FCO de 逃走中! 中編
「……!!」
反射的に斜め前方へと駆け出す隼人。
しかし本家のハンターと間違えてもおかしくない、大きめのサングラスで目を覆いオールバックの黒髪という容姿で無表情のまま追いかけてくるブラックバーンは、隼人に強烈な威圧感と恐怖感を覚えさせるのには十分だった。
(まずいまずいまずい!!)
フェンケルとのタイマン勝負でもわかる通り、運動はそこまで得意ではない隼人は後ろから物凄い速さで迫ってくる足音に、顔のそこかしこがひきつりながら泣きそうになっている。
何とかしてどこかに身を隠せれば……と思っても現実は非情なものであった。
「……ああっ!!」
「……」
「あー、本家の逃走者の人たちの気持ちがわかるよ……これは怖いって!!」
悔しさと納得感で支配されている隼人を一瞥し、ブラックバーンは無表情で無言のまま残り三人の確保へと向かっていった。
「……えっ、荒巻隼人確保!?」
「もう二人捕まっちまったのか……これやばくないかな、だってまだ残り三十三分もあるんだぞ!!」
そう、仁史と隼人が捕まってしまって愕然とする真治とスティーブのいう通りゲームはまだ三十分以上も残っているのだ。
その中で、渡辺だけは施設の間にある植え込みの中に上手く姿を隠していた。
(最終的に逃げ切ればいいんなら、こうして隠れ続けてればいいんだからな!!)
ゲーム終了まで隠れ続ける選択肢を選んだ渡辺は、じっと息を潜めて時間が過ぎるのを待っている。
しかし、その作戦を中止せざるを得ないメッセージがスマホに届いた。
「……はっ?」
ミッションその三:通報部隊を振り切れ!!
アルバートの命により、十人の通報部隊となったエージェントが出現。
彼らは逃走者たちを見つけると手元の通報スイッチのついているスマホでハンターエージェントに位置を知らせる。
通報部隊を阻止するためには、本部広場前エリアに設置された二つの出入り口を封鎖し、別のエリアに逃げること。
ただし、封鎖された時点で別のエリアにいなかった場合はその時点で強制失格となってしまう。
「くそ……隠れ続けて逃げ切るってのは無理か……」
渡辺はガシガシと頭をかいて苛立ちを隠せない。
そしてこのミッションを考えたグルナは、残っている三人の逃走者たちが動いていることに満足感を示していた。
「機関長、侵入者たちが動き始めました」
「よーし、だったら別のエリアに追い込んで一気に捕まえるぞ!!」
俺たちにケンカを売りにきたことをたっぷりと後悔させてやるぜ、と意気込むアルバートの考え通り、通報部隊こそ配備しているものの実はここでは本気で捕まえるつもりはないハンターエージェントたち。
なぜならこれもアルバートの命として、なるべくゲームが長く続くように仕向けて欲しいとエージェントたちに通達が出されているからだ。
「普通にゲームが終わっちまったら面白くねえだろ?」
「……本当に侵入者が来た時のことを考えての訓練も兼ねておきながら、その発言はいかがかと」
「心配すんなってグルナ! 俺たちは最強の特殊機関FCOだぞ? 俺たちが負けるはずがないっての」
「はあ……」
やけに自信たっぷりなアルバートを見て、グルナは不安を覚えていた。
もし……万が一のことがあるかもしれないと。
そんな不安を覚えるグルナなど知る由もなく、渡辺とスティーブと真治の三人は別のエリアへと脱出を図る。
ここで大活躍したのが真治だった。
「お前はお助けキャラなのか」
「そうだ。何か助けて欲しいことがあれば遠慮なく申し出てくれ」
バルドゥールとは違い、本当のお助けキャラとして自分に付き添っているロベルトを使わない手はない。
ならばと真治は彼の力を借り、一足先に別のエリアへと脱出を図ろうとしたが……。
「……!!」
見つかった。
遠くから駆け出してくるのは、足技使いでエージェントたちの中でもエースと言われるほどの実力の持ち主であるクレイグだった。
大柄なその体躯が全速力で駆けてくるのを、怖いと思わない人間はいない。
追われる立場であればなおさらである。
そこでロベルトと一緒に駆け出した真治は、彼にクレイグを足止めしてくれるように頼む。
「あいつを足止め頼む!! 別エリアにはどこに行けばいい!?」
「そこの路地を突き当たって右に行けば、別エリアへの出入り口がある」
「恩にきる!!」
ロベルトがクレイグに体当たりをして足止めをしてくれている間、真治は路地を駆け抜けて一足先に別のエリアへと脱出。
エリア同士を繋ぐ金属製のドアを閉めて鍵をかけ、鎖で完全に封印して何とか逃れることに成功した。
「はー、ふぅ……」
これで失格は無くなったと胸を撫で下ろす真治。
しかし胸がドキドキしているのは彼だけではなかった。
(くっそ、見つかった!!)
