Run to the Another World第121話
レーシングプロジェクトの6人とエスティナはこっちの6カ国の内、世界地図の左に存在している
イディリーク帝国のすぐ上にあるラーフィティア王国へとドラゴンの背中に乗って辿り着いた。
まずはラーフィティア王国で何処に向かうかを決める事にしたが、エスティナがポツリとこんな一言を。
「懐かしいな……」
「え?」
その言葉に1番近くに居た周二が反応。
「懐かしいって……?」
更に橋本も気がついた。そして、エスティナから次の瞬間衝撃的な事実が!!
「私の故郷よ、この国は……」
「はっ……」
「え、そうなのか?」
兼山とグレイルも驚いている。
「ええ、私はこの国の出身。それも今のラーフィティアじゃ
無くて、この前に存在した古いラーフィティアの時代の話よ」
「なら、再建される前のこの国の事を良く知っているって事か?」
「ええ。良い部分も……悪い部分も」
そこで孝司が切り出した。
「良かったら教えてくれないか。君の知っている前のラーフィティアの事と
今のラーフィティアを全て。そしてエスティナの事についても」
エスティナはその孝司の言葉に一瞬何処か悲しげな表情を見せたが、すぐに表情を変えて承諾した。
「良いわよ。……だけど、どんな事を聞いても余り驚かないでね
「ああ、分かった」
孝司が約束し、5人に事情を説明する事になったエスティナ。
「この地域はマドール・スーヴィクレス・ムールフォード。元々は3つの国だったのよ、この大陸の
この国がある地域を収めていたのは」
「そうなのか?」
意外な歴史にグレイルが声を上げる。
「うん。でもその3カ国を統合して、1つの大きな王国に生まれ変わらせたのが
今のラーフィティア王国ね。地域の左のマドール、中央のスーヴィクレス、
右のムールフォードの3つの国を、お互いに1つの国にしようってまとまったらしくて。
それでそのまま今の地域の名前になって、今迄発展して来たんだって」
「へぇ〜。ちなみにどれ位なんだ? 前のこの国が出来て」
そんな橋本の疑問には、またもや意外な答えが。
「実は私が生まれる少し前に出来たらしいのよ。私は今27歳なんだけど、
30年前に出来たんだって。だから私は厳密に言えばマドールで
生まれたんだけど、ラーフィティア出身って事になってるわ」
「じゃあ結構歴史自体は、この世界単位で言えば浅いのか」
「そう言う事ね。前の時の国王は23歳の若さで即位したらしいわ」
「なるほどな」
その後は地理的な事で自然が多く、山と川と渓谷もあると言う事。
歴史の面ではマドールが軍事国家、スーヴィクレスは自然国家、
ムールフォードは鉱山国家として発展して来た事を教えられた。
「じゃあ次はエスティナの事だな」
兼山に切り出されて、彼女は自分の事も話し出した。
「前にも話したけど、私は旅人ね」
だが、この後エスティナの口からは衝撃の事実が語られる事になる。
「……すごく重い話になるけど、10年前に私両親を失ってるのよ」
「ん?」
「……え?」
「あっ?」
一同の呆気に取られる顔を見つつエスティナは続ける。
「実はね……騎士団の横暴に巻き込まれたの。独裁って言うのかな。
それが年々激しくなって来て、それで騎士団の人間が一般市民にいちゃもんをつける事も多くて。
目が合ったから、気に食わなかったからとかって理由もあれば、騎士団の方から絡みに行って言いがかりを
つけて、それに反抗したら捕まえられて、捕まえられた人は全員奴隷の作業場に送らされたわ」
それを聞き、孝司の頭にある事が浮かんだ。
「って事は、その奴隷の奴等の何割か……って、まさか」
そのハリドの疑問に、エスティナはゆっくりと首を縦に振る。
「本当に犯罪を犯した人も居るけど、半分位はそう言う人達だって騎士団の人が
巡回中に話をしていたのを聞いた事を、今でも私は良く覚えているわ。
実際、私も因縁つけられて思いっ切り殴られた事もあったからね」
そこで一旦会話を切って、ふう、とエスティナは息を吐いて10年前の事件の事を話し始めた。
「……そして10年前、私の両親は酒場で事件に巻き込まれたわ。酔っ払いに騎士が絡んで来て、
その酔っ払いが歯向かって、それで酔っ払いを騎士が剣で殺して……。それに加えて、目撃者を
全て消そうって事で騎士団は酒場の人間を皆殺しにしたの」
「うわ……」
「何だそれ……ひでぇ!!」
その事件の全貌に、周二は絶句して孝司は怒りを露わにする。余りにも惨すぎるエスティナの過去、
そして騎士団の横暴に一同は驚きを隠せない。
「それを国のトップは……」
「もちろん見て見ぬ振り。お咎め無し。だってその後に酒場を騎士団が燃やしたんだもの。
火を放って、火事によって跡形も無く酒場を燃やして消し去ったわ。
私はその頃、別の村に居た親戚の家に行ってたからその話を聞いた時は……うぅ……」
そこでエスティナの手が顔に覆い被さり、すすり泣きが漏れ始めた。
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