Run to the Another World第102話


アサドールが先導して森の中を歩く事およそ15分。一行は森を抜けて大きな広場に辿り着いた。

『ここが我輩の別荘だ』

「こ、ここが?」

ハールが思わず戸惑った声を上げるのも無理は無い。何故ならここは

その広場以外に何も無かったのだから。

『別荘だって思えないって顔をしているな。それも無理は無いだろう。我輩は

人間の姿の時は学者だからなるべく落ち着ける場所が良いと思ってこの場所で

羽を伸ばす事もある。今は何も無い分余計な手間もいらないからな』


一応、アサドールなりに理のかなった理由付けがあるらしい。

だが、そんなアサドールから余り宜しくない情報がもたらされる。

『ここは良く帰って来ては居るんだが、最近妙な動きをしている連中が居てな』

「え? どんな奴等なんだ?」

和人が尋ねると、アサドールはしんみりとした口調で話し始める。

『どうやらここの広場は町や村からはなれた場所にあるから、人間達が身を

隠しやすいみたいなんだ。だからここを根城にしている人間の連中がいるらしい』

「何故分かる?」

アレイレルの問い掛けに、アサドールは広場の片隅へと走っていってから何かを

手にして戻って来た。

『こんな物、我輩は見覚えが無い。わざわざこんな所まで来る様な人間の忘れ物だろう』


その手にしていた物は黒いマントだった。

「それ、アサドールが着ていた物じゃないのか?」

『だから我輩はこんな物は知らないと言っているだろう。しかもだ、今はもう殆ど消えて

しまっているが明らかに新しい部類の足跡が良く見ると残っている。それも1人2人じゃ無くて

何人……いや、何十人単位と言った方が良いだろうな。となればだ。こんな所にわざわざ、

しかも大人数で来る様な連中は大体想像がつくだろう?』


その問い掛けに分析好きな恵が冷静な分析をする。

「旅人の類にしては数が少なすぎるし、商隊等のキャラバンが来そうな場所でも無い。となれば

考えられるのはここの調査に来た王国騎士団員とか団体での旅人のグループか……あるいは

盗賊の類と言った所かしら?」

恵のその分析に、アサドールは満足気に頷いた。

『なかなか分析が上手いな。我輩もそうにらんでいたのだが、王国騎士団の調査はどうやら

この場所には入っていないらしい。まぁ、一見すればただの広場にしか見えないからな。旅人も

わざわざこんな場所にまでは来ないだろう。街や村から離れてるし。だけど逆にその事を

考えてみれば身を隠しやすい場所でもあるから、そうした盗賊の類が大勢で身を隠すのには

うってつけの場所でもあるだろう。まだ実際に盗賊と決まった訳では無いし、このマントもただの

忘れ物にしか過ぎないだろうしな』


そんな場所を別荘にしていると言うアサドールに、今度はこの国についての質問をする一同。

「話は変わるんだけど、そもそもこのヴィーンラディってどんな国なんだい?」

ハールの質問にアサドールが少し考えてから答え始める。

『魔導が発達している国だ。あの鉄道を開発したと言われているシュアよりもな』

「へーそうなんだ。俺達はシュアからやって来たけどそれよりも魔導が発達してる国なのか」

最初にシュアにやって来たのがサエリクス、和人、アレイレル、そしてハールと4人も居るこの6人組。

そのシュアの事が話題になると、当然こんな疑問も湧き出て来る。

「そう言えば、不気味な程シュアからの動きが無いみたいなんだが……一体どうなっているんだ?」


疑問を最初に言い出したのはアレイレルだった。

「ああ、そう言えばそうだっけ。向こうも国で騒ぎを散々起こされて、しかもドラゴンでそのまま脱出した俺達を

このまま黙って見過ごすとは到底思えない」

「それとシュア王国はこのヴィーンラディとは隣国の関係でもあるから、軍を動かすのも速いと思うけれどな。

最も、国境を軍が越えるとなると色々と面倒な事になりそうだけど」

和人とハールも絶対何か動きがある筈だと踏んでいた。

そう、自分達が短い間しか居なかったとは言え騒動を起こして来た国が、このまま黙って指を咥えて見ている訳は無いのだ。

「とにかくこのヴィーンラディでは目立たない様に行動しなきゃ。これ以上他の色々な国に目を付けられたらこっちだって

動きにくくなるからたまったものじゃ無いわ」

恵の冷静な意見に他の5人も頷くしか無かった。


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