FCO de 逃走中! 前編


そのころ、本部のアルバートたちは施設内の至る所に仕掛けられている監視カメラで彼らの位置関係を把握しながら、自分たちの考えたストーリーをスタートさせようとしていた。


「よし、ゲームが始まった。グルナとライユンにはいろいろとあの五人の分析を頼むぞ」

「かしこまりました」

「ふむ……あの方たちがどこまで逃げられるのかは見ものですねえ」


五人のデータを取るべくグルナとライユンが記録を始めたところで、早速一つ目のミッションが発動される。

……メッセージだ……。


ミッションその一:FCO内部の監視カメラを止めろ!

君たち五人はFCO内部に潜入して機密情報を盗むために潜入する。

しかし潜入するFCO本部では監視カメラが全部で十台作動中。

カメラに映ると監視しているニコライとエレスからハンターエージェントに連絡がいき、位置情報でばれてしまう。

カメラを止めるには印がついている場所にあるカメラ用の非常電源ケーブルを引っこ抜くこと。


「いきなりハードなミッションだねこれは……」


本音をぼやく隼人。

メッセージとともに送られてきた地図には、監視カメラの位置が青色で、電源の位置が赤色で表示されている。

しかしあいにく、今の彼がいる所は電源からかなり遠い上に体力も他の四人と比べて余り自信がないので、ここは他の四人の誰かに任せることにした。


「俺が一番近いから俺が行こう」


そう呟きながら、果敢に電源へと向かって進むのは仁史だった。

電源まではおよそ二百メートルだが、その間には監視カメラが一台ある。

さらにその近くでは、黒の短いマントを羽織っているハンターのカルマンが接近している……。


(嫌な予感がするけど……でもいくしかない!!)


周囲では色々な格好をしているFCOのエージェントたちが、普段と変わらない様子で談笑に興じていたり運動場でサッカーをしたりしている。

その中で自分は身を屈めながら監視カメラをやり過ごし、電源に向かっている何とも滑稽な状況だ。

それでも何とか監視カメラをやり過ごした仁史は、目的の電源盤の元へと辿り着いた。


「これか!! よし、えーと……こうだな!!」


監視カメラを全て一気にシャットダウンさせるつまみをオフに切り替えたその瞬間に、十台の監視カメラが一斉に停止した。


「よし、これで監視カメラが停止したぞ……え?」


電源盤を操作してミッションをクリアし、一息ついた仁史の肩に何かが乗っかる。

それは……。


「はい、ここまでな」

「はっ!?」


仁史が振り返ったその視線の先には、自分の右肩に左手を置いている……ハンター役のカルマンの姿だった。

ミッションを成功させて油断してしまった谷本仁史、確保……。


「こ、これで俺終わり? というかハンター役だったら喋らないんじゃないのか?」


どうでもいいことまで考えてしまいながら、結局本部の中にある捕獲者用ルームまで連行されることになってしまった仁史だが、彼の残した功績は大きい。

そう……逃走者たちにより、FCO施設内の監視カメラを全てつかさどっている電源が落とされてしまった。

その結果、システムを管理していたニコライは突然監視カメラの電源が全て落ちてしまったことで違和感を覚える。


「んん? ……ったく、電源いきなり落とすとか、手荒なんだよなぁ」


いろいろとシステムを調べてみるもののエラーが見つからない。

これはもしかすると、外の電源が抜かれてしまったのかもしれないと考えたニコライは、隣で一緒にカメラの映像を監視してもらっていたエレスに、電源のあるパネルを見てきてもらうように指示を出した。


「なーんか怪しい奴らが入ってきてるって話みたいだから、ちょっと見てきてくれよ」

「何で俺が……わかったよ」


その様子を一緒に見ていたアルバートは、自分の機関に加入してくれているエージェントたちを使って作戦を考えた。


「ほーう、カメラの電源落とすとはやるじゃねえか。ってこたぁ、こっちは精神的にやってやっかな」


FCO内部でも侵入者たちに対しての情報が駆け巡り始めているころ、仁史確保の情報が他の四人のスマホに届いていた。


「……谷本仁史確保……おいおい、早すぎるだろ」

「ミッションクリアして油断したかな? 俺も気をつけなければ……」


これでハンターたちと自分たちの人数が同じになってしまい、残り時間は五十三分。

仁史が捕まってしまったことで警戒心を高める四人の元に、またメッセージが届く。


ミッションその二:裏切者エージェントを見つけろ!

