Run to the Another World第154話


そこでもう1度6人に下がる様に命じたエルヴェダーは小さい火を吐いた。

その火は地面に降り注ぎ、同じ様に地面が燃える。

『この地面は魔力が存在していないけどこうして燃えるんだ。でもあくまで地面が

燃えるのは俺様の魔力を含んだ火がその地面を燃やしているだけに過ぎない。

その証拠にさっきあんたのシャツの袖が燃えてただろ?』

「ああそうだな、確かにシャツそのものは燃えている」

アイトエルは今しがた自分が火の中に突っ込んで燃えた形跡のある、自分の

長袖の赤いシャツの袖を見ながらそう呟いた。

『だから結局、魔力を持たない人間の御前等には魔導攻撃も、それから恐らく

回復魔導も通用しない筈だ。あくまでも俺様達生物の中にある魔力からそうした

水の魔導や風の魔導が生み出されるからこそ、体内の魔力と反応して効果が出て来るんだ。

だから俺様が魔導だけで物理攻撃一切するなって言われたら、時間はかかるだろうけど

御前達が勝つだろうな』


何だか話がややこしくなって来たので何とか永治が話を纏めようとする。

「要するにこの地面もシャツも燃える現象にはその魔力が関係しているって事だな」

『そうだ。だけど御前達の様に魔力を持たない人間には熱さも感じなければ火傷を

する事も無かった。となればこれはもう体内の魔力と反応しようが無い。そもそも魔力を

持っていないからな。普通に魔力を持つ生物であれば、俺様が火を吐き出して

ぶつけてやれば体内の魔力に俺様の火の魔力が反応してその生物の身体は燃えるんだ』

「とりあえず魔力が無いから私達には効果が無いって事ね。で、魔導で生み出された

火とか水、風や岩じゃ無くて物理的に生み出された火とかじゃないと私達を燃やす事も

出来ないって事になるのね。魔導で生み出した攻撃も防御も一切私達は効果が

無いって事か……何となくだけど分かった」

由佳が納得した様子でうんうんと頷き、一応魔力に関しての不思議な現象の説明は終わった。


「でもそう言われても先入観ってなかなか消えないから、たとえ魔力を使って生み出された火だったと

しても、いざそれで攻撃されると咄嗟に防御したり逃げたりするかもね」

「それはあるよな。頭で分かっていても身体は正直だからなぁ」

生物の脳って不思議だなぁ、と思いつつ和美と藤尾のそんな会話が終わった所で、今度はその藤尾に

対してエルヴェダーが口を開いた。

『そう言えば1つ忘れていた事があったな』

「何だ?」

『御前が言ってたシラットって武術の実演、ここに来たら俺様に見せてくれるって約束だったろ?」


その言葉に藤尾も、あの1つ目の別荘で言っていた自分のセリフを思い出した。

「あー、そう言えばそうだったな。それじゃやるか。と言ってもその姿じゃ見づらいだろうから一旦人間の姿に

戻った方が演舞を見やすくて良いかもしれない」

『分かったぜ』

と言う訳で一旦人間の姿になって貰ったエルヴェダーに対して藤尾は演武をしようとするのだが、相手が

居ないといまいち凄さが分からない。と言う事で。

「和美も確かプンチャックシラットやってたよな?」

「ええ、と言っても2年位だけど」

「技は覚えてるか?」

「うん覚えてる。ムエタイに似てる部分があるから覚えやすかった」

「なら十分。相手になってくれ」

「分かったわ」


こうして藤尾と和美によるシラットのテクニックが少しだけ行われる事になった。

「せっかくだからみんなも一緒に」

シラットの構えからまずは講座が入り、そこから今度は実際にシラットの構えの動きを実践。

藤尾はこれでも20年以上の経歴があるので滅茶苦茶動きが速い。

「例えばこの手の動きを使って、相手の上半身をどんどん下に下に押し下げて行くんだ」

和美の腕をまるで蛇の様に絡め取り、そこからどんどん和美の上半身を押し下げる。

そして限界まで下まで押し下げた所で開いている右足を使って和美の顔面にキックを

入れる所までゆっくりと藤尾はデモンストレーションした。


Run to the Another World第155話へ

HPGサイドへ戻る