Run to the Another World第193話
一方、和人はと言えば出口に向かって走っていたつもりだったが、どうやら迷ってしまった様だ。
(あ、あれ!? こっちじゃなかったか!?)
自分の記憶力の無さに絶望しつつ、和人は目の前のドアに飛び込む。
走って逃げる途中何度か行き止まりの通路に遭遇し、引き返して階段を上ったり下がったり、
角を曲がったりしている内に、この部屋の前へと辿り着いたのである。
恐る恐る中の様子を窺おう……としたが、そこは和人の予想を超える部屋だった。
(うわ……何だあのステンドグラス? あの国王の趣味か?)
入り口の小さいドアに見合わない大きな吹き抜けの空間。その正面の壁には窓があり、
大きなステンドグラスで飾り付けされている。そのステンドグラスに近づくと、外の戦場の光景が見えた。
(くそっ! 何としても脱出しないと!)
そう思った和人は別のルートを探そうとステンドグラスから目を逸らそうとした……その時。
「……っ!?」
何かがステンドグラスの光を反射する。物凄く嫌な予感を感じ和人は横っ飛びで床へ転がる。
その瞬間連続で矢が打ち込まれ、和人が立っていた場所に在ったステンドグラスは粉々に砕け散った。
(……!!)
一歩遅かったら確実に身体が穴だらけになっていた筈だ、と身震いする和人。そしてその矢を放って来た
犯人はもう予想がついていた。入り口のドアに目を向けると、そこにはさっき自分を殴りつけて気絶させた
アルヴィンの相棒の青髪の男……ラスフォンの姿があった。左手で矢を構える、珍しいサウスポースタイルのアーチャーだ。
「運が良いもんだな?」
「いーや、メチャクチャ悪いね!!」
和人はすっと起き上がり、弓を構えるラスフォンを見据えつつステンドグラスを横目に歩く。
「……悪いけどまだ俺は死ぬ訳には行かないのでね! じゃあな!」
そう言って和人は、その割れたステンドグラスから外に飛び降りようとした。
……が、その前にラスフォンの弓が撃ち込まれて来るのでどうやら隙を見ての脱出は無理な様だ。
「……うわ!!」
「そのまま黙って御前を逃がす訳が無いだろう?」
ラスフォンは弓を構えつつ、クックッと笑った。
「後は俺が御前に倒されるか……まぁあり得ないがな。こっちは圧倒的に射程距離で有利だ」
しかし、それでも和人は戦闘体勢に入った。
「だったらここでむざむざ御前の矢で死ぬよりは、御前を倒して生きてやる!」
その和人の発言に、ラスフォンは目を細めてニヤリとした笑みを浮かべる。
「良い度胸だ。けどただ殺すのも面白く無いな。死ぬ前に何か言いたい事はあるか?」
ラスフォンは弓の狙いを和人に定めたまま、和人に静かに質問する。
その問いに対し、和人は呆れた様にラスフォンに返した。
「御前があの国王を尊敬しているのは分かったけど、俺等からしてみれば敵以外の何者でも無い。
……だから、さっき御前に散々やられた分を返して、あのクソ国王も倒してやるよ。
世界革命軍のレベル、どの程度なのか、この高崎が先陣切って見てみる事にしようか……」
「ほう、そうか」
「俺を怒らせた事は……大きな……間違いだったな!」
「……来いよ」
ラスフォンが弓を放つのと、和人が駆け出すのはほぼ同時だった。放たれた弓を軽量級の軽い動きで避けつつ、
和人は何か武器になりそうな物を探す。だがそんな物は見当たりそうに無かった。だとすれば何とかして接近戦に
持ち込むしか無さそうだ。
(隙があるとすれば…!!)