隠れ続けていたのが仇となり、心臓をバクバク言わせながら全力疾走で逃げているのは渡辺。
隠れていた場所から用心して抜け出て、スマホのマップを参考に別エリアへの脱出を図っていた矢先、通報部隊のエージェントたちに見つかってアプリで位置情報が知らされる。
そんな彼を追いかけてきているのはフェンケルだった。
しかもこのフェンケル、意外と足が速くグングンと渡辺との距離を詰める!!
(うっわ、嘘だろ……!?)
渡辺は全力疾走を続けるものの、さすがに2023年の今年で56歳の身体には堪える。
それでも息を切らしながら、何とか隣のエリアに飛び込むべく走り続けていた渡辺に悪夢の報告が。
「……おい、すでに失格だぞ」
「へ?」
後ろから追いついたフェンケルに肩を掴まれた時点で失格になったのかと思いきや、どうやらその前にスティーブが別エリアへの脱出を済ませたらしく、渡辺はここで強制失格となっていたらしい……。
それをスマホのメッセージとフェンケルからの通達で知った渡辺は、両手で頭を抱えて地面にガックリと両膝をつき空に向かって叫んだ。
「スティーブ……裏切ったなああああああああっ!?」
その渡辺を別に裏切ったわけでもないスティーブは、真治とともに無事に別エリアへと逃げおおせていた。
「渡辺亮失格……あいつ、逃げきれなかったか……」
まさかそれが自分のせいだとは思ってもいないスティーブだが、それよりも考えなければならないのはすでに自分と真治の一緒に戦場で戦った経験を持っている二人だけとなった。
どう考えても残り三十分を自分たちだけで逃げ切るのは非常に厳しい戦いになりそうなのだが、時間は嘘をつかないので二人だけで何とかするしかないのだ。
支給されているスマホにはそれぞれの逃走者同士で連絡が取り合えるように連絡先が記録されているので、ここでスティーブは真治に連絡を入れる。
「真治か?」
『……どうやら無事なのは俺とお前だけのようだな。とりあえず後三十分だから何とかしなければな』
「ああ。しかしこの後の展開がまるで予想がつかん。でもまさかこのままミッションもなしに三十分逃げ切れ……とはならないと思うがな」
『俺も同感だ。とりあえずお互い無事に逃げ切ろう』
「ああ、気をつけろよ」
そこで通話を終了したスティーブの予想通り、これでミッションは終わりではない。
この別エリアは運動場や体育館といったレクリエーション施設が立ち並んでいるのだが、そのどこに身を隠すべきかスティーブも真治も迷っていた。
だが、五分ぐらいは特に何もない状態で周囲を警戒しながら歩き回る状況が続いて残り二十五分になった時、スマホに新たなミッションが入ってきた。
それはこの敵対シナリオの中で、また随分と過酷そうな展開が予想されるミッションだった。
「……今度は屋内か……」
ミッションその四:FCOの本部へ強行突入せよ!!
違うエリアに隔離された君たちだが、このままでは埒があかない。
内部の機密情報を奪うべく、アルバートの待つ本部最上階の機関長の執務室まで逃走しながら突入し、機密情報を奪取せよ!!
「本部に突入か。確かにそれっぽいミッションだが、もうお助けキャラのロベルトもいないしな……」
クレイグを足止めしてもらうために、真治はロベルトというお助けキャラを失ってしまった。
となればここからは自分とスティーブだけでどうにかするしかないようだ。