Erudin Battle Quest第2部第9話


「財布持ってたじゃない、おっさん・・・今すぐ金があるかどうか見てくれればいいじゃん。」

明らかに自分に払うつもりがない男の素振りにリスタン火山も活動を始めた。

同時に床に描かれた魔法陣の形を見ながら、頭の中で記憶している魔法陣の種類と照らし合わせてみる。

ところがリスタンの頭に入っている魔法陣はどれも型が一致せず、その苛立ちに火山活動が盛んになっていく。

魔法は得意なリスタンも魔法陣となれば話は別で、物体に円や直線を描いて発動させるものはあまり興味をそそられなかったのだ。

「えーと、こんなのしか無いけど良いの?」

博人は自分の財布の中に入っている5000円札や100円玉を見せる。

しかし男の表情がどんどん曇っていく。どうやら地雷を踏んでしまったらしい。

「ってか、俺の持っている金はこれだぜ? この世界の金とは違うんじゃねぇの?」

もうどうにでもなれやとうんざりした口調で博人が呟くが、それが更に男の火山活動を加速させてしまった様だ。


「おままごとの金じゃないっつの・・・ガリッドよこせって言ってんだよ!」

軽く噴火したリスタン火山から燃えさかる岩石がいくつか男の足元に突き刺さっていく。

地面に弾かれた岩石の1つが魔法陣へころころと転がっていき、描かれた陣の中へ触れた瞬間、魔法陣がうっすらと光を帯びた。

リスタンは怒りのあまりその現象に気付く事無く男を睨みつけていた。

「この世界がどうとか意味不明な事言ってないでさっさと寄越せ!俺が怒られるんだよ!」

「だっ、だからぁ、俺、しらねーって!!」

ひとまずここはまた逃げるしか無いと思い、博人は男を押しのけて勢いを前転で殺し、そのまま近くにあった階段を上がって

3階部分へ。そこもまたさっきと同じ様に屋上部分になっており、後ろから追いかけて来た男の魔法攻撃を前転でかわしながら

積み上げられた石のブロックの上で男が突っ込んで来た所で三点倒立をしてかわし、そこから男の頭を両足で蹴り潰す。


そこで男が怯んだ所で、今度はダッシュで屋根の骨組みの上に登る。当然男も追いかけて来るがそんな男の頭を博人は

骨組みにしがみつきながら蹴り飛ばし、更に逃げる。

「こっち、こっちだよーっ!!」

男に蹴り飛ばされ、骨組みの柱から落ちそうになったリスタンは両手で柱へ必死にしがみつく。

床まではかなりの高さな為、打ち所が悪ければ命を落とす可能性も少なからずある。

「くっそ・・・あのおっさんめ。」

ようやく骨組みへ立ち上がる事が出来たリスタンが周りを見渡せば、既にオレンジの髪色の男は消えていた。

リスタンは耳を澄まして男の足音を探す。

いつもの眠たそうな半開きの目は父親譲りの鋭い目に変わり、獲物を探していた。

屋根の骨組みを下っていき、地面へと着地したリスタンは障害物をしらみつぶしに火球で破壊していく。

足音が聞こえないのは何故なのか、少し考えれば理解できた。

「出てこないと死ぬぜおっさん!金返せ!」

崩れた瓦礫の上をわざと音を立てながら歩き、リスタンは獲物が飛び出てくるのを待っていた。


(ああー・・・もう終わりにしてぇ・・・・)

何とか男の視界から消えた博人は、男の死角にあるブロック塀の陰に隠れていた。

こっちからも男は見えないが、足音が近付いてくればそれだけで分かる。

(こっちくんなよ〜・・・!!)

とにかく今は、極限まで息を潜めて気配を殺すしかなかった。

近くで爆発が起こるが、博人はそれでも極限まで息を潜める。

実際の所、この状況で自分が見つかる確率はどちらかと言えば低くなっている。

何故かと言えば、爆発の音にプラスしてその爆発で破壊された地面や壁が崩れる音が響く。

更に瓦礫となったその地面や壁の上をあの男が歩く事でガチャガチャとうるさくなる。

(はっきり言えばただの自業自得、自滅、自爆だ。その証拠に俺はここから動いてないのに、勝手にどっかに行っちまいやがったぜ)


静まり返った瓦礫の山の上に佇み、リスタンは頭を掻いた。

自分の考えは間違っていたのだろうか・・・これだけ脅しをかけても男がどこからか飛び出してくる気配は無い。

だとしたらあの男お得意の俊足で、もう階段を駆け下りていったのかもしれない。

リスタンは違和感を覚えながらも男の後を追うべく階段を下りていった。

もしこっちに男が逃げていたとしたら、自分の足では到底追いつけないとリスタンは舌打ちをする。

(はぁ、何とかやり過ごしたみてーだな・・・)

博人は男の足音が遠ざかって行くのを気配で感じ、やれやれと首を横に振って息を吐く。

だがまだ男が近くにいる可能性は高いので、用心するに越した事は無い。

・・・・だがその時、博人はあることを思い出して用心しながら足を男が過ぎ去って行った方向とは反対側に進めて、遠回りで

あの魔法陣があった場所まで戻ることにする。

(確かあの時・・・俺があいつから火の玉で攻撃された時、一瞬だけあの魔法陣が光ってた様な・・・)


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