FCOバトルステージ2


「おーし、こっちは大体片付いたぜ」

「私の方も終わったぞ。しかし……今回の主犯は風使いではなさそうな気がするな」

「俺もそう思う」


シャンベルジュ兄弟は、能力犯罪者たちの掃討を進めながらマーケット内部を進んでいた。

この現地に赴いた他のメンバーたちのほとんどはやられてしまったらしいのだが、生き残っているメンバーたちの話によれば、確かに風使いの能力犯罪者もいたことにはいた。

しかしそこからもう少し話を突っ込んで聞いてみると、どうやら能力犯罪者たちをまとめ上げているリーダー格の碧眼の男はまた違う能力を持った犯罪者らしい。


「短く切った金髪に痩せ身の碧眼の、黒ずくめの格好をしている男だという話だが、その男は地響きのような音を使って攻撃をしてくるらしい」

「げぇ、それって音使いの奴かよ? まーた厄介なもんを能力として持ってんだな」


今まで集めた情報をまとめたグルナの言い分に、兄のカルマンは明らかに嫌そうな表情を隠せない様子である。

風使いだけでも厄介なのに、音を使って攻撃してくるとなると即席の耳栓がいるだろう。

世間では「音が武器になるのか?」という疑問もよくあるのだが、音は空気の振動によって伝わるものなので、地響きのような音であれば窓ガラスを何枚も同時に破壊したり、人間を吹き飛ばすことだってできてしまうのだろう。

それに耳栓で対抗できるだけの音のボリュームなのかすらもまだわかっていない上に、耳栓をしたまま戦うのは敵の接近に気づくのが遅れる危険性も高まってしまう。


「音使いの犯罪者となると、まるで私たちのかゆい所に手が届かないような戦い方をしてくるのが多いからな」

「そいつ見つけたら遠くから俺たちの能力でちまちま攻撃するしかねえかもな。フラッシュパンとかあっても、そいつの音に音がかき消されちまえばアウトだ。遠距離でも音の力ってすげえからなあ」


とにかく、これだけの広さのモールをここまで破壊してしまうような能力犯罪者なのだし、なかなかの数の仲間たちを引き連れていることからもわかる通りそれなりの影響力のある男のようなので、厄介なのには変わりなさそうだ。

シャンベルジュ兄弟は自分たちだけで対処し切れるか不安な気持ちがありながらも、こうして自分たちが派遣されたのだからやるしかないという気持ちを持ち、とにかく先に進むしかなかった。





(これじゃ移動したくてもできないな……)


一方の隼人は能力犯罪者たちに見つからないように移動を続けていたのだが、それもここまでのようであった。

駐車場に一番近い出入り口付近には、明らかに大勢の能力犯罪者たちが見張りとして立っているのだ。

かなり奥地まで進んできただけあって、逃げる方向を間違えてしまったらしいのだが、その人数の多さは隼人にある情報をもたらした。


(待てよ? こうして大勢の能力犯罪者たちが集まっているということは、僕は少しずつ敵の本拠地へと進んでいるということにならないかな?)


敵がところどころにしかいない……つまりバラけているのなら、その周辺は大して重要な場所ではないということだろう。

そして今の隼人はその反対の場所にいるわけなので、ここからもっと先に進んでいけば敵のリーダーの元に辿り着けるような気がしてならなかった。

しかし、そこは彼の冷静な判断力が足を進ませてくれない。


(待て……相手は多勢。僕は一人で無勢。戦い慣れている他の四人ならともかく、僕は戦いに関してはど素人もいいところだから無理だ。いや……)


戦い慣れている四人がここにいたとしても、相手がどんな能力を持っているかもわからない以上、勝てる確率もさっぱりわからない。

だとしたらやはり、ここはそっと敵に見つからないように動くしかなさそうだ。


(FCOの人たちも動いているみたいだけど、ところどころでFCOのエンブレムを着けた人が倒れていたから、成果は余りよろしくない気がする……)


これだけの能力犯罪者が暴れているため、何かしらの理由があってこのマーケットを襲っているはずだ。

単純に暴れたいだけの理由で、ここまでこのだだっ広いマーケットを破壊する理由が隼人には思いつかない。


(僕が仮にこの事件の主犯だとしたら、何か目的を持ってここを襲うはずだからな)


実際、このマーケット以外にはシアトルに被害は出ていないみたいなので、やはりこの能力犯罪者集団にはここを襲う目的があるはずだ。

それは一体何なのだろうか?

あいにくシアトルの人間ではない隼人だが、ここのことを色々と情報収集するだけでも何かが違うかもしれない。


(とりあえず僕の車まで行けば何とかなるはずだ!!)


抜き足、差し足、忍び足のNINJA・STYLEで敵に見つからないように移動を続けていた隼人だったが、その時ふと前方に敵の姿を三人発見して身を隠す。

やっぱり迂闊に動けないじゃないかとかぶりを振る隼人だが、その敵たちの声に移動することを忘れてしまうほどの衝撃を受ける。


「でもよぉ、本当にこの下に造ったのかよ? 核の製造現場」

「そうみたいだぜ。俺たちは新入りだからよく知らされてねえみてえだけど、何でも古いどこかの軍隊の残党だか何だかが、アメリカ軍にもバレないように極秘裏にこうして核の製造ができるっていう工場を造ったんだってさ」

「それはいいと思うけど、じゃあここをこんなに破壊する必要なんてなくない?」


核の製造が可能な場所が、この地下にある?

しかも三人のうちの一人が、自分が聞きたかったことを会話の中で上手く出してくれてますます会話に聞き入る隼人。


「それがさー、リーダーの奴が肝心の出入り口がわからねえんだってよ」

「何だよそれ。ちゃんとそこも情報収集しておかないとダメじゃん。それで出入り口は見つかったの?」

「まだ見つかってないらしいから、手当たり次第に破壊して探してるんだってよ」


そうか、だからこんなに内部がメチャクチャに壊されているのか。

その理由がわかっただけでも大きな収穫なのだが、この事実をFCOに伝えないわけにはいかない隼人は何としてでもここからの脱出を試みる。

まさかそんな事態になっているなんて……と思いつつ立ち上がった彼だが、非常にタイミング悪くそばに置いてあった椅子の、これまた上に置いてあるガラスのコップを落として割ってしまった。


(あっ……!?)

「ん、何だ?」


当然その音は三人の敵の耳にも聞こえ、隼人はとんでもない状況に陥っていく……。


次の話

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