Run to the Another World第159話
「おらっ!」
永治は森の中に足を向け、見よう見まねのパルクールで頑張って騎士団員達に
囲まれない様にしている。自分を追いかけて来た騎士団員に重い体重を生かした
パワー全開のキックを入れてぶっ飛ばしたり投げ技を駆使して投げ飛ばしたり、関節技を
極めて関節を外したりとえげつない逃走劇を繰り広げる。こっちが1人なのに対して相手は
大人数の騎士団だし、なおかつ騎士団員達は素手の自分とは違って武器を持っているので
真っ向勝負なんて挑める訳が無いのだ。
パルクールは未経験の永治だが、柔道で鍛えた足腰の強さがそれなりには逃走の手助けを
してくれている様である。そうして森の中を駆け回って逃げ続けていた永治であったが、何と
崖を目の前にして行き止まりに辿り着いてしまった。その行き止まりとは言っても若干広場の様に
なっている所だが、行き止まりに変わりは無い。
(くそ!)
冷静に如何すれば良いかを考え、とりあえず今来た道を戻ろうとした永治の前に2人の男が立ち塞がった。
「そこ迄だ、大人しくするのだな」
「逃げ場は無いぞ。観念するんだな!」
その2人は洞窟から最初に皇帝と騎士団員が現れた時に皇帝ディレーディの両側で彼を
護衛する様に立っていた固そうな口調の茶髪のロングソード使いの騎士団長ザドールと、
エルヴェダーの背中に乗ろうとした自分達に向けて矢を放って来た金髪の副騎士団長ユクスだ。
「油断するな、ユクス!」
「分かってるさ。行くぞ、ザドール!」
「……」
その2人を見て、永治は不敵な笑みを浮かべた。武器に手をかける様子はどうやら今の所は無いらしい。
柔道家である永治は投げ技と関節技が専門だが、柔道で鍛えた大柄な体格を活かして立ち向かう事を決意。
相手がそのつもりで逃げ場が無いのであれば、こちらとしても立ち向かうしか無いと言う事になるからだった。
永治が素手と判断し、騎士団員としてのプライドがあるのか2人も武器を収めて素手で永治に向かって来た。
先に自分の元に辿り着いたユクスの腹に先制でボディブローをかまし、次にザドールが横に回りこみつつ右の
パンチをして来たがそのパンチは軽い方だったので大丈夫。永治はユクスを力任せに突き飛ばしつつ、ザドールの
腹に左の前蹴りを入れて怯ませる事に成功。ユクスがその間に立ち直ってパンチを何発か繰り出すが、永治は
上手くかわして一気にユクスの首を取って羽交い絞めにする。
「ぐっ……うぐ!?」
全身全霊の羽交い絞めにユクスがジタバタともがくのを見て、ザドールは永治に右のパンチを繰り出したがそれを
ユクスの顔でガード。さっきの藤尾のシラット講座でもやっていた、敵の身体を使って別の敵の攻撃をブロックすると
言う戦い方がここで早速生かす事が出来た。
「ごは!」
パンチが当たった瞬間にユクスを解放し、そのパンチで大きく隙が出来たザドールにはお返しに小さくジャンプしながらの
飛び込みパンチを永治はザドールの顔へ。
「ぐお!」
ユクスも再び立ち直って永治に向かうが、そんなユクスをザドールの方に突き飛ばして永治はまた2人と向かい合う。
「くっ……」
素手で勝てないと悟ったのかザドールはとうとうロングソードを抜いて永治に向かうが、そのロングソードを振るった腕を
永治は懐に飛び込んでガードしつつ、ザドールの顔面に頭突きして後ろに突き飛ばす。その後ろからはユクスも
向かって来たが、彼の懐に飛び込んで脇腹にパンチ、そして続けて顔面にパンチしてユクスを怯ませた。
自分の後ろでは当然ザドールが立ち直って来たので、永治はそのザドールの攻撃をかわして一気に懐へと飛び込んで
ザドールの腹に右の膝蹴り。そのまままた後ろに突き飛ばしつつザドールの顔面にパンチ。
「あがあっ!?」
上手くクリーンヒットした様だったが、永治の背中にユクスのパンチがほぼ同時に入る。
「ちっ……」
舌打ちをしながらユクスを振り返って睨み付け、素早くユクスの懐にまた飛び込んで今度はユクスの首目掛けて右パンチ。
「ごっ!!」
一瞬呼吸が止まった様に感じたユクスを、得意分野の柔道の背負い投げで背中から硬い地面へ叩きつける。
「がっ!?」
ザドールの方を見るとパンチのクリーンヒットから立ち直って来ようとしていたので、立ち直られる前にザドール目掛けて
左足でドロップキック。
「やあーあっ!!」
しかもただドロップキックで終わらせるので無く、ドロップキックの反動を利用してそこから起き上がりかけているユクスの
背中目掛けて直接右の肘を落として再度地面へ叩きつけると言う荒い大技をやってのけた。
「ぐおあ!」
「がはっ!?」
ザドールは後ろの岩壁へ背中から叩きつけられ、ユクスは背中に物凄い衝撃を連続して受け、どちらも背中に
ダメージを負って満足に動けなくなってしまったのを見て柔道家の永治は息を吐く。
「はぁ……」
永治は他のメンバーとの合流を果たすべく、今の内に逃げなければと思い森の中へと走り出すのであった。
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