Erudin Battle Quest第2部第8話
「まぁた逃げたよもう・・・!」
鼠のように素早く逃げていく男を追いかけるリスタン。
相変わらず男の足は速く、男とリスタンの距離は縮まらず広がっていく一方だった。
「おい財布持ってんじゃんかー! 野菜と魚代返してよー!」
まだ姿が見える内にその男に向かって叫んだ。
後ろから何か声が聞こえて来るが、博人は振り返らずに屋上から1階下に向かって飛び降りる。
なんせ、あんな炎の魔法を使う様な人間がまたここに現れたと言う事は・・・・。
(俺・・・・殺される!?)
だったらここはまた逃げるしか無いと思い、再びこのガレージの中を目指す為に今度はガレージの屋根の骨組みを足場にして逃げる。
器械体操の平均台の要領で、そのまま必死に博人は逃げて行く。
屋根の上をすいすい移動していく男を屋上のへりから眺め、リスタンは茶化すように口笛を吹いた。
「すげぇなあのおっさん。」
しかしこのまま眺めていたのでは代金を請求出来ずに逃げられてしまう。
リスタンは惜しみながらも屋上から階段を下って男が向かっていったガレージへと向かった。
階下からは既に煙が上がってきていたが、体内に煙が入らないよう体に風を纏い歩を進めていく。
「なっ、何だよこれ・・・」
すでに火の勢いが結構強くなっている。しかし後ろからはあの男が追って来ている。
なるべく煙を吸い込まない様に体勢を低くしながら、博人は屋上から見えた別棟の方へと突っ走る。
あっちには何かがあるかもしれないと言う自分の直感だけを信じてそこへと向かう。
そしてそこへと飛び込み、あの男が追ってきていないか確認しながら更に足を進めて行くと、今度は色々と廃材や
船のパーツ等が置かれている大きな部屋があった。
もはや火の海になっていたガレージの中はいつ崩れ落ちても
おかしくはない状態だった。男を追いかけてきたがその気配は掴めないし、ここに息を潜めて隠れている訳もないだろう。
頭上から落ちてくる瓦礫を氷の球で弾き飛ばしながらリスタンはガレージの入り口から歩いて出ていく。
くるりと向きを変え、ガレージへと両腕を上げて業火の津波を起こせば、爆発音と共に建物が崩れ落ちていった。
その音は思ったより大きく、パスルタチアの街人が様子を見に来るのも時間の問題だった。
(やっべぇ・・・・)
あともう少しあそこから離れるのが遅かったら、間違い無く自分は死んでいただろうと崩れて行くガレージを窓の外に見ながら
博人は胸に左手を当てて大きく息を吐いた。
それにしてもこの場所は一体何なんだろうと思いながらも、あの男が追って来ていない事を確認して更に足を進める。
すると階段があったので上って行くと、またしても吹き抜けの場所に出た。ここもどうやら2階部分らしい。
しかしその場所には色々な道具らしき物や本が散乱している。しかしそれ以上に気になったのは、床に大きく描かれている
魔法陣らしき模様であった。
パスルタチアの街人に遭遇すれば何か疑われてしまうと慌てたリスタンは、近くにあった建物の中に隠れた。
幸い身を隠せる大きな部品があちらこちらにあった為、安堵の溜め息をつく。
ところが誰かの足音が聞こえ、初めは息を潜めていたリスタンも音の聞こえた方へ駆けていく。
「絶対あいつだ!」
今度こそ追い詰めて代金を請求しなければ、リスタンに雷が落ちてしまう。
「何だこりゃ?」
もしかして、ここの集団の怪しい術式がどーたらこーたらと言うのは恐らくこれの事なのかと博人は考える。
そしてこの魔法陣が何かに使えるのでは無いかと思いもしたのだが、いかんせん自分は魔法には疎い。
例えばこれが自分の知り合いのRPG好きの合気道マイスターやシラットマイスターの死神なら
何かが分かるかもしれないが、自分はファンタジーな世界には疎いのでどうする事も出来なさそうだ。
どーすっかなーと博人が考え込んでいると、突然何の前触れも無く自分の足元に氷のナイフが突き刺さった!!
「逃げないで話聞いてよおっさん・・・駄目になった野菜と魚代、払ってくれない?」
息を切らしながら片腕を上げていたリスタンがその男の後方に立っていた。
腕をゆっくり下げ、呼吸を整えてながら自分の足元に散らばった書物やペンに目をやる。
更に男の前方の床には大きな魔法陣が描かれていて、それを見た途端にリスタンの瞼が全開になり瞳が輝く。
「何これ・・・あんたこんな魔法使えんの?」
「あーーーーっ!! 何だよテメーはよおおおお!! もう頼むから見逃してくれよ!!」
何時まで経っても自分を追いかけ続けて来るこの青髪の男についに博人の中の何かが切れた。
「それに俺は魔法なんて使えない!! そもそも俺は魔法なんて全く縁が無い!!」
それに俺は金なんか持って無いので代金は支払えない!! と大声で博人は宣言する。
するとその瞬間、男の顔つきがまたもや変化した。