Run to the Another World第165話


穂村浩夜、熊本県八代市(やつしろし)出身。現在41歳。

彼は非常に特殊な職業を今までの人生の中で経験して来た人間でもある。

と言うかそれしか経験した事が無いので普通のサラリーマン生活はしていないと

言うのが正しいであろう。

その始まりは地元の熊本で、中学生の時に当時日本でも知られていた

超有名な海外のロックバンドスターのビデオを見た事からだった。

それまで平凡な人生を歩んで来た浩夜にとって、同級生から勧められた

そのビデオテープには今までに感じた事の無い大きなショックを受ける事になった。


そのロックバンドスターのようになりたいと思い、即座にギターをお年玉で購入。

と言っても買える物は中古だったがそれでもかなり値段がしたので、今でも

その時のギターを大切に東京の自宅に保管してあると言う。そのギターを

購入してからはその当時出ていたギターの練習本でギターの弾き方を

覚えるだけでは飽き足らず、そのロックバンドのビデオテープを繰り返し

擦り切れる位まで見て見よう見真似で何とか形にして行った。

そんな中学時代を過ごし、中学を卒業する頃には何処にでも居るバンドマンに

憧れる中学生になっていた。


そして公立高校に入学した彼は、高校1年生の時から軽音楽部に入部してギターに

触る時間を増やした。そのまま軽音楽部のメンバーで即席のロックバンドを結成し、

部活動の中でたまにライブをしていたりもした。

そのロックバンドを見ていた他の軽音楽部のメンバーから、熊本県で開かれている

ロックバンドの素人参加ライブに出てみたらどうだと言われたのが切っ掛けで浩夜の

所属していたそのロックバンドは徐々に公の舞台に姿を現わす。

定期的に開かれるその参加ライブに毎回参加する様になって行った浩夜のロックバンドは

徐々に名を上げて行き、高校を卒業する頃には熊本県では名の知れた存在になった。


これに味を占めたバンドのメンバー達は東京に出てもっと名前を上げようと考え、高校卒業と

同時に浩夜以外はそれぞれ就職先を決めてロックバンドのメンバー全員で上京する事に。

だがそこから先の現実は厳しかった。確かに自分達は熊本県では名の知れた存在であったが、

それはあくまでも「熊本県だけ」での話。当時は今の時代の様にインターネット等と言う物が

存在せず、メジャーデビューをする方法としては地道にライブをしながら宣伝活動に精を

出すしか無かった。

しかも浩夜を除く他のメンバーは各々が就職していた事もあり、なかなかメンバーで集まる時間も取れず。

となればロックバンドの練習をしたくても出来ないと言う事で段々とメンバーの中もギクシャクし始めた。


それでも一旗上げようと東京に出て来た訳だから諦めたくは無いと思い、ただ1人就職はせずに

アルバイトをしながら活動していた浩夜も何とか時間を作って他のメンバーとのセッションに臨んでいた。

だけどそれにもついに限界を感じ、上京から3年後の21歳の時に他のメンバーはサラリーマンとして

このまま東京で暮らして行く事を決め、自然と高校生の時に結成したそのバンドは解散する事になった。

それでも浩夜はロックバンドで食って行くと言う夢を捨て切る事は出来ず、ただ1人になっても都内の

ライブハウスで地道に活動する日々だった。

そして2年後、その地道な活動によって少しずつ名を上げた浩夜に転機が訪れる事になる。

その浩夜に訪れた転機と言うのは、その日もライブハウスでギターを弾いていた彼の元に

1人の女が名刺を差し出して来た事から始まった。その女は音楽プロデューサーをしており、

熊本での浩夜のバンドの活躍を聞きつけて彼を探していたのだと言った。

始めは今更か……何か怪しい奴等じゃ無いのかと浩夜は警戒心がマックスだったが、

いざその女の所属する事務所に行ってみれば正式なメジャーデビューへの切符だった事を知る。


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