FCOバトル・イン・ジャパン!!
日本・神奈川県横浜市。
みなとみらいや赤レンガ倉庫、中華街などが有名なこの地にも、近年では能力犯罪者の魔の手が忍び寄っていた。
そして今日もまたその能力犯罪者による犯罪が起きているのだが、どうやら現地の支部のみでは対応が難しい状況にまで陥ってしまった様である。
そこでアメリカはシアトルにあるFCOの本部より、太平洋を超えてはるばる日本までやってきたのがこの二人のエージェントだった。
「やっと着いたなー!! ここが日本か!!」
「待て待て、私たちは別に観光しにきたわけじゃないぞ」
「わかってるけどさあ、だってほら……俺たちって日本に来るのは初めてじゃん?」
日本という極東の島国に初めて降り立ったのは、FCO本部より派遣されてきた犯罪対策部のエージェントであるクレイグ・スタイナーとエレス・グリーンフィールドの年の差コンビである。
三十九歳と十九歳という、ともすれば親子とも思えるほどの年齢差の二人は普段から仕事でよく一緒になることが多く、今回は日本への派遣要員として選ばれてこうしてやってきた。
「それはそうだがな。私もお前も日本にいるという能力犯罪者を退治しにきたんだぞ。だからこそまずはここ神奈川の横浜支部に向かって情報を集めよう」
「へいへい、わかりましたよ」
観光するなら事件を解決した後の話になる。
しかし、この日本では彼らと過去に関わりを持っている人間が徐々に彼らの元に近づいてきていた……。
(全く……厄介な話だな)
クレイグとエレスの二人が、横浜にあるFCO日本支部の一つへと向かっているその頃、彼らと面識のある黒羽真治はネットのニュースを見ながらため息を吐いていた。
それもそのはずで、普段は東京に住んでいる彼は久しぶりに中華料理でも食べようかと思いこうして横浜中華街までやってきた。
だが、そこまでやってきたところでこのニュースである。
(FCO日本支部からの緊急速報……横浜のみなとみらい近辺に能力犯罪者出没の情報あり、外出を避けて生活する様に……)
どんな能力者なのかの情報は入っていないのだが、こうしてネットニュースに緊急速報が出るというのはそれなりの危険な能力者なのだというのは真治にもわかる。
なぜなら彼はFCOのエージェントではないのだが、そのFCOに所属しているエージェント……それも本部シアトルのエージェントたちを始めFCO機関長のアルバートともかなり深く面識を持っているので、もしかしたらこれは本部から応援のエージェントが来るかもしれないと踏んでいるからだ。
(というか、FCOの機関長から俺に連絡があったんだよな。もし日本で会うことがあれば二人のエージェントをよろしくって……)
そもそも出会う前提で話をされてもどうしようもないので、真治は話半分にそれを聞いていたのだが、それがこの後にまさか現実になるとは思ってもいなかった。
(アメリカの本部の敷地内でストリートレースはやるわ、日本の首都高でもやるわ、隼人とフェンケルがお互いに大怪我を負う血みどろのタイマンもやったし、挙げ句の果てには俺たちチーム全員で逃走中のFCOバージョン……)
最後に自分が逃げ切って何とか勝ちをもぎ取ったのが記憶に新しいが、その後に壊したドアを弁償して賞金が半額になったのも忘れられない思い出である。
そんなFCOとの繋がりはかなり長い気がする真治が、今日は中華街を諦めてもう帰ろうかな……と考えていた矢先だった。
「やばいっ、能力犯罪者たちだ!!」
(……!!)
響き渡る通行人の声。
そして中華街の出入り口付近には、一目散に中華街から遠ざかっていく人間たちの姿が見える。
その様子からすると、どうやら能力犯罪者たちは中華街の中にいるらしいので、ここは真治もさっさと退散しつつ周囲の人間に能力犯罪者たちの情報を聞いてみる。
「……なるほど、目が合うと意識が失なわれて操り人形みたいになるということか」
前に隼人がシアトルで遭遇したという能力犯罪者たちは、風使いや音使いの能力を持っている現代版の「魔法使い」みたいなものだった。
しかし、今回はもっと厄介な能力犯罪者らしいとFCOのエージェントではない真治でさえすぐに察する。
(人間だけじゃなくて動物も操れそうな奴ららしいな。とりあえず本部に連絡を入れておくか……)
と言っても連絡先は直接アルバートに繋がるものしか持っていないため、真治は手に入れた能力犯罪者たちの情報をFCOの本部へと送信するべくスマホのアプリを起動する。
その一方で、日本に初めて降り立った二人も横浜へと着実に向かってきていた。
◇
「空気があんまり良くねえ気がすんぜ」
「それはまあ……確かに私もそう思う」
日本の都市部はどうしても人口密度が高くなる上に、東京湾の汚れ度合いは度々ニュースにもなるほどである。
その日本の地下鉄……京急空港線急行に乗って横浜駅へと向かっている二人は、まずこの日本へと向かう際の必須装備として支給されたヘッドセットとゴーグルを身につけている。
アメリカ出身のクレイグと、イギリス出身のエレスは二人揃って日本語が全く喋れないのだが、その不安を打ち消すためにFCOの技術部が開発したのがこれらの頭部に身につける装備である。
ヘッドセットは周囲の言葉を自分たちが理解できる言語に翻訳し、ゴーグルは視界に入っている文字を同じく自分たちが読める文字へと変換してくれるシステムだ。
大抵の国へ行く時は二人の公用語である英語で何とかなってしまうのだが、日本人は世界の中でも特に英語が喋れないことで有名なので、こうして翻訳システムを支給されているのである。
「ライユンとニコライとアルバートはそこそこ日本語ができるみたいだが、私たちはさっぱりだからな」
「まーな。アンタも俺も挨拶ぐらいしかできねーもんな」
そんな会話をしながら、ようやく着いた横浜駅。
FCOが用意した専用機でシアトルから羽田へ、そして京急空港線急行で羽田から横浜へとやってきて、東京都内とは少し違う空気を感じながら出入り口へと向かう。
だが、二人はそこで予想だにしていなかった人物と出会うことになった。
「元気そうだな、二人とも」
「え……!?」
「なっ、何でお前がここに!?」
横浜駅のみなとみらい方面への出入り口。
そこの改札口で二人に迷いなく近づいてきたのは、なかなか大柄の体躯に煤けた茶髪の中年の日本人……かつてFCO本部で逃走中の真似事をして、エージェントの追撃を振り切って逃げ切ったのが記憶に新しい男だった。
その男がなぜここに?
しかも自分たちが来ることをまるで予想していたかのような口ぶりであるその理由は、すぐに判明した。
「お前らの隊長に……アルバート・リーンディクスに頼まれたんだよ。何かあったらサポートしてやってくれって」
「おいおい、それは重大任務じゃないか」
「ふざけてる場合じゃねえだろオッサン! お前、俺たちが何しにこんな太平洋超えてはるばる日本までやってきたのかわかっているのか!?」
苦笑いを浮かべるクレイグと、焦った様子のエレスを見ても真治は冷静であった。
「ああ。だが、これはアルバートからの直々の頼みでもあるんだ。俺が傭兵として世界各国の戦場を転々として戦い抜いてきたからこそ、サポートを頼みたいらしい」
「やれやれ……まあ、そこまで言われちゃ仕方がないか」
「オッサン!!」
人混み行き交う横浜駅の中で、エレスの諦めにも似た叫び声が響くとともに黒羽真治の同行が決まった。
To be continued...