FCOバトルステージ3
「核だと!?」
「くっそぉ、そんなもんがこの地下にあるなんて聞いてねえぞ!!」
アメリカ陸軍の中将であり、FCOの機関長でもあるアルバートですら知らないその事実を、そのFCOに所属するエージェントであるシャンベルジュ兄弟が敵から聞き取ったのはちょうどその頃だった。
となれば早く地下へと向かわなければいけないと思いつつ、立ち塞がる敵たちを倒して進む兄弟だが、まだ主犯の男の姿は見えないようである。
「こちらグルナ。そういうわけだから、内部の分析をもう少し頼みたいんだニコライ!」
『言われなくてもすでにやってるよ!! でも、分析がなかなか上手くいかないんだ!』
オペレーターのニコライの話では、分析をするためにこのマーケットの上空に飛ばしたドローンの映像や音声が乱れに乱れて、とても分析できたものではないのだという。
やはりこれも能力犯罪者がこちらの分析を妨害しているとみていいだろうが、音使いの犯罪者がそんなことができるのだろうか?
もしかしたら複数の能力を持っている人間なのかもしれないので、とにかくその犯罪者を見つけるべく更に先へと進む兄弟。
だがその途中、誰かが言い争っているような声がどこからか聞こえてきた。
「おい、誰かいるぜ?」
「そうだな。先走るなよ兄さん」
「わーってら」
そう言いながら進むカルマンに続いてグルナも声の方へと足を進めるが、どうやら声の主は少なくても三人はいるようである。
まだ生き残っているFCOの人間がいるのか、もしくは敵なのか。
その答えは、声が聞こえてくる曲がり角の向こう側を窺ってみればわかることだった。
「……おいグルナ、あれ!!」
「あれは……荒巻!?」
恐れていたことが現実になってしまった瞬間である。
まさか自分たちの目の前で、日本人の知り合いである荒巻隼人が敵に捕らえられて連れ去られようとしているなんて。
当然シャンベルジュ兄弟もこのまま黙って見逃すわけにはいかないので、彼を連れ去ろうとしている敵たちに向かってそれぞれ炎と熱の能力で足止めをしようとした……のだが。
「ぐっ!?」
「うおっ!?」
敵たちの中に風の能力を使う犯罪者がいるらしく、その犯罪者の手によって吹っ飛ばされてきた大型冷蔵庫が二人に襲いかかる。
とっさに物陰に飛び込んで直撃を回避した兄弟だったが、その隙に隼人が敵に連れ去られてしまった。
もちろんシャンベルジュ兄弟も敵を追いかけるが、すでに兄弟の情報が敵の間に広まっているらしく、足止めのために次々に敵が出てくるのでキリがない。
「くっそぉ、どけーっ!!」
「兄さん、危ないっ!!」
炎の能力で敵を蹴散らしながら進むカルマンだが、突っ走りすぎて危うく敵の待ち伏せに引っかかる寸前だった。
それをグルナがカルマンの後ろでまとめている赤毛を引っ張って強引に止めることで、何とか冷静さを取り戻させようとする。
「あっだだ!? 何すんだよグルナ!!」
「少しは落ち着くんだ!! 知り合いが連れ去られて慌てるのは私も同じだが、こういう時こそ冷静になるべきだろう!!」
「そーだけどよ、地下に核があるとかって話なんだしここは一気に薙ぎ倒すべきだろうが!!」
弟は基本的に冷静沈着でクールな性格ではあるのだが、時折り兄を止めるためにこうした荒っぽい行動に出ることがある。
双子だからなのか、根本的な性格はそこまで変わらないようなのでカルマンはたまにグルナのことを恐ろしく思ってしまうのだ。
そんなやりとりがありつつも、やはり兄弟だけあってコンビネーションは抜群であるこの二人は今までの経験や知識を活かして確実に地下へと進んでいく。
しかし、音使いの能力犯罪者はそんな二人を窮地に追い込む戦法を用意して待ち構えているのであった。
「グルナ、どーやらあそこみてえだぜ」
「そうだな。しかしこんなに広くて人も大勢のマーケットの地下に、まさかこんな施設を造っていたなんて……」
どうして人目につきやすい場所を選んだのだろうかと顎に手を当てて考えるグルナだが、兄の方が先に納得できる答えを導き出したらしい。
「そういう場所だからじゃねえのか?」
「えっ?」
「だってよぉ、人目につきやすいっちゃつきやすいけど、ここは毎日大勢の人が出入りしてんだろ? だったらちょっと怪しいものを持っているような奴らが出入りしてたって、誰もいちいち気にする奴なんかいねーんじゃねえの?」
兄の答えに弟がハッとした表情になる。
「それも……そうか」
「だろ? だからこそこうしてコソコソやってたのを今までこうしてバレずにやれてたってことになるぜ」
納得したところで、いよいよ敵の本拠地である地下へと乗り込んでいくシャンベルジュ兄弟。
隼人が目の前で敵に連れ去られてしまったのを見てしまった以上、このまま放っておくわけにはいかない。
そもそもこれだけの能力犯罪者を従え、地下にこれほどの規模の施設を造り、挙げ句の果てに核がどうのこうのとどんどん問題が大きくなっている以上、絶対に軽い話ではないと兄弟は二人とも考えていた。
「あそこだな……」
「んー、俺でも強行突破はできねえって躊躇しちまうぜ」
地下を進んでいた二人はとうとう最奥までやってきた。
場所としては地上の駐車場に近い場所らしいのだが、確かにそこであれば核を運び入れるのも運び出すのも楽といえば楽そうである。
そしてその第一歩としてこのマーケットを破壊して、世間の注目がこの破壊活動に向いている間に運び出す作戦だというのはわかるのだが、自分たちが何としてもその計画を阻止してやると意気込んで、シャンベルジュ兄弟は天井までの高さがやけに高めに造られている地下施設の最深部の空間までやってきた。
そこはさながらちょっとした体育館並みの広さであり、これなら確かにあれだけの部下を一堂に集めたり、核を製造するための敷地としてはピッタリだ。
そしてその最奥部には、この事件を引き起こしたのであろう黒ずくめの碧眼で痩せ身の男と、その男の部下二人に捕らえられている隼人の姿があった。
「隼人っ!?」
「お前たち、もう逃げ場はないぞ!! 速やかに降伏しろ!!」
その現状に驚きを隠せないカルマンと、鋭い声で主犯格の男に向かって降伏の警告を出すグルナ。
しかし、もちろんその主犯格の男がこれで降伏するわけもなく早速反撃に出る。
「嫌だね。おい、そいつは向こうに連れて行け。そしてここでお前らもくたばっちまえよ!!」
「うっ……!?」
そう言いながら、男が右腕を胸の前から円を描くように素早く振ることによって突風が吹き荒れる。
どうやら風使いの能力者なのは確かなようだが、それにワンテンポ遅れる形で今度は左腕を胸の前から外に向かって勢いよく振る。
突風に負けないように姿勢を低くして防御態勢をとるシャンベルジュ兄弟は、左腕から繰り出される能力に文字通り耳を疑うことになった。