弓を構える時には絶対に幾ばくかの空白の時間が出る。そこを狙って、徐々に和人は距離を縮めて行く。
ラスフォンもバックステップで距離を取るが、そうなると攻撃に余り手が回らなくなってしまう。
……だったら、相手に攻撃をさせなければ良い。ラスフォンは和人が接近して来るのを承知で、弓を構えて的を絞る。
「おらあああ!!」
向かって来る和人に対しラスフォンは弓を引き絞った。その弓は何と和人の右手に当たる。
「ぬおあっ!?」
恐ろしい命中度なのを実感するのと同時に、予想外の所に矢が当たった驚きと痛みで歩みを止める和人。
そうする事で狙い易くなった所に、今度は和人の左手にも矢を打ち込むラスフォン。
「ぐわあああっ!!」
まさか左手にまでやられるとは思って居なかった和人は、何とかこれ以上命中出来ない様に更に接近する。
それと同時に手の平の弓を2本とも気合で抜き、ラスフォンに投げつける和人。
勿論ラスフォンはそれを回避したが、更に和人に接近されてしまった。
(……くそっ)
そうして接近戦に持ち込める距離まで来たのだが、手の平の弓を強引に抜いたおかげで
激痛が止まらない。この状況では打撃を繰り出す事は無理だ。合気道の利点である関節技や投げ技に
持ち込もうにも相手を掴めもしない。残っているのは足だけだから蹴り技のみで対抗する事になったのだが、
これだけではラスフォンを倒すのは無理だ。
(何とか……何とかしなきゃ……)
蹴り技を繰り出しながらラスフォンに攻撃させまいとする和人だが、どうしても傷に意識が行ってしまう。
だがその時、和人の目に入った別の物があった。蹴り技を繰り出してラスフォンをかく乱させ、和人は
彼が身に着けている青いマントを引っ掴む。手には当然激痛が走るが何とか我慢している。
「離せ!!」
強引に身体を振って、マントから和人の手を振り払うラスフォン。しかし、振り払った時にマントが少し破れてしまった。
が、これこそが和人の狙いだったのだ。
ラスフォンから離れない様にして蹴り技を繰り出しながら、和人は手に入ったマントを2つに破り分け、片方ずつ
切れ端を手にきつく巻きつける。こうする事で出血を止め、同時に手袋代わりにしてパンチを繰り出せる様にしたのである。
(さぁ……お返しはたっぷりと行くぜ!!)
ここから和人は打撃攻撃も繰り出し、更にラスフォンに隙を与えない様にする。
そして避けるのに精一杯だったラスフォンは一瞬の隙を突かれ、弓を蹴り飛ばされてしまった。
(しまっ……!! 弓が!)
弾き飛ばされた弓に気が行ってしまったラスフォンを見逃さず、和人は右手で彼の左手首を掴んで
彼の顔に連続して左手でパンチを叩き込む。
「らっ、らっ、らっ、らっ、らっ!!」
「ぐわ、ぐう、あうっ、ああっ、ぐわ!?」
ラスフォンも右手でパンチを繰り出して対抗しようとするが、今度は左手で右のパンチを受け止められ右腕を捻られ、
そこから右手で顔に連打を叩き込まれる。更にラスフォンが喉にパンチを入れられて怯んだ所に、思いっ切り力を込めた
渾身のストレートパンチを和人は彼の顔面に叩き込む。
間髪入れずに彼の腹に右のキックを繰り出し、ラスフォンを部屋の中央へと吹っ飛ばした。
「くっ……あう……あ……!」
「はぁ、はぁ、はぁ……!!」
ラスフォンが悶絶しながらも立ち上がるのを見て、和人は先に駆け出す。それを見たラスフォンも駆け出し、渾身の前蹴りを放つ。
だがそれを横にかわした和人はラリアットのモーションから彼の首を両腕で挟み込み、全身の力を込めて捻った。
その瞬間、和人の腕に鈍い衝撃が伝わって来た。そしてゴキッと言う音も耳に届く。最後に腕を離した和人は彼の腹を回し蹴りで
ぶっ飛ばす。そのまま吹っ飛んだラスフォンはうつ伏せに床に叩きつけられ、そのまま動かなくなってしまった。
和人はラスフォンの首の骨を捻って折って、彼の息を止めたのである。
(……終わった……)
和人は息絶えたラスフォンから通路側へ目を向け、ドアに向かって歩き出した。
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