五人の逃走者に協力するふりをしているエージェントを見つけ、通報を阻止しろ!

そのエージェントは五人を本部に連れてくるという命を機関長アルバートから受けているため、本部に連れていかれると強制失格の事態に。

そのエージェントは背中に「FAKE」と書かれた青いマントを着込んでいる。

ただし、協力者のエージェントは全員青いマントを着用するので、見つけるのは至難の業だ。


「え……騙し討ちみたいなミッションだね」


何だかんだでボヤキの多い隼人だが、裏切り者エージェントを止めるためにはそのエージェントを本部まで誘導して、そのままエージェントだけを本部に押し込んで逃げるしかないという。

一歩間違えば自分まで捕まってしまうことになるので、リスクの高いミッションだが誰かが行くしかない。

それで動き始めたのはこの男だった。


「強制連行なんて戦場でも嫌だって……」


スティーブとともに戦場での経験が豊富な真治が、偽協力者を炙り出しに向かう。

ただし、周囲で雑談をしたりカフェテラスで食事をしているエージェントたちも偽協力者の可能性があるので、自分たちがそのエージェントを捜し出すのはなかなか至難の業であろう。

……と考えていた矢先、一人の青いマントを羽織ったエージェントが彼に近づいてきた。


「そこのお方、何かお困りかな?」

「あれ……お前は確かロベルト?」


青峰の相棒であるロベルトが真治に近づいてきた。

協力してくれるエージェントらしいが、マントに書かれている文字があれば偽者ということになる。

となればまずはその確認をしたいのだが、ロベルトも器用に背中を見せないように頑張ってみる。


「どうしたんだ? 私の何が気になるんだ?」

「……まあちょっとな。それよりも俺たちに協力って?」

「ああ、真治殿たちはFCOの機密情報を集めるんだろう? 実は私もFCOに不信感を持っていてね……だから真治殿に協力しようと」


本部のことは私の方がわかるからな、というロベルトの真意は果たしてどうなのか?

真治が警戒心を剥き出しにしているころ、別の場所では本部に向かっている男が二人。


「助かりますよ。まさか僕たちに協力してくれるなんて」

「これも仕事だからな。それよりも傷は大丈夫なのか?」

「傷跡は残っているけど、今のところは平気ですよ」


隼人が白衣の上から青いマントを羽織ったバルドゥールに連れられ、本部へと向かっていた。

どうせ本部に連れて行かれるのであれば、無理に背中のマントを確認しなくても、本部に連れて行かれた時点でそのエージェントが偽者の協力者だとわかるからだ。

五人の中で力は最低だが、その分理論的に考える頭を持っている隼人はこのバルドゥールが偽者の協力エージェントだと確信していた。


(……やっぱり……)


協力してくれるのであれば自分の言うことを聞いてくれるはずなのだが、なぜかこのバルドゥールはやたらと先ほどから本部に連れて行こうとするのだ。

ならば……と隼人はハンター役のエージェントが来ないか注意しながらつまずいて転んだふりをする。


「うわあっ!?」

「おいおい、大丈夫かお前さん?」

「ああ……平気」


バルドゥールに肩を貸してもらい、もう大丈夫だとやや力任せに押しのけながら彼の後ろをちらりと覗いてみると……。


(あ、やっぱりそうだ……)


マントには大きめの黒い文字で「FAKE」の刺繍が入れられている。

だったらとここは従順に本部まで連れていかれることにして、隼人はバルドゥールとともに本部の建物の出入り口へとたどり着いた。


「さぁ、中に入ってくれ」

「うん……あれ?」

「どうした?」


このまま入ってしまえば自分は強制失格になる。

ならばとバルドゥールの肩越しに指をさし、疑問の声を上げる隼人。

すると本能的にバルドゥールもその指の方向を向くので、斜め後ろを進んでいたバルドゥールを両腕で抱きかかえて一気に持ち上げ、外と本部の出入り口との境目でおろして中に向かって突き飛ばす。


「うおおおっ!?」

「悪いね、まだ捕まるわけにはいかないんだ!!」

「……はは、やられたなこれは」


医師として天才的な実力を持ってはいるものの、戦闘能力がないということで自分でも何とかなる相手だと考えた隼人の作戦勝ちである。

これでミッションその二もクリアしたのだが、ふと顔を上げた隼人の視界に飛び込んできたのは、自分に向かって駆け出してきたブラックバーンの姿だった……。


次の話

HPGサイドへ戻る