい、まさかの展開に焦るバレード。

そこを見逃さなかった明は、この異世界の中で1番の大技を繰り出す。

「う……うおりゃああああ!!」

ジャンプから空中で前方に回転し、その勢いを利用してバレードの頭部に踵落としを食らわす。

「ぐほわぁっ!!」

明はバレードの正面に背中から上手く受身を取って着地し、バレードが踵落としに怯んでいる隙に腕の血を口で吸い取り、

マントから解放された彼の顔に吹きかける。

「ぬぁっ!?」

血はバレードの目に入り、バレードは思わず反射的に顔の血を拭う。しかし血は拭っても水とは違って粘り気があるので、

全然取れずにむしろ症状が悪化するだけであった。余りの激痛にバレードは隙だらけ。


明は血を吹きかけたままのテンションと勢いで攻撃をこれ以上されない様に、鉄糸が指の所に巻きついている彼の手袋を

鉄糸に触れないようにすっぽ抜く。手袋自体は武器と違って触れても大丈夫な様だ。

そのまま今までの恨み辛みを最大限に発揮させる様に、明はバレードをボコボコにする。

「くそぉ、くそぉ、くそぉ、くそぉ、くそぉ!!」

今回はボクシングでも、空手でも、柔道の試合でもない。実戦なので卑怯な手も、当然目潰しもありである。

血を拭うのに精一杯で殆ど無抵抗のバレードだが、今ここで殺さなければ自分が殺されるのだ。

バレードの顔面に肘打ちをかまし、よろけた所に身体を前に倒しながら右足の裏を使ってのキックを繰り出す。

そうして重鎧の首筋から出ている彼の服の胸倉を掴み、後ろに自分ごと倒れながら首を締め上げる。

「ぐあっ……」

そのままギリギリと彼の首を締め上げて行き、明の足はバレードの足に上手く絡み付いてバレードが起き上がる事を許さない。

「いよおあああああああーーーーっ!!」

絶叫と共に首を締め上げ続け、明が気がついた時にはバレードは窒息死して息絶えていた。


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