Run to the Another World第130話


「私の事はもうこの神殿に来る前に話したから良いわよね」

と言う事でエスティナは自己紹介をカットし、これにてこの場に居る

人間達全員の自己紹介が改めて終了した。

『ふうむ、異世界の人間の暮らしと言うのも非常に興味深い物だな。

機会があれば我もその暮らしを体験してみたいものだぞ』

「まぁそれはこっちの世界に来られたら、の話だがな……」

孝司がそう言うと、すっとタリヴァルは立ち上がって腕を組んだ。

『それじゃあ、我の話もしておくか?』


まさかの発言に、人間達6人の目がきょとんとなる。

「……良いのか?」

周二が心底不思議そうに聞く。

「あんた、伝説のドラゴンなんだろ? なのに俺達みたいな普通の人間にベラベラ喋っちゃって良いのかよ?」

それは兼山も同じだったが、タリヴァルは平然とした顔つきだ。

『確かにそうだが、御前達も1人を除いてこの世界の人間では無いと言う時点で

十分不思議な存在だ。特殊な存在なのはお互い同じだし、我の事に興味が

ありそうだと言うのも十分に見て取れる。こう見えても伊達に長くは生きてはいないからな。

だからもうこの際だ、我の事も話すとしよう』


と言う訳で、今度は伝説のドラゴンの1匹が自己紹介を始めた。

『我はタリヴァル。光属性を操る竜族だ。3631歳になったばかり。人間で言えば36歳と

少しと言う所だな。グレイルと周二とはすでに1度、ファルス帝国で我の姿を見ているな?』

そう話を振られて、グレイルと周二もあのファルス帝国での出会いを思い出す。

「あ、ああ……」

「あの時の料理人だろ? 人間の姿の時はそれが職業か?」

そう周二が尋ねると、タリヴァルは大きく1度頷く。

『そうだ。我が人間の姿になっている時はあのファルス帝国の料理屋で働いている。人間の

姿のままで居るのも案外悪くは無いものだな。だが我はさっき御前達を背中に乗せて居た事からも

知って貰えたと思うが、れっきとした竜族の1匹だ』


自分がドラゴンだと言う事を忘れないで欲しいと暗にこめたそのメッセージを、人間達6人に

伝えながらそのまま話をタリヴァルは続ける。

『我もたまには元の姿に戻って他の国に旅をする事もある。でもここに来たのは実に10年ぶり位か。

長い間放置していた間に色々あった様だが、このペンダントも戻って来て良かった』

ペンダントを手にして何処か懐かしさを感じさせる目で見つめる人間の姿のドラゴンに、それを見ていた

グレイルが一言。

「あんたは人間の姿でも戦うのか?」

『我がか?』

「ああ、だってその腰に下げている……レイピアか? それは飾りなのか?」


彼の腰の両方にぶら下がっている2本のレイピアを指差し、そう尋ねるグレイルにタリヴァルは首を横に振る。

『これは飾りでは無い。人間の時の我の護身用の武器だ』

「って事は武器として使えるって事か。どれ程鍛錬しているんだ? あ、今までの年数でな」

『そうだな……多分200年位前からだったと思うが』

まさかの発言に人間達6人はびっくりするが、別にドラゴン達にとってこれは驚く様な事でも何でも無いのだと

タリヴァルは言う。

『我等竜族は長い時を生きるから、これ位は普通の事だ。睡眠だって長いドラゴンであれば3日3晩寝っ放しって

言うのも居るから御前達の生活と変わりは無い』


そう言うタリヴァルに今度は橋本からこんな要望が。

「だったらそのレイピアの演武を見せてくれないか?」

『演武だと?』

そのリクエストの内容に目を丸くするタリヴァルだが、すぐに真顔に戻る。

『まぁ良いだろう。我の剣術は色々な場所の物が混ざっているし、我流の部分もあるから

参考になるかどうかは分からないが、それでも良いなら見ているが良い』

そう言いながらタリヴァルはレイピアを腰から両方とも引き抜き、別荘の最深部での演武が始まるのであった。


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