Run to the Another World第190話


もう角を曲がる際にいちいち安全なんか確認していられない。角を曲がり、通路の先に居た

兵士達が剣を抜く前にストレートパンチを食らわす2人。逃げて逃げて逃げまくる。

そして少しずつではあるが、重い鎧をつけている後ろの奴等とはどんどん差が広がって行く。

(よーし、このまま逃げ切れれば……!)

兼山と岸は右へと曲がり、さらに走る。もう息も絶え絶えだ。

だがそのまま進んで行った所にあるT字型の通路の分岐の所で予想外の事態が巻き起こる。

後ろに嫌な気配を感じた2人が振り向くと、そこには猛烈な勢いでどデカイ火の玉が迫って来ていた。

「うお……!?」

「わっ!!」

そのせいで、岸と兼山はそれぞれの通路側に分断されてしまった。後ろからはもうセブルードと

エヴォルが迫って来ている。合流する時間は無い。もう2手に別れるしかない!!


「エヴォルを頼む!! セブルードは任せろ!!」

「ああ、ぶっ殺してやるよ!!」

岸と兼山は頷き合い、それぞれの通路に駆け出す。

「俺はあのメガネの奴を追う。お前はクソガキ呼ばわりした奴を追え。だがくれぐれも熱くなり過ぎるな。良いな?」

「分かった。よーし、任せておけ!!」

(大丈夫なのか…本当に)

セブルードとエヴォルも通路で別れ、それぞれ岸と兼山を追いかけ始めた。


兼山は走り続け、階段を上って目の前のドアを開ける。すると何とバルコニーに出てしまった。

「うわ……!!」

引き返そうにも、後ろからはセブルードが迫って来ている。他の出入り口を探そうと

兼山はバルコニーを探し回るが、その出入り口が無い。

下を見れば先端が槍状で出来た大きな柵が目に入ったので、飛び降りて逃げる事も出来ない。

「くそっ……!」

右往左往している内に、セブルードが追いついて来てしまった。

「へへっ、みーつけたっ!! さて、お楽しみの時間と行くか!」

「……マジで死なないとわからないみたいだな? 俺等異世界人がどれだけ不安と絶望で苦しんだか御前にわかるかよ」

「俺等の知った事じゃないね」

「けど俺等がここまで来るなんて予想外だっただろ? セブルード」

「ああ。霧の魔力の壁をどうやって潜って来たかは知らねぇけど、俺達の秘密を知った以上は死んで貰うぜ!!」

「そうかよ。なら来い。我、悟りの境地を見つけたり!!」


セブルードが太剣で斬りかかって来るが、スピードが遅いので兼山はあっさりかわして蹴りを入れる。

しかし、あまり攻撃が効いていない様だ。着込んでいる銀色の鎧のせいだろうか?

「はっはぁ! 全然効かねーぜ! どんどん行くぜぇ!!」

「くそう……!」

セブルードの攻撃は典型的な威力重視派。その為スピードが少し遅くても、そのパワーで相手を圧倒する。

加えてセブルード自身かなりガタイが良い為、パワーにますます拍車を掛けている。

(ぜ、全然堪えている様子が無いぞ、セブルードは!?)

その一瞬の兼山の驚愕によって出来た隙を見逃さず、セブルードは兼山の腹に強烈な前蹴りを食らわす。

「ふんっ!!」

「ぐおああっ!?」

文字通り吹っ飛んで地面に背中から落ちる兼山。しかしまだ戦える。

(ちっ……頭を打たなかっただけ良かったぜ……)


だがその時、重要な事に兼山は気が付いた。

(ん、頭……そうか!!)

「おらああああっ!!」

すぐさま駆け寄って斬り掛かって来るセブルードに対し、兼山は横に転がって回避して足を回しながら立ち上がる。

その勢いで剣を空振ったセブルードの顔面に、強烈な回し蹴りを入れる兼山!!

「ぐうぉ!?」

(良し、効いてるぜ!!)

そう、ダメージを与えるには鎧や筋肉でガードされていない首から上の部分を狙えば良いのだ。


怯んだセブルードに対し、パンチもあるキックボクシングのパンチラッシュを顔面に叩き込む。

「ぐっ! あっ、ぐぅ、うわ!」

段々とバルコニーの端まで押し出されていくセブルード。

そして最後に、兼山は渾身の大技を炸裂させる!

「おーりゃああああっ!!」

全身全霊を込めたダッシュからのドロップキックで、兼山はセブルードをバルコニーから突き落とした。


鈍い音がして兼山が下を見てみると、セブルードが鎧を柵の先端に突き破られて串刺しになって息絶えているのが目に入った。

そのセブルードを見下ろしながら、兼山は息を切らせて呟いた。

「お前に敗れるようでは悟りなど、おこがましいな」

散々ダッシュして、今まで戦っていた事もあって兼山は少し休憩を入れる為にそのままゆっくりとバルコニーに座り込んだ。

(少し休んだら俺もまた城の中の捜索に戻りたいが……岸の奴、大丈夫なのかな?)

自分よりもパワーはあるし、プロレスの豪快な技を駆使する岸は今頃エヴォルと戦っているのかなと考え、出来れば

加勢に行きたいが場所が分からなければ如何しようも無かった。

(あいつも俺と同じサーティンデビルズの一員だし、和美からプロレス技を習っていたからそうそう簡単に負けるとは思いたく無いな)

岸にも勝って欲しいと心の中で強く願いつつ、まずは自分の体力を回復させる事に兼山は専念するのであった。


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