Run to the Another World第14話
と、その時おもむろに永治と和美が立ち上がった。
「私、トイレ行って来るわ」
「ああ、俺も行く」
緊張が緩んだのか、呆れてしまって一旦気を落ち着かせようとするのか、はたまた別の意味があるのか。
2人はトイレの場所を部屋の外に居る兵士に聞き、1番近いトイレへと向かった。
だがその途中で、思いもよらない事態が2人を襲う事になる!!
「えーと、こっちだったかしら?」
「次を右、それからその先3つ目の角を左、その突き当たりを右で、そしてまっすぐ行けばあるって言ってたぞ」
「おー、記憶力は大した物ね。1度でもバトルした走り屋の顔を絶対に忘れないって言われるだけの事はあるわね」
永治の最大の武器は柔道もそうなのだが、何と言ってもその記憶力にある。
彼は記憶力に関しては驚異的とも言えるだけの能力を持っており、その実力は和美が言っていた通り1度でも
バトルした走り屋の顔は決して忘れない、と言われる位の凄さである。
何でも彼が言うには、普段の職業はホストなので客の顔をしっかりと覚えておかないと次にリピーターとして
そのお客が来た時にサービスが出来なくなるからだそうで、そう言った職業柄必要なスキルである為に
身についたと言う話だ。それにプラスして、バトル中においては自分の戦い方を冷静に分析。目立ちたがりな
性格もあるが、それに溺れない様にストイックに練習を続け、その練習量から来るレベルの高さは首都高でも
トップクラスの物である。そしてこの永治の記憶力が、この後に巻き起こる衝撃的な事実をハッキリと記憶する事になるのであった。
トイレに辿り着き、用をそれぞれ足して出る2人。そのまま当然戻るつもりだったのだが、
ある部屋の前を通り過ぎようとした所で中から聞こえて来た声にふと足を止める事に。
「だからあの盾はだな……」
「黒い盾だろう? 問題無い、すぐ盗み出すさ」
(……え?)
(ん?)
その扉の前でピタリと足を止めた2人は、ほぼ同時に顔を見合わせた。
「い、今の声聞こえたか?」
「ええ……何だろう、凄く気になるわ」
その部屋とは武器庫。これまで歩いて来た中で重要そうな部屋の前には
見張りの兵士が立っていたのだが、この武器庫の前には見張りの兵士が居なかった。
いや、実際には……。
「あれ、開いてるわ……っ!?」
「うぉ……!!」
その見張りの兵士は無残にも殺され、武器庫の中に死体となって転がっていたのである。
何とか叫び声をギリギリで押さえ込み、中で話をしているであろう連中に気づかれない
事には成功し……ていなかった様だ。
そのまま足を進めて行くと後ろに何者かの気配を感じ、2人は咄嗟に振り向く。
そこには腕を振り上げている、水色のローブを着込んだ黒髪の男の姿があった。
「くっ!」
「ちっ!」
咄嗟に永治は横に転がり、和美は側転で距離を取る。
すると2人のすぐ横を特大のファイヤーボールが駆け抜けて行った。
「ほう、なかなかの腕だな」
「何だ御前は!」
しかし、話し声からもわかっていた通り相手は1人じゃない。
今度は何か嫌な風切り音と同時に、何かが飛んで来る危険性を察知して
2人は別々の方向に転がって避ける。
その飛んで来た物は、最初は目に見えない物だと思っていたが
傍に積んであった木箱に当たる音で正体が判明。
何と、暗殺に使われる様な細い鉄線を振り回して絡めとろうとして来たのだ。
そしてそれを操るのは、黒い鎧に身を包んだ大柄な赤毛の男だった。
「良い反射神経だ」
「貴方はこいつの仲間!?」
「答える必要は……無いっ!!」
更に攻撃を仕掛けて来る2人の男に対し和美はローブの男を、永治は鎧の大男を相手にする事になった。