Erudin Battle Quest第2部第3話


世界地図で覚えた地名をひとつも発さなかった男の言葉にリスタンは再び半目になるどころか、更に目を細くして眉をしかめた。

「当たり前だろ・・・エールディン以外に何があるんだよ。」

大きく溜め息を吐いてリスタンは男へ背を向ける。

もし他の大陸からやってきたのだったら、兄の情報を知っているかもしれないと思ったが、その期待もどうやら外れてしまった。

再び買い物の続きをする為にリスタンは男を放置して商店街へ戻るため歩き始めた。

「ちょっと待ったあーーーーーーっ!!」

その場を去ろうとする青髪の男に博人は大声をかける。

「金を稼げる所を知らないか? エールディンなんて世界は知らないけど、俺、今一文無しになったんだわ。

誰かさんのせいでよ。だから金を稼げる所を教えてくれ」

このエールディンと言う世界はもう100パーセント地球では無い事が確定。

そんな異世界に放り出された博人は、金も無ければ頼れる人間もいない。この状況は相当にまずい。

なので金を稼ぐ為に男を呼び止めたのだが、次の瞬間男は恐ろしい形相で振り返った。


「うるっさいな・・・兄貴や可愛い女の子ならまだしも、おっさんとたらたらくっちゃべる趣味は無いんだよ。」

リスタンは手の平を男に向け、その先から氷の刃を数本男の足元へ飛ばした。

「大体誰かさんのせいって何だ・・・俺はあんたがぶつかってきたせいで、買ったばっかの野菜が地面に落ちて駄目になっちまったんだよ・・・!」

火山の噴火様式には爆発を繰り返すタイプもあるというが、リスタン火山はこれに該当するといっても過言ではない。

温厚な兄とは違い、リスタンは自分が興味を持たないものには酷薄だった。

「うおっと!? ・・・・・は? 野菜?」

何を言ってるんだこいつは・・・といきなり飛んで来たアイスカッターをギリギリでかわしつつ思いながらも、

思い返してみればあの時ぶつかったのはまさか・・と考える。

「す、すまん・・・だけどあの時は俺も必死だったんだ。御前はまだいいさ、この世界の人間だからな。だけど俺は違うだろ!!」

博人は自分の今の状況がもうとんでもないことになっているので、頭がグラグラして沸騰している。

「しかも俺に向かっていきなりこんなぶっそーなもんを飛ばして来るとはな。マジで何なの御前。変態か? 暇人か? そっちが

その気ならやってやるよじゃあ。かかって来いや!」


リスタンの眉間に寄った縦皺と鋭い目つきが消えて、いつもの半開きに戻る。

正直目の前の男が何を言ってるか理解不能だったが、そんな事はリスタンにとって足元を歩く蟻のようにどうでもいい事だった。

罵られても、煽り耐性の高いリスタンには何の怒りも沸いてこないが、喧嘩を売られれば容赦はしない。

それが全く興味の無い人物だとしたら尚更だ。

男が言葉を言い終える前に、リスタンは上げたままの手の先から無数の氷の刃を男へと飛ばす。

「ちっ!」

舌打ちをした博人はいきなり飛んで来たアイスカッターを横っ飛びからの転がりで避け、そのまま男に向けて灰色のジャンパーを投げつける。

それは手で弾き落とされてしまったが、博人はそれを予測済み。

「おるぁあ!」

その勢いで地面に落ちていた少し太めの木の枝を拾い、ジャンプしながら思いっきり男の頭に叩きつけて枝が粉々になった。


頭頂部からぼろぼろと前髪へ、服へと枝の破片が落ちていく。

叩かれた衝撃で顔が下に傾いてしまったが、垂れた前髪から覗いている瞳は殺気を放っていた。

着地して間もない男が体勢を整える前に踏み出し、男の腹部分へ触れない程度に手を伸ばすと、そこから突然爆発が起きた。

男はリスタンの前方へ吹っ飛んでいき、宙を舞っている最中にもリスタンの放った火球が飛んでいく。

頭についた枝の破片を左手で払いながら、リスタンは叩かれた箇所に回復魔法を施す。

「ぐふっは!!」

ファイヤーボールが空中に舞った自分の身体のそばを掠めて行く。何とか空中で身体を捻って回避したが、地面に叩きつけられてしまった。

「くっそー!!」

それでもまだまだファイト続行可能。なので再び博人は男に向かう。

しかし今度はただ向かうのではなく、自分が得意とする器械体操の側転をしつつ急接近だ!!


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