Run to the Another World第157話


「ところで1つ確認したいんだが、この国の通行証を見せろ」

「通行証? 何で? 私達はちゃんと通行証でここを通って来たわよ?」

しかしディレーディの表情がすっと真顔になった。

「それはおかしいな? 数日前から我の意向でこの国の国境においては通行証が要らなくなったんだぞ?」

「え? 危機管理無さ過ぎじゃないの?」

思わず聞き返す由佳だったが、その言葉にも男はいぶかしげな目を向けた。

「その聞き方だとまるでそんな事は知らなかった、と言っている様だな」

「……いや、そう言う訳じゃないけど……」

段々話がまずい方向になっているかもしれない。

「と、とにかく俺達はまだ行く所があるから……」

「それじゃ、そう言う事で」

そう言ってとっととこの別荘から出ようとするが、ディレーディは大声で後ろを振り向きもせず叫んだ。

「……この不届き者達を引っ捕らえろ!!」


その皇帝の命令で、一斉に臣下の騎士団員達が色々な武器を引き抜いて戦闘態勢に入る。

「ちっ!!」

思わず永治が舌打ちをする。こんな所で捕まってゲームオーバーだけはゴメンだ。

「ちなみに言うと、今でもこの帝国に入る為には通行証が必要だぞ?」

「……カマかけたのね!?」

ゆっくりと和美の素手の範囲内まで近付いて来るディレーディに、和美は苦々しい顔で確認する。

「今更気が付いてももう遅い。さぁ、我等と共に城に来て貰おう!」

だがそのディレーディの言葉が終わると同時に和美はディレーディの腹に超高速ミドルキックを繰り出し、

それによって怯んだディレーディに今度は背負い投げをかましてそのままジリジリと近寄って来た

騎士団員達目掛けて投げ飛ばした。

「うおおっ!?」

人間がぶっ飛んで来た事で騎士団員達もそのディレーディを身体で受け止める形になってしまい、

その間に6人の人間とエルヴェダーは脱出する為に素早く1箇所に集結する。


しかしその一同に向かって、副騎士団長のユクスが素早く矢を放つ。

「うおっ!!

元の姿に戻ったエルヴェダーがまず騎士団員達を蹴散らし、帝国の外へと脱出するつもりだったのだが

どうやら失敗に終わる様だ。

「ちきしょう! こんなのってありかよ!」

「もしかして、私達ってここで終わっちゃうのかしら!?」

「そんなのは死んでも御免だ! 頑張って切り抜けよう!」

「みんな頑張ってね!! 来るわよ!」

当然デストラクションパフォーマーズの5人とアイトエルも対抗するが、それによって今度は混戦状態を避ける為に

メンバーがそれぞれ離れ離れになって逃げる事になってしまったのであった。


哲は森の中を駆けずり回っていた。その理由としては哲の体重が87キロと結構重いので、

素早い動きをするのに不安があったからだ。だからたまに木の間で騎士団員や騎士団員達を迎え撃って、

基本的には先程の藤尾のシラットの戦い方を思い出して1対1の状況に持ち込みつつシュートボクシングを

駆使して倒して行く。某有名元プロボクサーもこうしてなるべく1対1に持ち込む事の出来る状況を作り出し、

1人ずつ敵を迎え撃って行ったと言う有名な話がある。その話を聞いた事があった哲は、先程の藤尾のレッスンもあって

今まさに早速その事を実践しているのだ。

(囲まれたら終わりだ!)

幾ら武術の達人でも多人数に囲まれれば、囲んで来た方が武術の素人でも負ける確率は段違いに高くなってしまう。

それだけ数の差と言う物は残酷だと言う事をひしひしと今の哲は感じていた。哲は前だけで無く後ろからも挟み撃ちに

ならない様に気を配って、ローキックと前蹴りと立ち関節を駆使して戦う。この辺りは関節技が存在している

シュートボクシングならではだ。だがそんな哲に忍び寄る怪しい影があった……。


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