Run to the Another World第160話


和美はエルヴェダーの背中に乗って騎士団員を迎え撃っていたが、そこに1本の斧が回転しながら飛んで来た。

「うおう!?」

変な声が自分の口から出てしまった事に和美は自分で驚いていたが、周りを見渡してみると騎士団員の数がまた増えて来ている。

「エルヴェダー! 脱出しましょう!」

『いや、他の5人がバラバラになっちまったみたいだぜ!?』

「え!?」

そう言えば……と辺りを見渡してみれば自分以外の5人が居ない。

「こ、こんな時に……!!」


舌打ちをする和美だったが、そんな彼女に飛び掛かって来た人物が。

「うっ!?」

後ろからいきなり飛び掛かって、和美もろともゴロゴロとエルヴェダーの背中から転がり落ちる。

何とか和美はその飛び掛かって来た人物を振り払って距離を取った。飛び掛かって来たのは……。

「だ、誰!?」

明らかに他の騎士団員達と服装が違う。とすれば傭兵であろうか。片手に1本の槍を持っている。

紫の髪の毛に赤の瞳、そして黒を基調とした服装が印象的だ。

「さっきの斧を避けるとは大した奴だ」

「な、じゃあさっき私に斧を投げたのは……」

「俺だ。他の騎士団員から借りたんだがな。」

「成る程ね、私に喧嘩売ろうっての? ……で、貴方は誰?」

「傭兵のジレディルだ。前はこいつ等と敵対して居たが、今はこいつ等に雇われてねっ!!」

そう言い終わったと思ったらすぐに傭兵のジレディルは和美に向かって来たので、勿論和美も迎え撃つ。


(何で傭兵が……?)

槍を軽快に振り回して向かって来るジレディルに、和美はそう思いつつも足よりも手技で応戦する。

手技の方が手数が多くなるし隙の無い攻撃も繰り出し易いので、35年以上の武術の経験を総動員して

ジレディルを迎え撃つ。しかしこの場所では他の騎士団員にも襲い掛かられる可能性が余りにも高いので、

和美はなるべく1対1で誰にも邪魔されない様に戦いたいと思い木が生い茂る森の中へ。

当然ジレディルもその後を追い掛けて来たので、そこからジレディルとの1対1に持ち込み易くなった。

森の中を駆け巡って場所をどんどん移動し、追いついて来たジレディルの攻撃には手技と足技で応戦。

向こうが武器を持っている分和美は不利になるので、なるべくその不利な状況を作り出さない様にしたい所だ。


自分を追い掛けて来たジレディルに振り返って足払いを繰り出したり、槍を余り振るわない様な下段目掛けて

スライディングをかましてすぐに距離を取ってまた逃げたりと、相手のリズムを狂わせる様な戦い方でジレディルの

ペースを作らせない様に和美は必死だ。

(自分のペースで!)

勝負の世界では、いかに自分のペースやリズムに乗る事が出来るかが鍵になる事もある。

それを今までの武術経験で何度も何度も経験して来た和美にとっては、相手がペースを崩さないなら自分は

それ以上のペースを作って崩してやると言う意気込みだ。

振るわれる槍を、上半身を器用に反らしたり手をぐるぐる回して上手く弾いたりしてカンフーの要領で和美は戦っている。

更には上半身を捻りながらアクロバティックに回転したり、逃げる途中で簡単に攻撃されない様に空中回転蹴りを

繰り出しつつ移動すると言う見た目的にダイナミックな逃げ方もして見せる。


そうして槍を振るうジレディルのリズムを乱し、攻撃が大降りになって来た所で和美は後ろにバック宙で攻撃をかわし、

その勢いのまま今度は前に足を突き出して滑り込み、ジレディルの足……では無く和美は自分の身体を手をついて

持ち上げ、足を上に向かって突き出し胸を両足で蹴った。

「ごっ!」

怯んだジレディルに一気に畳み掛けるべく左ハイキックから連続して今度は右の回し蹴りを繰り出したが、回し蹴りを

繰り出した直後にジレディルが左の前蹴りを繰り出して和美を蹴り飛ばす。

このままではまずいと思った和美は足払いを繰り出したが、それをジレディルはジャンプで回避。

だけど攻撃の手もストップしたので和美はその隙に跳ね起きを繰り出して起き上が……るのでは無く、そのまま

うつ伏せの体勢になる様にしながら腕を前へと伸ばして右足を両手でしっかりとキャッチ。

そうしてジレディルの身体を支えている左足を、和美はスライディングの要領で両足を滑り込ませて奥へと蹴り飛ばす。


するとジレディルの右足は固定されたままなので、左足が大きく開脚される形になり、柔軟体操の様に180度無理矢理

和美に足を開脚させられてしまう事になってしまった。

「うぐぅ……っ!?」

ジレディルは股関節をそんなに鍛えていなかったので、いきなりここまで開かれると足に激痛が走る。

それでもまだ手は自由なので左手でパンチを繰り出すジレディルだが、和美の右手がそれをキャッチ。

そしてジレディルの身体の下から抜いた右足で、思いっ切り和美はジレディルのアゴを上に向かって蹴り上げる。

「ぶふっ!!」

人間の急所の1つでもあるアゴに思いっ切り蹴り上げを食らったジレディルはそのまま上へと身体が少し浮かび、後ろにある木に

背中から激しくぶつかって昏倒した。

「ぐぅ……あっ……」

それを見た和美はジレディルが昏倒して起き上がって来ない事を確認し、とにかくこの場から逃げる事を先決にして

エルヴェダーの元へ戻って行った。



Run to the Another World エスヴェテレス帝国編 完


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