Run to the Another World第191話


兼山と別れたその後、岸は絶体絶命のピンチに陥っていた。目の前の通路は何と行き止まり。

そして傍にあるドアに飛び込んだ所、そこは余り広くない倉庫であった。

「げっ……!!」

岸は倉庫を素早く調べるが窓が無い。他にドアも無い。諦めて引き返そうとするが……。

「何処へ行くつもりだ」

「もっ、もう………!?」

何と、ドアの前にはエヴォルが既に立ち塞がっていた。これはもう戦って勝つしか道はなさそうだ。岸は目一杯虚勢を張る。

「1人で大丈夫なのかよ?」

「はっ……虚勢を張るのは良いが、こっちには武器があるんだぞ?」

そう言って剣を構え、ジリジリと1歩ずつ不気味な笑みを浮かべて岸に近づくエヴォル。


岸の背中にはとんっ……と壁が当たった。

「うわ……」

「くくっ……そうだ……その恐怖におびえた目。ゾクゾクさせてくれるぜ」

(い、いかれてやがる……このガキ、絶対ヤバイ!)

しかし、岸の中ではこのエヴォルに対する悔しさが滲み出てきていた。そして立ち向かう勇気も。

「……」

「どうした? 怖さで足がすくんでいるのか?」

「……ああ、確かに怖いさ」

ガタガタと震える足で何とか踏ん張り、壁を支えにして体勢を保つ。そうして堪えたまま、エヴォルに質問を岸がする。

「死ぬ前に教えてくれよ。何で御前はそこまでいかれてる?」

「人を殺すのが好きだからだ。悪いか?」

真顔で答えるエヴォル。もう完全に精神がやられてしまっているのだろう。この殺人鬼の少年はここで止めなければ。


「いいや、別に悪くない。……なら、今度は殺される番だぜ!!」

「良いだろう。貴様は余り殺し甲斐が無さそうだが、最大限のもてなしをしてやる」

「分かった……。生きるか死ぬかを楽しむのが本当のバトルだ。勝てねぇヘタレは死んどきな! ってか!?」

岸は叫び終わると同時に、傍に置いてあった木箱を投げつけてエヴォルに向かい、

先手必勝で彼の剣をミドルキックで弾き飛ばす。

「くっ!!」

しかしエヴォルも戦闘には手馴れているだけあり、岸の隙を突いて足払いをかけた。

「うわ!?」

倒れた所に後ろから羽交い絞めにされ、身動きが取れなくなってしまう岸。

「ぐう……!」

「俺はまだまだ行けるが、お前はもう終わりか?」

だが次の瞬間岸は足が動く事に気がつき、後ろ足で思い切りエヴォルの股間を蹴り上げた!


「ふん!」

「ぐぉ!?」

あまりの痛さと突然の反撃に、腕を解いてしまったエヴォル。そこに追い討ちを掛ける様に岸が

ラリアットを繰り出してヒットさせる。

「ぐぷ!」

しかし思ったよりエヴォルはよろけない。ラリアットの勢いが弱かったのだ。なのですぐに体勢を立て直した

エヴォルは、岸に対して足元の木箱を思いっきりぶつける。

「ぐえ!」

間髪入れずに岸の腹を蹴り飛ばし、ボディブローを何発も浴びせるエヴォル。

「ぐ……う!」

ドタリと音を立てて床に転がった岸の腹に、エヴォルは強烈な蹴りを入れる。更に彼の首を思いっきり

ブーツの裏で踏みつけ、首を絞める。

「ぐえっ……」

「フン、やはり歯ごたえの無い奴だ。……さて、遊びにも飽きたな」

首を踏みつけたまま辺りをキョロキョロと見回すエヴォルは、お目当ての物を発見して手を伸ばす。

そう、さっき岸の蹴りで落としてしまった自分の剣だった。

「他の奴等も、じきに貴様の後を追って死んで行く。……死ね」

柄を両手でしっかりと持ち、胸に突き立てる為に剣を持ち上げるエヴォル。


が、ここで岸の右手に何かが触れた。

(……!)

迷う時間は無い。岸はそれを手に取り、自分の首を締め付けているエヴォルの足を左手で掴む。

「っ!?」

いきなりの事に一瞬動きを止めたエヴォルのその太ももに目掛けて、それを思いっ切り突き刺した。

「……らっ!!」

「ぐああああああああっ!?」

岸が手に取ったのは、先ほど自分に叩きつけられた木箱の鋭く堅い破片だった。

悶絶するエヴォルに対して、咳き込みながらも一気に接近する岸。

そのまま両手でエヴォルの身体を抱き抱えて持ち上げ、天井に思いっきりエヴォルの頭をぶつける。

「このやろおおおおお!!」

「ぐあ!」


頭を思いっきり天井にぶつけて一瞬意識を飛ばしたエヴォルだが、すぐに意識を取り戻して自分の方に

向かって来る岸に前蹴り。剣を落としてしまってどこに行ったか見当たらず、仕方が無いので岸の両手で

ワイシャツの襟を掴んで、倉庫の壁にそのまま走る。走って行く壁には、マントや服を掛ける為のフックがあった。

その中の幾つかは先端が鋭く出来ており、岸の首をそこに刺して殺そうと言う魂胆だ。

(や、やば……い……!!)

「死ねーっ!!」

岸はとっさに、ワイシャツのボタンを思いっきり上から下まで全て引きちぎる。

そのままフックに向かって行く時に、ワイシャツを身体を下にずらして脱ぐ。そうすると……。

「……う……あっ……!!」

「ぐふっ……あ……!?」

岸はギリギリでフックに刺さるのを回避し、ワイシャツを掴んで走っていたエヴォルは勢いを

殺し切れずに自らがフックに胸から鎧の胸当てを貫通して刺さってしまった。

この瞬間岸の勝ちが決まり、岸はヤケクソ戦法であったものの何とか生還を果たした。

(へっ……! やっちまった……な……!)

人を殺した罪悪感もそうなのだが、戦いで疲れた身体を休める為に岸は息絶えたエヴォルの手から

ワイシャツを取り返して羽織り、その場に座り込んでため息をついた。


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