Run to the Another World第16話
木箱の陰から木箱の陰へ転がって移動し、チャンスをうかがう和美。
流石に魔術と言えども壁等の障害物を突き抜ける事は出来ない様である。
しかしこのままこちらが手を出せないでいるのはまずいと思っていると、
いきなり何処からか大きな音が聞こえて来た。
「!?」
音がした方向に目を向けてみると、そこには大男に向かって飛びかかる永治が。
気を取られていたのは和美だけではなくローブの男も同じであったが、
先に相手の方に意識を向けたのは和美の方が早かった。
そこで和美は、一瞬だけ触れるのは大丈夫と踏んで傍に立てかけてあった
幾つもの槍を器用に足を使って思いっ切りサッカーのシュートの様に蹴り飛ばす。
「っ!」
間一髪でその男流行を避ける事が出来たが、それは大きな隙となって
和美の行動を捉えるのが一瞬遅れる。その隙を絶対に見逃さず、ダッシュからの
スライディングで和美はローブの男の足を払う。
「ぬあ!」
尻から転倒したローブの男に、今度は素早く立ち上がった和美が
大きく上に跳んで両膝を抱え、そのまま重力を利用して両膝をローブの男の腹へ。
「ぐおぇ!!」
みぞおちと胃に膝が入ったローブの男は激しく咳き込んで苦しむ。しかし和美は
手加減せずにそのまま男を立たせ右のパンチ2発を顔に、それから右のハイキックを
3発同じく顔に、最後に両肩を掴んで上に跳びながらの両膝蹴りを再び男の腹へ。
「がはっ、ごぉほ!!」
力無く倒れこんだ男に止めを刺そうと足を振り上げる和美だったが、次の瞬間
側頭部に大きな衝撃を受けて意識が一気にブラックアウトした。
「和美達遅いな」
「ああ、迷ったかな?」
2人の帰りが遅い事に気が付いたメンバー達は、取り合えず洋子と流斗に
それぞれ様子を見に行かせる事にしたのであった。
しかしトイレの場所がわからないので、見張りの兵士にトイレの場所を聞いて
その通り向かった……筈の2人だったが、あっさり道に迷ってしまった。
「あ、まずいわ……迷ったわね」
「ああ。近くの兵士に道を聞こう」
と言う訳で今度は兵士に道を聞こうとしたが、ふと前を見ると人影がある事に気が付いた。
「ん? 誰ですか?」
良く見るとその人影は誰かを支えながらこちらに早足で歩いて来る。
支えられているのは水色のローブを身に纏った細身の黒髪の男で、
支えているのは大柄で黒い鎧を身に纏った赤毛の男だ。
「あ、あの……大丈夫ですか?」
「医者を呼んで来ましょうか?」
「いや、いい……」
「平気だ、気にするな」
その2人は流斗と洋子の心配そうな声に素っ気無く対応し、そそくさと
2人とは反対方向に消えていった。
だがどうしてもその2人の事が流斗と洋子は気になる。
「……城の人かしら?」
「に、しては……何か慌ててる感じだった気がするよな」
如何言う事だろうと首をかしげながらも取り合えず兵士を探そうと
目の前の曲がり角を曲がったが、次の瞬間2人は信じられない光景を目撃する!!
「えっ……!?」
「うわっ!?」
目の前の通路には何と、うめき声を上げながら横たわっている兵士達の姿が。
「ちょ、ちょっと! 大丈夫ですか!?」
その兵士達の身体は何か細い物で切り裂かれた様な跡が幾つもある。
2人の脳裏にその瞬間過ぎったのは、考えれば考える程怪しい先程の2人組の男達であった。
「あいつ等……!!」
「どうする、流斗!?」
「俺はあいつ等を尾行する。洋子は兵士達を呼んでくれ。それと和美達も探して、メンバーに連絡だ!!」
「わかったわ!!」
流斗と洋子はそれぞれ別行動を取り、城に危険が迫っている事をそれぞれ肌でビリビリと感じ取るのであった。
「えっ、それは本当か!?」
「うん! 兵士達も呼んだわ!!」
「けど流斗を1人で行かせたのか!? それに永治と和美も見当たらないんだろ!?」
途中で他の兵士達に怪しい男達と負傷者が居る事を伝え、メンバーの元に戻った洋子。
事実、廊下では兵士達がバタバタと慌しく動き回っていたその時、8人が集まっている部屋のドアがノックされる。
「はい?」
「ルザロとシャラードだ。開けろ!」
ノックの主は精鋭騎士団長のルザロだった。
「どうした?」
部屋に入って来た2人にメンバー達は何事かと問うが、次の瞬間シャラードの口から衝撃の事実がもたらされた。
「城が襲撃された……!」
「は?」
「えっ?」
いきなりの衝撃発言にメンバー達の顔がこわばる。
「飛竜を操る謎の団体がやって来た。そいつ等は城にドンドン攻め込んで来ている。
俺達が御前達を避難させるからついて来い、早く!!」
「お、おう!」
有無を言わさず、行き成りの事だがここから脱出しなければいけなくなった様だ。
地図と食料を持ち、8人はまず脱出する事にした。
残りのメンバーも心配であるが、今はこの2人の指示に従うしかないだろう。
その残りのメンバーの事を洋子はルザロとシャラードに走りながら伝える。
「分かった。だが御前達は動くな。俺達が全力で探し出す。良いな?」
「ええ、勿論よ!」
だが、洋子はそれでも悔しそうな顔だ。
「……私、馬鹿だった。流斗をあそこで引き止めていれば!」
「それは失敗だったな……」
ハリドがその洋子の言葉に残念そうにかぶりを振った。