Run to the Another World第115話
そうしてボクシングのレッスンも終了し、一同はもう1つのアサドールの別荘へと向かう事に
したのであったが……。
『……おい、誰か来るぞ』
「え?」
元の姿に戻ったアサドールが、人間とは比べ物にならない程の耳の良さを生かして
誰かがこの別荘がある広場にやって来る足音をキャッチ。しかもその足音は1つだけでは無い。
『1人だけじゃない……ざっと予想しただけでも150人は居そうだ』
「そ、それって騎士団!?」
「その可能性はあるわね」
うろたえる和人と、それとは対照的に冷静に呟く恵だったが、
まずやる事と言えばこの後ろの大木を隠す事だった。
しかしその隠す暇が全く無いまま、どうやらその広場と向かって来た大勢の人間達が6人と
ドラゴンの待つ広場へと姿を現わした。
「……おっ、ドラゴン……?」
現れたのはやはり大勢の人間の集団だったが、明らかに武装した人間達だ。
『御前達は……ヴィーンラディ王国騎士団の人間か?』
アサドールは姿を見られてしまったからにはもう隠す必要も無いだろうと考え、普通に
人間の言葉で喋る。
「人間の言葉でドラゴンが喋るとは驚きだ。もしかすると……このヘルヴァナールの伝説の
ドラゴンなのか?」
『かもな』
曖昧に答えたが、どうやら集団の先頭に居る男はその答え方で疑問を確信に変えたらしい。
「だとすれば、こちらとしても見逃す訳にはいかないな」
しかし、男にまだ答えて貰っていない事がある。
「おいおいちょっと待て、御前達は一体何なんだよ? 王国騎士団なのか?」
「……にしては何だかそれっぽく無い感じがするわね。もしかしてこのマントは貴方達の忘れ物かしら?」
サエリクスがアサドールの質問を繰り返し、恵がこの集団に違和感を覚える。
リーダー格の男は黒いコートに黒い髪の毛で闇に紛れそうな格好だ。更に一同は
その男の腰にロングソードが取り付けられている事に気がついた。
(あいつ、剣士なのか?)
アレイレルがそう疑問を持つが、どうやら武装したこの集団は王国騎士団では無さそうだ。
その恵の予想通り、男は小さく首を横に振る。
「俺達は王国から依頼を受けてここの調査に来たから騎士団では無い。確かにそのマントはこちらの部下の忘れ物だが」
「……って事は傭兵?」
ハールの疑問に、男が今度は首を縦に振る。
「そうだ。御前達はどうやら色々と事情がある様だからな。俺達と一緒に来て貰う」
しかしここで捕まっていてはアクセサリーの回収に向かう事が出来なくなってしまう。
「今は無理だ。何時か出頭するよ」
「何だと?」
流斗のその言葉に眉をひそめた男だったが、すぐに真顔に戻る。
「だったら反乱分子とみなして無理にでも連れて行くが?」
「それも止めてくれよ。俺達にはまだ使命が残っているんだ」
若干格好つけながら和人が答えたが、その返答に男は無言でロングソードを抜いた。
「……かかれ!!」
男の号令でいっせいに武装した集団が襲い掛かって来た。
「ちーぃ!!」
サエリクスが苦々しい声を上げながら迎え撃とうとするが、その前に地面から大量の木のツタが
しゅるしゅると伸びて来た。
『我輩に任せろ』
森属性の力をふんだんに利用し、アサドールは来る人間来る人間をツタで上手く絡めとって行く。
しかしそれも限界があるので、捕まえきれずに向かって来た人間達を6人とアサドールで対処する。
その内、リーダー格の黒髪の剣士はハールをロックオン。
「まずは貴様からだ!」
「くっ……」
しかし次の瞬間、繰り出されたロングソードを避けつつハールは上手く男の手を左足で狙い
そのロングソードを弾き飛ばす事に成功していた。
「武器を飛ばしただけで勝ったつもりか? さぁ、諦めろ」
「絶対に嫌です。絶対に僕は諦めません!」
そのハールの宣言を合図に、2人のバトルがスタートするのであった。
Run to the Another World第116話へ