FCOバトル・イン・ジャパン!! 1


「俺は道案内とかそれぐらいしか役割がないけど、それでいいならまずは中華街に行こう。そこでさっき能力犯罪者たちが出てきて暴れているらしい」


ちょうどタイミング悪く遭遇してしまった能力犯罪者たちの集団の元へ、現地のエージェントたちに加勢するべくクレイグとエレスを案内する真治。

傭兵として世界各国を転々として英語も話せる彼は、駅前のコインパーキングに事前に停めてある自分のオレンジ色のCPV35日産スカイラインクーペに二人を案内する。


「おっ、そういやお前も走り屋だったな」

「それなりには。まあ、後でガソリン代ぐらいは請求させてもらうから。お前たち二人も交通費とか食費とか出るんだろ?」


しかし、真治の予想外の答えがクレイグから返ってくる。


「いや、交通費は出るがその他は自腹だ」

「え?」

「食費は自腹。宿泊費は野宿とかの場合もあるから時と場合によるが、大抵は自腹だ」

「あ、そう……」


命張っているんだからもう少し出してやれよ……と真治は思わず呟く。

やや複雑なそんな気持ちを胸に抱えながら、真治は自分のCPV35に二人を乗せて横浜中華街へと走り出した。

普段は余り喋らない寡黙な性格の真治だが、現場に向かうにあたって聞いておきたいことはある。


「能力犯罪者っていうのはどんなのがいるんだ?」

「どんなの……と言われても、まあ俺もクレイグも色々な奴と対峙してきたから、結構色々なのがいるぜ」


エレスが言うには、今回の様に相手の精神を操ることができるような犯罪者もいれば、それこそ地面の地形を変えたりできるような見た目が派手な犯罪をする能力者などもいるらしい。

そもそもFCO自体がそうした能力犯罪者たちを取り締まるための機関であり、所属しているエージェントたちも能力者揃いなので、あらゆる能力者の情報がストックされているのだ。

そんな大層な犯罪者たちを取り締まる機関の、しかも本部のエージェントがわざわざこうして日本までやってきたということは、今回の事件はそれだけ解決が難しいということなのだろう。


「日本の支部の連中だけでは手に負えないらしくて、私とエレスが呼ばれたんだ」

「そうか。……そういえば、日本に来るんだったら日本人のエージェントが優先されるんじゃないのか?」


青峰というエージェントがいたのを思い出した真治はそれについて聞いてみるが、どうやらこちらもタイミングが悪かったらしい。


「あー、青峰の奴は今フロリダのほうに出張で事件解決に行っていてさ。だから俺たちが派遣されたんだよ」

「他の日本人のエージェントたちは?」

「そいつらも手が離せなかったり、休暇を取って旅行に行っていたりするもんだから、俺とクレイグで今回解決に向けて動こうってなったわけさ」

「そうか」


それならそれで別に疑問はないが……と考える真治だが、別の疑問が頭に浮かんできた。


「……そういえば、二人はコンビを組んでいるのか?」

「ああ。ただ、いつもこうして私もエレスも二人で動くわけじゃなく、場合によっては単独行動をすることもあるぞ」

「そうか。……何か、大変そうだな」

「はっ?」


ボソッと呟かれた最後の一言に、エレスが狭めのリアシートから身を乗り出して尋ねる。


「どういう意味だよ。別に大変なんかじゃねーけど?」

「俺はそうは思わないかな。何というか、クレイグには一種の心労みたいなものが見える」

「私に?」

「ああ。コンビとして成立はしているんだろうが、実際にこうして組む時は疲れているような顔がする気がする」


それは、FCO本部で逃走中をやった時の話。

最後にクレイグに追い回されていた真治だからこそわかる、クレイグの張り切り具合。

FCO所有のジャンボジェットで貸し切りのフライトだったとはいえ、長旅で太平洋を渡ってここまで来たのもあるだろうが、それ以上の気苦労みたいなものを真治はクレイグから感じ取っているのだ。

それを真治が指摘すると、答えるのはエレスではなくてクレイグだった。


「あんたもわかるか?」

「おい、オッサン!」

「コンビを組んでそれなりの年月が経っているが、最初は私がアルバートからこいつを押し付けられたようなもんだ」


その性格や行動からFCOの中でエレスは問題児として扱われているため、他のエージェントたちや通っている大学などでは敬遠されている傾向にある。

そしてそのお守りのような役割をするのがクレイグだというのだ。

そんな二人の話を聞き、真治はかつての出来事を思い出していた。


「それはまあ……VSSEのジョルジョとエヴァンのようなものか」

「それは大体当たりだ。私たちFCOとVSSEは繋がりもそれなりに深いからな。だからあの二人と会う機会もあるが、どこか親近感みたいなものを感じることがある」


横に乗っているクレイグからそんな答えが出てきたのを聞き、ふとバックミラーを覗いた真治は、気まずそうに口をとがらせてウィンドウから外の景色を眺めるエレスを視界に捉えたのであった。

そしてそんな三人が乗ったCPV35は、気づけば中華街の近くに差し掛かろうとしていた。



To be continued...


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