Run to the Another World第131話
「おおー、凄く速い!!」
「すっげ、すっげ!」
「やっぱり200年の長さを伊達にやって来た訳じゃ無いんだな」
「料理も上手いしこれだけ動けるのかよ?」
「非常にスムーズな動きだ……」
「良く分からないけど、凄い事ははっきりと分かるわね」
6人の人間達はそれぞれタリヴァルの動きに見入っている。
確かにエスティナを除いた5人も武術の心得があるしその年数も
長いのだが、200年と言う人間の寿命以上の年月を特訓の時間に
費やして来たタリヴァルの演武には感心するしか無かった。
『別に御前達とやっている事は変わらないとは思うが、そんなに凄いか?』
「ああ、あんたの動きは凄くスムーズなんだよ」
この人間達の中で1番しなやかな身体を持つ兼山がそう言うと、タリヴァルは
ああ……と言う顔で答える。
『多分それは、我が人間の姿の時の仕事と関係しているな』
その発言にえ? と兼山が声を出すと、その理由をタリヴァルがきちんと説明する。
『フライパンのテクニックの要領だと我は思っている。フライパンもテンポ良く操らなければ
焦げ付いたり素材がべチャべチャになったりするから良い調理が出来ない。武器術も同じだ。
テンポ良く操る事でスムーズさに磨きが増す。最初は確かに無理だ。だが時間を掛けて行けば
身体も頭も慣れて来る。料理も武術もこれは変わらん。少なくとも我はそうだと思うがな』
そう言いつつレイピアを2本巧みに振り回し、ピタッと孝司の首筋にクロスさせる形で突きつける。
『……こう言う感じだ、これで良いか?』
「ああ、すっごく」
孝司も一瞬ビビッたものの、何とか落ち着いた口調で答えた。
『御前達異世界の人間も、ルチャリブレとか空手とかカラリパヤットとかムエタイとか言う
聞いた事の無い武術をそれぞれ習っているそうだから、機会があれば我に見せて貰うとしよう』
「ああ、時間がある時なら何時でも型とか見せるぜ」
グレイルがそう言って、何時か型を見せると言う約束をしたのだがその約束が果たして
無事に果たされる事になるのかどうかも今は全く先が見えない状況だ。
そうしてレイピアを鞘に戻したタリヴァルと共にもう1つの別荘へと向かう事になったのだが、
そこはここ以上に辺鄙(へんぴ)な所にあるのであった。
「火山……?」
『ああ。山道があって、その山道のゴールには火口がぽっかりと穴を開けている。そこを我は
もう1つの家にしていたんだ。まだそこがその天変地異を乗り越えて存在していればの話だがな』
その情報にエスティナの顔がまたハッとした物になった。
「ま、まさかそこって例の火山じゃ……」
「え、手足を切り落とされて投げ込まれた人間の……?」
「ええ。火山の名前はケブザード火山よ。火山なんてそこしか無いもの」
まさかのもう1つの遺跡の場所にエスティナが1番びっくりしている。
その悲惨な過去があった場所が、まさかこのドラゴンの別荘の1つだったなんて。
『我もまさか自分の別荘でそんな事が行われているとはビックりだ。15年近く帰って
居なかったから知らないのも無理は無いか。だが、我のアクセサリーはまだそこにある筈だから
行くしか無いだろう』
「まぁ、そりゃあ……な」
グレイルが曖昧に頷いて、とにもかくにもそのケブザード火山へとタリヴァルにひとっとびして貰う事になった。
もうこの別荘には用事は無いので火山へと向かう為に神殿から出た一同。だが、一同は次の瞬間
とんでも無い物を目にする事になった。
「……んん?」
「え、あ、あれ?」
「何だ、御前等!?」
神殿の目の前には統一された柄の、しかし色のパターンがそれぞれ違う制服を着た集団が集まっていた。
それを見たエスティナが小さく悲鳴を上げる。
「ひっ……!!」
「どうした、エスティナ?」
「ダメ……あいつ等は……」
そう呟くエスティナの様子は、これ迄に見た事無い位にその顔に恐怖の色が滲み出ていた。
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