Run to the Another World第118話


6人とアサドールがあの木の広場を出発した頃まで時間はさかのぼり、

ヴィーンラディ王国の王都ケーフベルクにある王城の執務室。

(人間の言葉を話すドラゴンと、魔力を持たない異世界からやって来たと言われている人間の話か……)

その部屋の主として執務室の机に向かうのが、ヴィーンラディ現国王エルシュリー・ディルトルートであった。

国王のエルシュリーは、シュア王国から送り込まれて来た情報を記載している書類に目を通していた。

それも、つい先日の出来事として連絡が来て文字通り本当に間も無いのである。

(今の所ドラゴンは確認されているだけで2匹か。異世界人は12人……見つけ次第すぐにその情報を

各国に回す事。最重要事項である……か)

ヴィーンラディには今の所、怪しい人間が入って来ただのドラゴンの目撃情報だの、と言った事は報告されていない。

(本当にその人間達に魔力が無いのだとすれば、この国の王都に入って来た時点で分かる様になっているからな。

魔力の量を感知する装置を取り付けてあるから、魔力が無いと判断されればすぐに警備隊が気がつく筈だ)

だがそんな油断をしているエルシュリーは、まさかドラゴンと組んだ異世界人の6人に王国に潜入された事には

全く気が付いていない。


そんな国王陛下の元に1人の男が入って来た。

「失礼致します。陛下、この書類にサインを」

「ん、ああ」

現れたのはヴィーンラディ王国宰相を務めるレラヴィンだ。書類に目を通したエルシュリーはサラサラとサインをして

レラヴィンに突き返した。

書類を突き返されたレラヴィンは、ふとエルシュリーの机の上に置かれている書類に目を留める。

「あれ、その書類は……」

「ああ……魔力が無い人間と、人間の言葉を喋るドラゴンの書類だ」

「確かシュアの……」

「ああそうだ」

「ドラゴンがこっちに来ない事を祈るばかりですね」


野生のドラゴン自体はヘルヴァナール全域で見られる為に全く珍しくも何とも無いが、人間の言葉を喋る

ドラゴンとなれば知能が高い事の証明になるから厄介になるだろう。エスヴェテレスに続く小国として

ヘルヴァナールの中で成り立っているこのヴィーンラディだが、エスヴェテレス以外の国と比べても国土の

広さは大差が無い。ではどの辺りで小国と判断されているのかと言うと、人間が住んでいる区域は

国土の半分にも満たない位だからだ。実際の所、ヴィーンラディだけの地図で見てみると自然が多い。

「むしろ私が気になるのは、もう1つの魔力を持たない人間達の方ですよ」

「それは余もそうだ」

シュア王国もそうだが、このヴィーンラディ王国だって魔導で名前を売って来た国として知られている。

ヴィーンラディは昔から魔導のテクノロジーに関してはシュアと競い合い、常にその2国は他国よりも1歩

先を行っていた。だからこそ魔力が存在しないと言う人間の存在は非常に気になる。


「もし仮に、その魔力が存在しない人間が居るとしたら余も見てみたいものだ。こうしてシュアから

そう言った報告が上がっている事を見てみると、その情報の信憑性は高いと言う事になるな。

だから……このヴィーンラディにそんな魔力の無い人間が現れたら、余の元に連れて来る様に」

「現れたら、の話ですがね」

エルシュリーとレラヴィンは笑い合う。魔力と魔導で成り立って来たこの王国に、

異分子が入り込むと言う事になったら笑ってしまうしか無い。


魔導で成り立って来たと言うこの国にそんな人間が現れるとなれば、今迄の自分達の常識が

根本から覆されてしまう事になりかねない。まして、そんな人間に騒ぎを起こされたとなった時には

民の混乱を招くばかりで無く、ヘルヴァナールの中でも魔導による厳重な警備態勢で評判がある

この国のセキュリティ面での不安が出て来る。

「今はまだ、この国においては何も情報が出ていないから心配する必要は無いだろうがな」

「はい。それに王都入り口の魔力探知装置の整備も万全ですから魔力を持たない人間が現れたとしても、

すぐに魔力が無い事を察知して捕らえる事が出来ますのでご安心を、陛下」

「ああ、念の為に、入り口付近の警備を強化しろ」

レラヴィンにそう命じ、彼が退室した後に国王陛下はまた執務に戻る。そんな人間が来ない様に願いながら……。


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