Run to the Another World第150話
良く晴れた日の事、エスヴェテレス帝国騎士団団員であり元傭兵でもある
ロラバート・オスウェインと同じく元傭兵の騎士団員ブラヴァール・ジャンスサートは
遠征に出かけていた。目的は国内の情勢の偵察と言う事になっている。
「暇だな……」
「ああ……」
しかし隣国ヴィルトディンとの戦争には負けてしまい、逆隣のアーエリヴァに攻め込もうにも
圧倒的な国の大きさの違いでまだ実現には至っていない。
そして国内は至って平和である……と思っていたが。
「……ん?」
「何だあれは……?」
2人の傭兵は、遥か遠くの空を飛んで行く赤色の大きな影に気がついた。
「あれって、もしかしてドラゴンか?」
「恐らくは……でも、あんなに大きなドラゴンは初めて見たな……」
通常、自分達が討伐に向かうドラゴンよりもその空を飛んでいるシルエットのドラゴンは結構大きな物であった。
「しかも、良く見ると背中に人間が乗っていないか?」
「本当だ……ザドール団長に報告するか?」
「そうするか。人間がドラゴンを操る等と言う話は聞いた事が無いからな」
戦争が終わったとは言えども、国内では賊が出る事もあるし当然魔物の類だって居るので
そう言った奴等と戦うのも国を守る騎士団員としての務めなのである。
が、報告をしようと引き返そうとしたブラヴァールの脳裏に、最近になってある報告が
ファルス帝国から入っていた事を思い出した。
「……」
「どうした?」
隣を走る馬の上で黙ってしまったブラヴァールに声を掛けるロラバートに、当のブラヴァールは
神妙な顔付きでその思い出した事を話し始めた。
「俺の思い過ごしだったら良いのだが、もしかしてさっきのあのドラゴンは……ファルスで
魔力を持たない人間が乗って飛び去って行ったって言うドラゴンじゃないのか?」
そのブラヴァールの問い掛けにロラバートも顎に手を当てて考える。
「……確かに、そのドラゴンの目撃情報はシュアから伝書鳩で飛んで来ていたな。
色も灰色のドラゴンと白いドラゴンが居たと言うし、通常のドラゴンよりも一回りもしくは二回り程
大きかったと言う報告も受けた。さっきの奴は赤だったが関係がある可能性は考えられる」
ロラバートもどうやらさっきのドラゴンを疑問視しているらしい。
「となると、ますます陛下に報告しなければならないだろうな。もしかすると、そのドラゴン達の仲間が
このエスヴェテレスで怪しい動きをしているのかもしれない」
「……急ぐか」
まずはこの事を皇帝に報告する為に、2人は遠征から戻る途中であったので距離が余り離れていない
帝都まで馬を進める事にしたのであった。
「ドラゴンが人間を乗せて飛んでいただと!?」
シュヴィスからその様な報告を報告を受けた皇帝ディレーディと騎士団長ザドールは、謁見の間に
飛び込んで来た兵士の言葉に耳を疑った。
更にザドールは次のディレーディの言葉に更に耳を疑う。
「……なら我がこの目で直接確かめて見たいものだ」
「陛下!? 何をおっしゃるのです!?」
自分でその様子を確かめに行きたいと言い出す皇帝に、ザドールは必死でストップを掛ける。
だがその静止も無意味だった様だ。
「我は自分で見てみたいと思った。それに生半可なドラゴンには負けん」
「し、しかし!」
「ザドールも一緒に来れば良いだろう? 騎士団長」
好戦的な皇帝はそれだけ言うと、さっさと謁見の間を出て行った。
万が一の事態に備えて戦闘の準備を始める皇帝に声を掛ける人物が。
「建国際も近いと言うのにこんな事が……」
「そのスケジュールはもう変更出来ないから仕方無いとして、まだ建国祭の準備が残っているだろう。
その為に慌ただしくなって人も集まって来ている時を狙った野生のドラゴンが侵入して来たか、あるいは
その怪しい人間達がドラゴンと一緒に行動しているのに絡んでいるか」
「その人間とドラゴン達の関係は、ファルス帝国から聞いた……」
「それの可能性が非常に高いだろう」
建国祭の準備を進めている係の1人でもある帝国騎士団副騎士団長のユクスは、
ファルス帝国から飛ばされて来ていた伝書鳩の事を思い出して陛下と話をする。
そんな彼もまた、ザドールの護衛として付き合う事にしたので同じく戦闘準備中だ。
「そう言えば、ドラゴンが遺跡の方に飛んで行ったと言う情報があるらしいな?」
「はっ、最近調査が入りました南の遺跡の方にその赤いドラゴンが飛んで行ったとの
情報が入っております。そちらに向かいますか?」
「そうしよう。遺跡の方の街の1つには確か転送装置がある筈だ。それを使うぞ」
こうしてディレーディの命令で、緊急事態用の転送装置が使われる事になった。
無論騎士団員達全員を連れて行く訳にはいかないので人数はディレーディを含めて150人となる。
それからエスヴェテレスの宰相であるヴァンイストは、建国祭の準備の為に今回は留守番だ。
手間も暇も建国祭に色々と掛けて来たのにここでドラゴンにぶち壊しにされる訳にはいかない。
「そのドラゴンが討伐されたと言う報告を心待ちにしております、陛下」
「ああ、任せておけ。我の国で好き勝手される訳にはいかん」
自国で、しかも伝説のドラゴンの住処だったと思われる遺跡は大切に保存しておかなければいけないので
好き勝手される訳にはいかない。その思いを胸に、ディレーディは転送装置のある部屋へと歩き出して行くのであった。
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