Erudin Battle Quest第2部第7話
後方から顔を戻したリスタンの前から男の姿は消えていた。
「・・・えぇ、ちょっと待てよ!」
足音を追いかけて走るリスタンだったが、男の足はとてつもなく速く音すら聞こえなくなってしまった。
「何だよ人の事避けやがって・・・せっかく謝ってやったのに。」
頭をぽりぽりと掻いて、男が走っていったであろう道をリスタンはゆっくりと歩いていく。
(くっそー!! あいつしつけええええ!!)
何でここまで追って来たんだよ、としか考えられない博人だったが、そんな彼の目の前には大きな広間が。
そこは無人ではあったが、その広間の中央には大きなテーブルが置かれており、テーブルは色々な物が散乱していた。
その中で博人は、やっと自分のお目当ての物を見つけ出す事に成功した。
(あっ・・・これは!?)
間違い無い。自分の茶色の長財布だ。しかしあの男がまだ追いかけて来ているので、博人は一旦階段を上がって
窓から屋外へと上って行く。一旦ここの構造を把握する必要がありそうだったからだ。
「はぁ・・・はぁ・・・後はどうにかして地球に帰らなきゃ・・・・」
何とかして地球に帰る方法を見つけ出す為、もう1度情報収集をするしか無いのかと思う博人。
しかし、ふと彼はこんな事を思い出した。
(そう言えばこいつ等って、確か・・・・)
町の人間に聞き込みをした所、どうやらここの集団は怪しい術式の研究もしているグループだったと言う話を聞いた。
となれば何か地球に帰る為のヒントがあるかもしれない!!
燃え盛る部屋を後にし、辿り着いた無人の広間のテーブルに両手をつくと、そこに置かれた盗品コレクションを
リスタンはまじまじと見つめた。
「これ・・・ここにあったら全部燃えちゃうよなぁ。」
数分悩んだ末、広く開いた袖口へ盗品を入れていく。
パスルタチアへ戻って町長に渡せば、何かしら表彰して貰えると思ったからだ。
自分が撒いた火種のおかげで人気は無く、誰かの気配にも気を取られる事無くリスタンは広間を後にした。
このままパスルタチアへ帰って盗品を町長に渡しに行こうかと思ったが、町人達の不安げな顔が脳裏をかすめた。
頭を潰さなければきっとまたこの町のどこかに巣食うだろう。
小さい頃からお世話になってきた人達だから、曇った表情をあまり見ていたくはない。
「ふふ・・・俺も兄貴に似てきたかな。」
口角を上げながら、リスタンは建物内にいる全ての人物を排除しようと散策を始めた。
建物内の部屋を手当たり次第捜索し、隠れていた賊は全て片付けた。
後はお頭を捻り潰すだけかと思ったが、どこに隠れているのか見つけ出す事が出来ない。
隠し通路でもあるのかと壁や床を調べてもそんなものは見つからないし、人の気配も勿論無い。
「どういう事だ・・・?」
手を口に当てて考え込んでいたリスタンの頭上から物音が聞こえた。
「怪しい術式・・・って、いかにもって感じだよ。・・・・ここから見る限りでは怪しい所は無さそうだ・・・」
だとしたらまた建物の中に戻らなきゃいけないのか・・・と落胆する博人だが、それしか道が無いのだからしょうがない。
「で、でもちょっと休憩・・・」
流石に疲れたし、俺も歳かな・・・と思っていたその矢先の事だった。
足音が彼の耳に聞こえてきたかと思うと、いきなり氷の塊が彼に向かって飛んで来た!!
「うおっとぉ!?」
氷の塊かと思っていたらどうやら違ったようで、それはただのこのガレージの骨組みになってしまった部分がカケラで落ちてきただけだった。
「あーびっくりした、びびらせんなよったく・・・・」
疲れている事には変わりが無いので、もう少し休もうと壁に寄り掛かる博人。
しかしそんな彼の元に、1つの足音が迫っていた・・・・。
屋上に辿り着いたリスタンは人の気配を感じ、物陰に隠れながらその人物へ近付いていく。
壁から頭を半分だけ出して距離が近くなったその人物を覗いてみれば、オレンジ色の髪の毛が見えた。
その手には財布らしきものを持っていて、壁に背をもたれ、足を伸ばして座っている。
彼以外には誰も居ないようで、リスタンは暫くそのオレンジ色の男を観察する。
これが兄だったら幸せ極まりない至福の時間だったのにと思うと、無意識に大きく溜め息をついてしまった。
「・・・・んっ?」
屋上には自分以外誰もいないせいか、誰かが近付いてくる足音が聞こえてきた。
疲れているので余り身体を動かしたくないが、それでもまずは耳だけで情報を探ってみる。
(・・・・1人か。って言うか、もしかして俺・・・見られてる?)
そのままじっとしていても足音が動く気配はない。だったら・・・と博人は何の前触れも無く一気に屋上を駆け出し始めた!!